第4話
僕は、疲れて横になったまま眠っていた。微かに、携帯が鳴っている音が聞こえた。由樹ちゃんからの電話だった。週末の金曜日夜十一時ごろのことだった。
由樹ちゃんから、連絡をもらって今日は二週間後の土曜日夕方六時だ。表参道の「C」というお店の中に、僕と由樹ちゃんはいる。お店の雰囲気にのまれた僕はとても緊張している。メニューを見ても、上の空。俯いて黙っていた。
「リョウちゃん、リョーちゃん」
「……」
「リョウちゃん、どうかしちゃったの? 黙っちゃって」
「いや、こうゆうところ来たことないから」
僕は、元気がなかった。
「何かたのもーよー」
由樹ちゃんは、落ち着いていた。僕は、何をたのんだらいいのかわからなかった。
「由樹ちゃんに任すよ」
この「C」という店で、僕は生まれて初めて赤ワインというものを飲んだ。勢い余って飲み過ぎてしまったようだ。途中から記憶が全くない。
気が付いたら、見慣れない部屋の中に僕はいた。もう窓の外は明るくなっているのがカーテン越しに分かった。僕は、ベッドの上に横になっていた。隣を見ると、由樹ちゃんがすやすやと眠っていた。辺りを見回すと、由樹ちゃんの下着が干してあるのが分かった。黒や赤や紫など派手な色の下着がやけに目に飛び込んでくるので、その中に純白の下着を発見したときは僕の胸の中は穏やかな空気が流れて、なんだか安心した。僕は、いけないものを見てしまった。いや、これはラッキーなことなんだ、そう思って胸にしまっておけばいいんだ、また目を瞑って眠っているふりをし続けてさえいれば問題は何もない、そう思うのだがそう思えば思うほど目がさえてくるので、僕の心のうちは焦りで充満していった。
急に尿意が僕に襲いかかってきた。もう我慢の限界だ。早くトイレに行かなくては。僕は、ベッドから起き上がった。トイレに行こうと思うのだが、どこにあるのか分からない。膀胱は爆発寸前だ、どうしよう。もうダメだ、そう思った瞬間……。
僕は、お風呂場を発見した。ついでに、洗濯機も見つけた。着ていた服を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びた。そして、雑巾で床を拭いた。
最悪だ。僕は、由樹ちゃんの家でお漏らしをしてしまったのだ。しかし、家主の由樹ちゃんは幸いなことにまだ眠っている。神様は僕のことをまだ見捨てていない、そう思った。乾燥機に服を放り込み、乾くのを待つだけなのだが時間がなかなか経たない。由樹ちゃんの声が一瞬聞こえた。僕は、凍り付いた。が、寝言だった。
漸く服が乾いた。服を着て、胸をなでおろしたらお腹が空いた。コンビニへ行くことにした。玄関を出るとここは一階であることが判明した。僕は、急ぎ足でコンビニへと向かった。すぐそばにコンビニはあった。調理パンを二つとコーヒー牛乳を買った。それを、部屋に帰ってテレビを見ながら食べていると由樹ちゃんが起きてきた。
「リョウちゃん、おはよう」
由樹ちゃんは、黄色のTシャツにピンクの短パン姿で佇んでいた。綺麗な脚だと僕は思った。思わず見とれてしまった。
「リョウちゃん、大丈夫? 昨日から変だよ」
僕は、卑猥なことを考えていた。その生足と下着の残像が相俟って、興奮せずにはいられなかった。僕は由樹ちゃんの股間を凝視していた。
「どこ見てんのよー」
由樹ちゃんは、僕のエロさに呆れていた。そう、僕の目は由樹ちゃんの純白の下着を凝視していた。リョーちゃん、リョーちゃん、由樹ちゃんは、僕の名を一生懸命呼んでいたのだけれども、僕は全く気付かなかった。僕は、何かに取り憑かれたように由樹ちゃんの純白の下着を凝視していた、僕は、自信があった、その短パンの中の下着の色が白であるということに。何の根拠もないのに由樹ちゃんは確実に白の下着を穿いているということを。僕の自分勝手な妄想は巨大化していた。
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