彼と夫
私の彼は、なんというかいっしょにいて気が楽な相手だ。
たとえば映画という趣味が一緒で、感想を言い合えば話の筋やら俳優の演技やら監督の画作りやら劇伴やらの話題で小一時間は軽く潰せる。その他もろもろの好みも似ているから、とりあえず私の好きなものをお出しすればだいたいなんとかなるので気を使わなくて良い。
素のままの自分でいられる相手がいるというのは、人生を革命的なほどに楽なものにしてくれる。
私は彼に癒しを求めていると言うわけだ。
私の夫は、悪い人ではないのだけれど、なにぶん色々とズレているところがある。
ラインの返事は既読をつけてから数時間後になんてことはざらにあるし、誕生日プレゼントには「特別な限定品なんだ」と言ってよく分からない海外土産にありそうな人形を贈ってくる。
テレビのお笑い番組を見ていると決まって私とは違うところで吹き出すし、怒るポイントもなんだか普通とは違うのでいまだに予想がつかなく、正直おっかなびっくりになることがある。
この前などは、コロッケに醤油をかけたら、急に不機嫌になったものだから驚いた。
私は良く、夫を彼と比べている。
こういう時、彼ならこう言ってくれるのになあ、みたいな用途である。
ちなみに彼というのは私の理想の男性像というものであって、実際には存在せず、実際には存在しないということはつまり別に浮気というわけではないのであしからず。
理想の結婚生活というものは、たぶんほとんどの人が成立せしめていないと思われる。好きあって結婚したはずなのに不思議な話だけども。
私の場合も、子どもの頃に思い描いていた理想とは遠い現実に位置する場所に落ち着くことになってしまっていた。
現実が理想に追いつくことなどは、少なくとも私の人生ではあまり記憶にない。
けれど、だからといって現実ってこんなもんだよね、と諦めるほど、私は物わかりが良くなかった。動物はものすごく切り替えが早いと言うから、そういう意味では私はとても人間的だ。
現実を理想に近づける努力こそが人生。
あ、私今いいこと言った。ということでこれが私の座右の銘である。
だから私は、今日もなかなか直らない夫のズレを叩いて直しにかかり、謎な夫の怒りポイントをメモして再発に備えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます