許されざる闘い

「タクヤが死んだ……か」


「嘘だろ……こんなのって、ないぜ」


「認めろよ、現実を。目を逸らしたって変わらねえよ」


 狭い部屋。男が四人も入れば窮屈になるような部屋に僕たちはいた。学校帰りに、仲の良い四人組で寄った先での出来事だった。


 僕の向かい側、机を挟んだ先に、タクヤが仰向けになって倒れている。バカな奴だ。考えなしに行動するからそうなるのだ。


「さあ、もういいだろ。許されざるゲームの続きを始めよう」


 進行役のシンジがいたって平静な口調で続ける。学校でのシンジは、教師から目をつけられるほどに成績の悪い男だった。しかし、それは我々を騙すための演技であり、道化を演じていただけなのかもしれない。今のシンジは、右と左を間違えるようなアホではない。場を支配し、タクヤが死ぬ原因を作った男である。


 まったくとんでもない伏兵がいたものだった。


「俺が勝った時は……分かってるよな?」


「……ああ、恨みっこなしだ」


 僕たちは、普段は気のおけない連れだった。一緒にスキー旅行に行ったこともあるし、バカをやるにしても常に一緒だった。


 けれど、そんな仲の僕らにも譲れないものはある。


 それを得るためならば他者を犠牲にすることなど、少しも躊躇する事はないだろう。


「へへっ、しかしまさかお前らが俺と同じ同類だとはな……」


 マサシが鼻の下をこする。


 女好きのマサシは、軽薄な性格ではあるが、この時ばかりは目に真剣味を帯びていた。彼も、負けたくはないのだ。


「当たり前だ! 誰にも譲れないものはある!」


 僕は叫んだシンジに同調するように強く声を張った。


「アイちゃんに告白するのはこの僕だ!」


 シンジが切った牌を目視し、僕は手牌を倒す。


「ロン!!」


 その時、突然バタンと背後の扉が開く音がした。続いてギシ、ギシ、と部屋の床を踏みしめる不気味な音が鳴り響く。


 何者かが、入ってきた。


 背筋を冷たい汗が伝う。


 一同は皆石化したように硬直し、それを直視したタクヤはガタガタと震えだしてすらいた。


 僕はなにが入ってきたのかを察していた。それ故に喉が異様に乾き、思わず生唾を飲む。手先が震えている。


 頼む、予想と違ってくれ、と願いながら、ゆっくりと後ろを振り返った。


「勉強もせずにお友達と麻雀とは、明日の試験が楽しみですね」


 そこにはおたま片手に額に青筋を浮かべた、我が家の母が立っていた。

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