ずっといっしょ
明日、自分がどうなっているかなんて、自分でも分からない。
即死レベルの事故に遭うかもしれない、
見えていなかった病気が見つかり、勢いそのまま、死んでしまうかもしれない……。
気づかない内に抱かれていた他人からの悪意に、殺されてしまう可能性だってある……。
そもそもの話、地球が滅亡する可能性だって、ないとは言い切れないのだ。
今日が無事に終わったからと言って、明日が安全に過ごせるわけでもない……、脅威は見えないところからやってくる。
それを防ぐためには、あらゆる場面を想定し、準備をしておかなければ難しい。
入念な準備をしたところで全てを網羅できるわけではなく、必ず穴はできてしまう。
脅威が隙間を縫ってやってきてしまえば、私はなす術もなく殺されてしまうだろう……。
避けられないものだ。
私の人生の終着点……、運命だった、と諦めるしかない……。
だからこそ、だ。
ちゃんと遺書を残しておくべきだと思った。
――だから……今日から、
私は毎日、遺書を残そうと思う。
いつ死んでもいいように……、
いつ、この世界からいなくなってもいいように――。
……遺書を書き始めてから二年が経った。
また明日も書かなくてはいけない、と悩むことは嬉しい悲鳴と言ってもいいだろう。
なぜなら今日も無事に、私は生き抜くことができたというわけなのだから。
翌日の朝、目を覚まして、意識が覚醒したところでパソコンを開く。
始めた当初はきちんとペンを握り、インクをつけて背筋を伸ばし、しっかりと書いていたのだが……今では全てがパソコンでの作業だ。
カタカタ、とキーボードを打つ……、遺書にかける時間を短縮するように無駄を省いた文章を極めていった結果、もうほとんどが言い回しが違うだけで、同じ内容である……。
最近では同じ内容であれば言い回しを変えたりする意味もないのでは? と思ってきた。
かと言って、一度書いた遺書を何日も使い回す、というのは違う気がする……。
一度書いたから、それをずっと保管しておけばいい……、と考えてしまいがちだが、書いた遺書は、書いた時点で過去のものだ。
感情が常に変わり続けるのが人間だ。過去の気持ちを紙面に残しているだけで、リアルタイムで成長する思考は、現時点の紙面には落とし込めない。
書いた後で、『内容と違う考え』になったまま死んだら、間違った
そうなればこっちとしては成仏できない未練になってしまうだろう。
きっちりとしたいのだ。
だから毎日、きちんと書いている……、
もちろん、変わらない気持ちであれば文章も同じだ。
面倒だから、ではなく、気持ちが同じなのだからあらためて打つ必要もない……、コピー&ペーストをすれば時間も短縮できるし……。
一度書いたものを保管したままにしているのとなにが違う? ……なんとなく、パソコンに向いて文字を打つ、という行為に『儀式』を感じているのだろう。
遺書を通して、自身の心と向き合うことが目的、と言える……。
結果、前日に書いた内容と差がなければ、コピー&ペーストでもいいのではないか。
コピー&ペーストされた遺書って……、まあ、言わなければ分からないか。
死んだ後で発覚しても、既に私は亡き者だ。遺族に、墓の前でグチグチと言われるぐらいで、責められることもないだろうし……、私がその場で聞くわけじゃない。
やり逃げだが、遺書だって自由である。
必ず残さなくてはいけないものではないのだから。
……それに。
遺書の内容など、大体が同じことだろう?
変わることの方が珍しい気がする。
プライベートな内容であれば環境によって変わるかもしれないが、気持ちは同じだ。わざわざ遺書に、『あいつが嫌いでした』――なんて書かないだろうし……死ぬ前に気分が悪いだろう。
最後の最後に復讐してやる、というつもりなら、『あり』だが、遺書に書くくらいならもっと先に告発するべき場があるはず……、遺書に書く方が情けない気がするけどな……。
面と向かって言えないから掲示板に書いてみた……それもできないから死ぬ間際に書いて、他者からの『卑怯者っ』というレッテルを、生きている内に貼られたくなかった、と言っているようなものだと私は思ってしまう……。まあ、書いた人間を責めるつもりはないがな。
死ぬ直前だからこそ勇気が出た場合だってある。
ともかく、マイナス方面の気持ちを書くところではないだろう……、
だから書くべきなのは――『感謝』の言葉だ。
親、友人、仲間……、感謝の気持ち――。
コピー&ペーストになるのも仕方ない。だって変わらないだろう……、一生。
生まれてから死ぬまで、変わらない気持ちだ。
『ありがとう』
……推敲なんてしない。
思ったまま吐き出した言葉が、ずっと一緒の、変わるわけがない、本音だ。
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