第5話
あの日以来、二人は渋谷の円山町にあるラブホテルで毎週週末にセックスをする仲になっていた。週末二人は獣のように交わりあい、狂ったように快感を貪り合っていた。お互い週末になると自然と肉体を求め合っていた。毎週毎週する二人の営みは自然な流れの中で行われていた。そんな時間が半年ほど続いたある週末、僕と由樹ちゃんは全裸で抱きしめあっていた。営みを終えて、ベッドの上でその余韻に二人は浸っていた。長い口づけをし、愛を確かめ合ったりしていた。
そんな時、由樹ちゃんが口を開いた。
「わたし、来月から長崎大学の経済学部に出向することになったの。私たち離れ離れになっちゃうのよ」
僕は、驚きを隠せなかった。
「じゃー、僕たちどうなるの?」
「わかんないよー」
由樹ちゃんは、僕に向かって投げ遣りな返事をした。その時、僕はまた由樹ちゃんをグッと抱き寄せ由樹ちゃんの温もりをもっと感じようとした。
その時、由樹ちゃんは「やめてよ!」と一言投げ捨てた。
「こういう関係は今日で止めにしましょう」
そう言って、由樹ちゃんは一人でシャワーを浴びに行ってしまった。僕は、由樹ちゃんの背中を眺めながら寂しさを感じていた。
由樹ちゃんが長崎に行ってしまうまであまり時間がなくなってきた。僕の心は曇っていた。僕は、由樹ちゃんの何だったのだろう? そう思いながら悶々とした日々を送っていた。由樹ちゃんに会いたい、会いたくてたまらない、そう懇願しても由樹ちゃんは僕と会おうとしてくれない。携帯電話に連絡してもつながらないし、財務省に電話をしたこともあったけれど取り合ってくれなかった。財務省へ赴いてもみたが由樹ちゃんは会ってくれなかった。終いには、マンションの前まで会いに行ったけれど由樹ちゃんは僕の前には現れなかった。これではまるで僕はストーカーじゃないかと自嘲しながら過ごすこともあった。苦しい思いを胸に秘めながら、憂鬱な時間の中に僕はいた。
僕は、一人で由樹ちゃんとの思い出に浸っていた。二人はセックスばかりしていたわけではない。僕は、度々平日の夜、由樹ちゃんの部屋に呼び出されていた。由樹ちゃんは、寂しがり屋だった。だから、僕はその要求に応えていた。
二人で、お酒を飲みながら色々な話をした。おつまみは、いつも僕が作っていた。由樹ちゃんに気に入ってもらいたいから、僕は喜んで腕を振るった。
夜も深まったころ、由樹ちゃんは酔って寝てしまうのだが、僕は食器類を流しに持っていき、静かにテーブルを片付け、コップやお皿の汚れを洗い流し、由樹ちゃんをベッドまで運び布団を掛けてから帰るのがお決まりのパターンだった。由樹ちゃんは、掃除が大嫌いなので部屋の掃除はもちろんのこと、エアコンの汚れを落とす掃除からトイレの掃除やお風呂場の掃除、換気扇の掃除などを由樹ちゃんの命令に従ってやった。が、僕は由樹ちゃんのお役に立てることに喜びを感じていた。唯一つ由樹ちゃんに対して不満を挙げるとしたら、由樹ちゃんの部屋でセックスをさせてもらえないことだった。理由は今も解らない。まあ、そんなことはどうでもいい。由樹ちゃん! 僕と話をしようよ! ねえ。
そんな願いもかなわないまま長崎へ発つと思っていた日に、僕は由樹ちゃんの姿を近所のファミレスで見つけてしまった。僕よりずっとかっこよくて頭のよさそうな男性と由樹ちゃんは楽しそうに食事をしていた。僕の席からでは、二人が何を喋っているのか解らない。が、時たま由樹ちゃん特有の甲高い笑い声が店中に響く。この笑い声とあの時の喘ぎ声とを僕は重ね合わせたりしてみた。似ている。思わず僕はそう叫びたくなった。また、どうでもいいことを考えてしまった。それよりも重要なことは、由樹ちゃんと食事をしている男が何者か? である。一体誰なのであろうか? はたから眺めていても解らないのは自明である。では、どうすればいいのか? 解らない。二人の跡をつけてみようか? それでは、まるでストーカーだ。そんなことを考えているうちに、二人は店を出て行ってしまった。
僕は、取り残された気持ちになった。とても寂しく悲しい感情が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます