第7話 ヒロインですか?

「――――――スキル、『クリーン』」


 僕がアイリスちゃんに向かって唱えると――、


「えっ!? ちょっと!? 何これ!?」


 アイリスちゃんの身体からプクプクと泡のような光が出てきた。


 アイリスちゃんはその泡を手で取ろうとするが、泡の光は一切取れなかった。


「ちょっと! アレク! 速く止めなさいよ!」


「ええええ!? ご、ごめん! 止め方が分からないよ!」


 驚いた僕達三人がアタフタする間に、泡の光がアイリスちゃんをより一層包んだ。




「い、いやぁあああ――――――――――――――――」




 僕は……無気力にアイリスちゃんを眺めながら、泣く事しか出来なかった。


 僕のせいで……アイリスちゃんが……死――。




 ◇




 やがて光が終わり、そこには――――――。


「えっ……と? どちら様ですか?」


「アイリスだわよ! バカ!!」


 アイリス(?)ちゃんと名乗る、滅茶苦茶美人な人が僕にドロップキックをお見舞いした。


 あ……、これはきっと夢だ。


 アイリスちゃんは死――――。


「私は死んでないわよ!」


「あれ? 声はアイリスちゃんだね」


「だ・か・ら! アイリスだってば!」


「え? でも……」


「何よ?」


 今目の前にいるアイリス(?)ちゃんはの姿など、何処にもなかった。


 こんな別嬪・・さんがこんな町にいる訳ないだろう?


「えっ……と、うちのアイリスちゃんは……もっと、こう、汚――」


 言い切る前にアイリス(?)ちゃんにぶっ飛ばされて、僕は気を失うのだった。




 ◇




「――――はっ!?」


 起きると、朝になっていた。


「アレク、やっと起きたわね」


 声がした方に恐る恐る顔を向けると、いつものアイリスちゃんがいた。


「やっぱり――――夢か」


「夢じゃないわ! バカ!」


 アイリスちゃんにまたぐーで殴られて、外に出て行った。




 ◇




 いつもの僕達探索隊が集まった。


 勿論、食材探しのためだ。


 ピエルくんが小さい声で聞いて来た。


「なぁなぁ、アレク」


「ぅん?」


「今日のアイリスさ……何だか良い匂いしないか?」


「聞こえてるわよ! 全部アレクのせいなんだから!」


「え? アレク、何かしたの?」


 怒るアイリスちゃんを横目に、ピエルくんとシーマくんに昨日の事を話した。



「すげぇ!! そのスキル、僕にも使ってくれよ!」


「ちょっと! まず食材探し終わってからよ!」


 アイリスちゃんに言われるまま、食材探しを終えた僕達は、ゴミ収集仕事の時間までの間、新しいスキルを試す事になった。




「ねえ、アレク。私には絶対に使わないでよ!」


 アイリスちゃんが凄く怒っていた。


 そんなに怒らなくても……。


 それはそうと、アイリスちゃん――死んでなくて本当に良かった。


 出来れば、昨日の美――――。


「顔が嫌らしいのよ!」


 またアイリスちゃんに殴られた。解せぬ。




「スキル!『クリーン』!」


 試しにピエルくんとシーマくん、二人同時に使ってみた。


 結果は大成功だった!


 うん!


 二人とも、どんどん泡の光に包まれて、綺麗になっていった。



「おおおお! すげぇ! めちゃピカピカになってる!」


「うん! しかも体から今までした事のない良い匂いがするよ!」


 ピエルくんもシーマくんも凄くご機嫌になった。


「あれ? そういえば、アレクは自分に使わないの?」


「ん~、僕はいいかな」


「えっ? 意外だわ、どうしてなの? アレク」


 意外そうな表情でアイリスちゃんが尋ねてきた。


「なんか、綺麗になると、ここに来る前の事を思い出しそうだから。僕はこの町が好きだからね、このままでいいかな~」


 それを聞いたアイリスちゃんが、何処か嬉しそうに笑った。


 うん、いつものアイリスちゃんだね。


「まあ、でも僕は、昨日の綺麗なア――――」


 また飛ばされた。

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