17話 新たな生活

ライルノット・ルーシー。


彼女は高貴な家の生まれで、子供の頃から富豪のような生活をしていた。

だが、彼女にとってその生活は幸せと言えるものではなかった。


彼女の家、ライルノット家は昔から奴隷を酷使することで有名であった。


そんな家で生まれた彼女の唯一の癒しは同い年くらいの女の子奴隷と夜、お話をすることであった。

その奴隷の女の子はとても優しくルーシーに接してくれて、ルーシーはそんな女の子とおしゃべりするのが大好きであった。


だが、奴隷の子供とその奴隷の主の娘が軽々しく話すことなど、許されることではない。


だから彼女の父は何度も何度も、「もう奴隷とは喋るな」、「あれは人ではない、道具だ、道具と人が喋れる訳がない、だからもうあれには近づくな」

と言い続けてきた。


それでも彼女はその夜のおしゃべりを続けた。


流石に呆れた父はそれを黙認することにした。それは彼女達にとってとても嬉しいことだった。


だが、そんな幸福な時間はすぐに消え去った。


それは彼女が十歳のことだった。


同じく十歳になった奴隷の女の子はそれはそれは美人な女性になった。


そしてそんな奴隷の子を見て興奮してしまったルーシーの父は毎晩毎晩、自らの部屋に呼び出し、快楽への道具として使った。


裸にして、鞭で打ち付けたり、拷問器具で縛り付けて犯したり、ありとあらゆる屈辱、恥辱をその子に与えた。


ルーシーはそれに怒り、何度も父にやめろと言ったが、父はそれを聞かず、あろうことかさらにその仕打ちはエスカレートしていった。


そして月がよく見える日、ルーシーはその女の子に呼び出された。


呼び出されたのは時計台の頂上だった。


風が吹き荒れているものの、時計台の下に見える街は静かになっているのでうるさくはなかった。


「どうしたの?」

彼女はまず、そう聞いた。


「私ね、もう辛いの、生きることが、、、生きる意味が見つからないの」

そう言った彼女の顔は痣だらけだった。


「··········ごめんなさい、でも!私が絶対に貴方への暴力を止めて見せるから!だから·····」

「·····ルーシーは本当に優しいね」

少女は笑った。しかし、その笑顔には見せかけにしか見えなかった。


「けど、、、私は貴方が憎い、私と違って幸せな場所に生まれて、幸せに暮らして!!そしてっ·····私と違って、とても優しい、それが何より、憎い」

「え」

少女はそう叫んだ後、時計台の外が見える枠に足をかけ、そして飛び降りた。


「私はここで死ぬ!はははははははははははははっ!」

「▪️▪️▪️!」

ルーシーは少女の名前を叫び、落ちていった少女を見下ろす。


しかし、既に、少女の体は地面に落ち、体は四散していた。明るく照らす月がその光景をルーシーに深く刻みつけた。


「あっ、あっ、あっああああああああぁぁぁっ!」

ルーシーは絶望した。そして泣いた。最大限、精一杯、その涙は時計台の床にシミを作った。



次の日、ルーシーは父の書斎に来ていた。

「··········私は貴方を許さない!ライルノット・デブリ!」

「なっ!どうしたと言うのだ!ルーシー!その斧は!?何故そんなものを!?」

現れたルーシーの姿に父、ことライルノット・デブリは酷くたじろぐ。


それもそうだろう。ルーシーの手には巨大な斧があったのだから。


「死ねぇ!クソ野郎が!」

ルーシーは斧を振りかぶり、一気に近づく。


しかし·····


「え、衛兵!」

デブリがそう叫んだ瞬間、衛兵は飛び出し、ルーシーを押さえつける。


「ぐっ」

「き、貴様はもう我の娘では無いわ!衛兵!そいつはもう不要だ!こいつは我の奴隷にする!」


この日、ルーシーはデブリの奴隷となった。

罰として今までのデブリの悪い記憶とその娘としての記憶を封印し、代わりに生まれた時から奴隷だという記憶を植え付けた。

そして彼女は奴隷として、道具として、デブリに扱われ続けた。



そして数年後·····


デブリはルーシーにある命令を下した。


その命令とは”レイブン・アダリーシアが手に入れたという神剣を奪取してこい”というものだった。


ルーシーはその命令を聞き、レイブン・アダリーシアから剣を奪おうとした、だが、相手はあの最強の女である、よってルーシーはすぐに捕らえられ、はなれの部屋に閉じ込められた。


だが、すぐには殺さず、逆に事情を聞いた。しかしそれは口頭からのものではなく、頭の中に眠る記憶を王女様は見た。


その余りにも悲惨すぎる過去を見た彼女は王女としての権利を使い、デブリに奴隷の解約を命令した。


晴れて自由になったルーシーは助けれてくれた王女様に惚れ込み、ぞっこんすることとなる。



これがゲームでの彼女の設定だ。


·····ほんと、このゲーム運営してるやつ、心ないんか?ってくらい悲惨な設定作りだったわ。


一度王女様に助けられて良かったね。と俺も含めたプレイヤーは全員思ったが、物語が中盤にさしかかった頃、王女様の側近として働いていたルーシーはある日現れた神話級のソウルビーストに命の危機が脅かされた姫様を救うために命を賭けて、姫様を守りきり、そして亡くなってしまう。


いくら簡単に命が消えてしまうこの世界だとしても、もうちょっと、長生きさせても良かったんじゃね?って思ったね。


「事情は分かった、、もうビル様に言いつけたりなんかしないし、殺す気もないよ、だけど一つだけ聞きたい、お前が欲しかったのはこの剣だろ?俺の命を狙う必要があったのか?」

「!、どうして私がその剣を狙ってると分かったのですか!?」


ルーシーは驚きから目をひん剥く。


やっべ、そういや、そんなこと一言も言ってなかったわ。


「·····お前、ずっと俺の持ってる剣のこと見てたろ?それで気づいたのさ」

「バレていましたか·····、では説明するしかありませんね」


ごめん!実は全然わかってない!なんかかっこつけて言ってみけど、合ってて良かったー!


「先程、ある方から貴方の暗殺を命令されたと言いましたが、あれは半分嘘です、本当の命令は”貴方の手にした神剣を奪取してこい殺さなくてもよいが、殺した方がよい、最優先は神剣の奪取である”という命令でした。なので最初は私も貴方を殺さずに、剣だけを盗むつもりでしたが、私が盗もうとするとその剣、動いて私を切りつけるんです!そしてこの剣が動くのは貴方の魔術のせいかな?と思った私は貴方の殺害を最優先事項に設定しました」

「·····えー、怖」

剣が自動的に動いたのは、クサナギが自分で動かしたのかな?


しかしなんでわざわざ、俺や姫様が神剣を取った後に襲い始めたんだ?

そんなに欲しいなら、自分から取りに行けば良かったのに。

なんでしなかったんだろう?クサナギはCランクだし、デブリくらいの高貴な出身だと衛兵をかき集めれば倒せると思うのだが·····。

そんな感じなことをルーシーに聞いてみた。


「んー、、なぜかは分かりません、けど以前その方は”クソ、マーリンめ!尽くこちらの邪魔をする!”などと言って怒ってました」

「え?今、マーリンって言った?」

「あ、はい、まぁ流石にあの最古の魔術師にして、万物の時を操る魔術師、マーリンのことではないと思いますよ」

「あ、あぁだよな」


そうだ、マーリンなんて、ゲームでも2、3回くらいしが出てこなかったんだ。こんな場所に現れるはずがない。

しかもあいつ、出番少ないくせに現れたら現れたで、俺達を手伝おうともせずにやれ”お前達では創造神は倒せない”だの、”やめろ、諦めろ、神はお前達だけでは倒さないのだ”だの、言ってきやがって!

けどマーリンの予測は外れ、俺達プレイヤーはゲームをクリアした。ヒロイン全員死亡という最悪な気分のままでのクリアであったがな。


かー!今思い出してもムカつく!幼女のくせに全然可愛くなかったわ!

けど実力はあの姫様を超える、絶対的作中最強キャラである。

『曇天の空の下で』をクリアしたプレイヤー全員に聞いても最強キャラはマーリンと答えるだろう。

それくらいあの幼女は強い。


「その·····私はこれからどうすれば·····」

そう恐る恐る、ルーシーは聞いてきた。


その瞳には未だ、闇のようなものが感じられた。


「今のお前を解放するのはとても危険だ、だから約束してくれ、俺の命はもう狙わないと」

「それは無理な相談です、その剣を素直に私にくれたら大人しく引き下がりますが·····」

「いや、これだけはあげられない」

「では、交渉決裂です」


クッソ頑なだな。まぁいいだろう。なら、こっちもこっちで手はあるんだぜ。

俺は心の中で、ものすごく悪どい笑みを浮かべた。


「あーもー!もうめんどくせぇ!なら!俺を殺しに来てもいい!だけど!殺しに来るのは昼間にしてくれ!まともに寝れねーんだよ!」

「え?殺しに行っていいんですか?」

ポカンとした顔でそう尋ねる。


「はっ!お前は弱いからな、夜じゃなければ、ハエを払うがごとく、お前のことをあしらってみせれんだよ!」


これは俺の強がりだ。正直言って、ルーシーは強い。俺の命の危機が迫るほどに。だけど、神剣をルーシーに渡してしまえば、彼女はまたあの家に戻り、奴隷の日々を過ごすことになる。

まぁ別に俺には関係ない事だが、どうしても同情しちまう。






そして俺はその流れのままルーシーの縄を解く。

解いた瞬間、ルーシーはシャっ!とその場から飛び立つ。

「言ってくれましたねぇ、明日の昼間、貴方を殺しにいきます、覚えていてくださいね!」


そしてルーシーは黒色の瞳で俺を睨んだ後、逃げセリフのようなことを言って俺の部屋を後にした。








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