人類・原点回帰の島/【ワンカット】

 人間は生物との生存競争に負けた。


 都市を含め大陸は破壊され、人口は百分の一まで減少——。


 居場所はなく、生きることさえも困難な状況に陥る。



 人間とは逆に、生物たちは圧倒的な進化を遂げ、自然が繁栄していく……、


 地球の半球が大陸で埋まり、

 七十パーセントを占めていた海は、半分以下まで減少することになる。


 人工物は存在を許されず、削られていき、全てが自然によって作られていく。


 人間が支配する時代は終わりを迎えた。


 君臨するのは――生物。


 圧倒的な力で世界を蹂躙し始めた彼らのことを、人間はこう呼ぶ――『バケモノ』と。



 それから百年——。


 人間は戦いを拒み、支配権を取り戻すのではなく、生きることに終始した。


 彼ら『バケモノ』に狩られないように、あの手この手を使い、

 気を引き、気を逸らし、逃げ続け、住める場所を探した。


 そして、僅かに残った、かつて『関東地方』と呼ばれていた凹凸の激しい大陸に一国を作り、人間たちはそこを住処とする。

 バケモノは滅多にやってこない。

 そこは霧が濃く、視覚的な発見が困難だったからだ。


 ―― ――


 耳元で、ぱちぱちと音が鳴る。

 目だけを開けて辺りを探ると――、


「気が付いたか」


 体勢を一ミリも動かしていないのに気づかれた。

 目を瞑っている時から気配はしていたので、意識はしていたのだが……。


「……誰?」


「そういうのを含めて話すから、とりあえず起きろよ」


 目を開けただけなので、見えるものは視界に収まるもの――のみだ。


 しかし誰もいない。森林が見える。まだ空は明るい。

 声がするのは後ろだ。


 声からして、少年のもの。

 たぶん、自分と年齢はあまり変わらない……。


 そんな分かりやすい声でさえ、そういう予測でしかできないのに、見えないところで目を開けたことなど、彼はどうして気づけたのだろうか。


 疑問はあるが、起き上がれない怪我を負っているわけではない。


 起き上がり、後ろを振り向く。


「ん」

 眼前にびしっと差し出された。


「……なにこれ」

「蛇」


「……毒とか、ないでしょうね?」

「ん? 蛇って、毒なんてあるのか?」


 冗談ではなく本気で言っていると目を見て分かった。


 疑いの目を向けていると、少年が焼かれた蛇の体にかぶりつく。


 砕く音が聞こえてきた。

 噛んだだけで、そんな音が聞こえてくるのだろうか。


「これ、不味いな」

 少年が顔をしかめる。


「……よくもまあ、それを私に平然と出せたわよねえ」


「いや、そこの森にいたから、美味いだろうと思って」


 やっぱ、いつもの飯は調理が上手いんだなー、と感心している。


 少女は蛇から視線を下ろした。

 焚火の前で木の枝に串刺しにされ、地面に刺さっている魚を見る。

 昔から受け継がれている、よく見る光景だ。


「これ、貰うわよ」

 許可も得ないまま、取ってかじる。


 焼き具合もちょうど良く、空腹に響き渡る。


「んー」

 片手を頬に当てて、満足する。


「そこらへんにいた魚を拾ってきて焼いただけなんだけど……そんなに美味いのか?」


「焼いておけば基本的にはずれはないでしょうね」

「蛇は?」

「無理」


 嘘つき、みたいな視線を向けられるが、「基本的に」ときちんと言っている。

 少女の方に問題はないはずだ。


「まだまだあるぞ」


 魚は楽で獲りやすいらしい。

 大量に積み重なり、小さな山ができている。


「そんなに食べられないっつうの」


「食えるだろこれくらい。食えなきゃ他にあげるだけだし」


 少年が木の枝に次々と魚を串刺しにしていき、地面に突き刺す。


 焚火の周りは魚だらけになっていた。

 食べても食べてもぜんぜん減らない……。


 次の手を出したところで、少女は本題に入る。


「――ウリア」

「あ?」

 きょとんとする少年。これだけでは分からない。


「私の名前、ウリアって言うの」


「ああ、俺はギン。……ウリアはあそこで、なにをしていたんだ?」


 問いかけようとしたら先に問いかけられた。


 少年・ギンが指差す方向は海であり――だから、どこを差しているのか分からなかった。



「…………旅よ」

「溺れてたみたいだけど」

 

 少女・ウリアは、以前の記憶がすっぽ抜けている。

 思い出して見える光景は、高い波に飲まれるところであり――、


 つまり、流れ着いた島こそが、ここ。

 ――彼、ギンがいる島である。



 ―― 完全版 ――


「化物世界:猿の王国と破壊の機械少女」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054954456782

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