いざ! 魔王の城へ!

ふさふさしっぽ

いざ! 魔王の城へ!

 いよいよ、いよいよだ。

 勇者である僕は、エターナルソードにゴッドシールドを手に入れ、最後の呪文、ロスト・ワールドも習得した。

 あとは魔王の城にいる「ラスボス」を倒すだけ。


「やっとここまできたわね、勇者! 言っとくけどね、最後の最後で負けたらただじゃおかないんだから! ……ううん、わたし、キミなら絶対勝てるって、信じてる」

 ツンデレヒロインとの告白イベントも終わった。

「長かったな。これで、俺たちの旅も終わりだ」

 闇落ちした幼馴染な親友も、戻ってきた。


 あとは、ラスボスが待つ、魔王城に乗り込むだけだ! よし、いくぞ!



「って、意気込んでたのに、なんで始まりの村にいるんだ? 俺たち」

 親友が僕に聞く。

 僕は答える。

「いや、その前にサブイベントを全部こなしておかないとね。えーと取りこぼしてるイベントは……」


「って、なんで試練の洞窟にいるの、わたし達! もうこの洞窟のボスは倒したし、試練は終わってみんなほどよい装備品をもらったじゃない」

 ツンデレヒロインがわめく。

 僕は答える。

「いや、取りこぼしの宝箱があるし」


「って、なんでカジノでだらだらしてるの/んだ!? もうゴールドは必要ない! はやくラスボスの待つ魔王の城に行こうよ/ぜ!!」

 僕はスロットの手を止めた。


 なんでさっさと魔王の城に行かずにうだうだしてるかって?

 それはだね、僕は気づいてしまったからなんだ。


「もしかして、ラスボスの正体が、お前を幼いころから父親代わりとして育ててくれた村長だったからか? いやー、始まりの村の村長がラスボスとはな、俺も驚いたけどよ」

 そうじゃない。

 村長がラスボスとか、どーでもいい。

「そうじゃなくて、僕は気がついてしまったんだ、この世界のからくりに」

「この世界のからくり?」

 なによそれ、とヒロインが首を傾げる。


 僕は一呼吸してから、真剣に、二人に説明した。


「この世界はラスボスを倒すまでしか造られていない。ラスボスを倒したら、僕たちの物語は終わりなんだ。僕はラスボスの強さに圧倒され、最後の呪文、ロスト・ワールドを使わなければならない羽目になり、ラスボスと相打ちする。僕は世界の勇者と崇められ、君たち二人が僕の活躍を後世に伝える……そんな後日談が2分くらいでまとめられ、終わる。それが、この世界なんだ」


「何かよく分かんねーけど、ラスボスを倒したらあとは早送りでテキトーにたたまれるってことか?」

「どうしてキミにそんなことわかるの?」

 ヒロインはじゃあ、わたしとキミの結婚イベントもないのね、と残念そうにつぶやく。

「たぶん、僕は主人公だからさ。さっき突然に分かったんだ。天啓といってもいい」

 そう、僕はもうどうしようもなく悟ってしまった。ラスボスを倒すことが「終わり」だと。


 だから、僕は魔王の城に向かわずうだうだする。この世界を、終わらせたくない。これ以上強い魔物も出てこないし、村や町の人々も同じセリフばかり繰り返すけれど、自分の人生が終わるよりマシだ。このまま、ゆるーく、だらだらと過ごそう……。




「あああ、なんだよこのアプリ! 主人公が魔王の城に行かないぜ! 気づくとカジノに飛ばされる! バグか?」

「おっ。修正入ったみたいだぜ。アップデートすれば直るってよ」

「ほんとか? よし、アップデートだ!」


 カジノのスロットで大勝した僕はほくほくでコイン換金所に行く。今やラスボスのことを忘れ、親友は格闘場、ヒロインはじゃがバタレースに夢中になっている。


「勇者様には、特別にこれを差し上げます」


 バニーガールなお姉さんに、僕は一枚の紙をもらう。え? これが景品? その紙には大きくこう書いてあった


「『さとり勇者~終わらない旅~』大ボリュームで続編決定! 勇者は奇跡の復活を果たします! こうご期待!」


 え? 本当!? ラスボス倒しても、終わらないの? まだ続くの?

 僕は感動で震え、思わず紙をぐしゃりと握りしめた。振り向くと、そこにはツンデレヒロインと闇落ち復活の親友が微笑んでいる。僕は勇者らしく、剣を高らかとかかげ、叫んだ。


「まだ続編がある! よし! 張り切って村長ぶったおしに行こう!」

「ばか、魔王だって」

「ったく、調子いいんだから。はりきりすぎて自滅しないでよね~、……うそ、わたし、キミのこと、信じてる」


 カジノは終わりだ! いざ、魔王の城へ!

 僕らの戦いは、まだまだ続く!!

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