第16話 これは夢ですか?

 夢を見ていた。


 あれは、僕が毎日、お父様に言われ勉強をしていた頃だ。


 泣く事も、口を開ける事も、許されなかった。


 そんなある日、屋敷のゴミ収集に子供達が来た。


 僕はその子供達にお菓子をあげた。


 毎日頑張っている彼らを励ましたかった。


 お菓子を受け取った子供達からは満面の笑顔で感謝された。



 ――しかし。


 その事を知ったお父様は、僕ではなく、子供達に報復をした。


 子供達は即刻クビとなり、仕事を失った。


 それを知った僕は、果てしない悲しみを覚えていた。


 同じ人じゃないか。


 寧ろ、僕達の日頃出るゴミを片付けてくれるありがたい人達だ。


 何故……何故…………。




 ◇




「はっ!?」


 僕が気が付くと、柔らかいベッドの中にいた。


 こんなベッドで起きるのも久しぶりだね。


 少しして、部屋にとある男性が入って来た。


「やあ、起きたかい? 身体の調子はどうだい?」


「はい、どこも痛くないです」


 そう言うと、男性は優しく笑ってくれて、温かいスープを差しれてくれた。


「あの……ごめんなさい、僕お金とか――」


「全然気にしなくていいよ、それに既に代金・・なら貰ってるから」


 既に代金を貰っている?


 どういう事なんだろう?



 お腹が空いていたのもあって、温かいスープがとても美味しかった。



 そうか……、僕はヴァレン町からギャザー町に来て、ああなったんだな……。


 どうしてこんな事になったんだろう……。



 あれ? そう言えば、僕はされたはずでは?


 刺されたはずの腹部には、一切傷がなかった。


「えっーと……」


「ん? ああ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はルーンって言うんだ」


「ルーンさん、助けて頂きありがとうございます。僕はアレクって言います」


「アレクくんね、うん、良い名前だね」


 ルーンさんが優しく微笑んでくれた。


「ルーンさん? 僕の腹の傷がないんですが……」


「ん? 僕が君を見つけたときには、傷なんて無かったよ?」


 あれ? 確か刺されたはずなんだけど……どういう事なんだろうか。



「あ、さっき代金を既に貰ってるって――」


「ああ、それならすぐに分かるさ。少し待ってれば彼女が来るはずだから」


「そうですか……分かりました」


「アレクくん、一つ聞きたいんだけど……、ゴミ山の件は君の仕業かい?」


 ゴミ山? もしかして、僕達が逃げる時に召喚したあれかな?


「家の高さくらいあるゴミ山でしたら、僕で間違いないと思います」


「そうかい……やはりか、うん。ありがとう、彼女が来たら、彼女にもそれを伝えてね?」


「?? 分かりました」


 それから、ルーンさんは温かいスープをもう一杯運んでくれた。


 優しい味がして、とても美味しくてすぐに平らげた。




 ◇




 暫くして、部屋の扉にノックの音がした。


 そして、入って来た人は――


「アレク!!!」


「アイリスちゃん!?」


 扉が開けるや否や、アイリスちゃんが飛び込んできた。


「ねえ、何処か怪我とかしてない? 大丈夫?」


「あはは、うん。全然大丈夫だよ。ありがとう」


 アイリスちゃんは小さく安堵した深い息を吐いた。


 そして、後ろにはアースさんと――


 リグレットさんだった。


「アースさん、リグレットさん、ありがとうございます」


「いや、無事で何よりだ、アレク、何があったのか聞かせて貰えるか?」


「分かりました」



 僕はあった事を全てアースさん達に話した。


 アイリスちゃんは拳を握って、怒っていた。



「――――以上が、起きた事です」


「そうか、本来なら俺がしなくちゃいけない事だったが……次期町長候補だったピエルくんに任せてみたのだが……それが逆に裏目に出てしまったか」


「……、二人はどうしてここに?」


「ああ、実はな、ヴァレン町からピエルくんの両親が消えたのだ」


「両親が消えた??」


「ああ、このタイミングで消えたとなると……考えられる事は――」


 そうか……やっぱり、最初から仕組まれた出来事だったんだね。


「更に大変な事に、シーマくんが攫われた事だ。あの子の能力は大きすぎる、今捕まってしまうと何をされるか分かったモノじゃない」


 能力『錬金術師』……、大きすぎる能力が足枷になってしまってるのか……。




「まあ、まずシーマくんとやらの情報は私が何とかするから、お前達はこのまま大人しくしてな」


「リグレット、すまない」


「ふん、緊急事態だから仕方ないさね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る