16話またまた増えた地雷女

「え?」

なんでこいつ喋れんの?

『呆けた顔をするでないわ!ただ、我が剣になっても喋れただけのことであろうが!』

それになんか怒ってるんですけど。


いや、ちょっと待てよ。こいつ、クサナギなのか?でも俺、確実に倒したよな?なんで?


「ごめん、俺最近寝れてないから処理が追いつかない」

『貴様の問題では無い!我のプライドの問題なのだ!貴様は我のこの剣を侮辱した!これは我にとって許されるものでは無い!』

すごい、なんかめちゃくちゃ振動してる。これ確実に怒ってますね。


「あーごめん、流石に言いすぎたわ、なまくらって言ったのは不味かったな」

俺はこいつが何故喋れて、剣に意識があることについては考えるのをやめ、とりあえず謝った。


こういうのは順応するのが大事なのだ。

『うむ、それで良いのだ、特別に許してやろう、で?貴様、絶賛ピンチなのだろう?』

「まぁ、ピンチと言えなくもないかな?」


そう、今はピンチはピンチなのだが、俺も動けず、女も動けないこの状況はちょっとやばいくらいだ。


「ちょっと!そこ!私を抜きにして話をす、す、め、な、·····」バタン


突然女が叫び出したかと思えば、なんかその場で倒れてしまった。

そしてすーすー、と俺まで聞こえる呼吸で、女は気持ちよさそうに眠っている。

あいつ、もしかして、俺の事を襲うのに夢中になって、俺と同じように寝てなかったのか?


だとしたら····················バカだろ、流石に。


ん?

「あれ?なんか体、軽くなったような·····」

女がぶっ倒れた瞬間、俺の周りを纏っていた重みはいつの間にか消えていた。


『なんだ?あやつ、ぶっ倒れたのか?·····はぁつまらんヤツめ、これでは我の実力を出せないではないか』

「まぁまぁ、で?これどうする?」

俺は倒れている女を指さし、剣になってしまったクサナギに向けて話しかける。


『それを我に聞くか?·····わかる訳がないだろう』

「うわぁ、まじ、どうしよう·····」

そして再び、沈黙が流れた。







三十分後、


この女の扱い方が分からなかったため、とりあえず、縄で縛って、俺の部屋の床に転がした。

罪悪感を感じない訳では無いが、まぁこいつクズだから、いっか。と思うことにした。


「さて、と」

ドサッとさっきの女にV字に曲げられたベッドの中心に座ってから、持っていた剣を目の前に突き刺す。


「で?お前はなんで、喋れるんだ?ちゃんと説明してくれ」

『はぁー、めんどくさいのぉ、まぁ良いか、いつかは説明しなくてはならないことだったからな』


クサナギはそう喋りだした。


『ふぅ、では、まず神と人の関係から話すとするか·····』

『神と、人には切っても切り離されぬ関係がある、それは何故だかわかるか?』

「ああ、人は神によって生み出された、だから人は神を尊敬しているし、なるべく近づきたいという思いが強い」


これはゲームで語られていたことだ。この世界で初めに創り出された一万人の人間達により、人間は繁殖し続け、そして”社会”という檻を作った。


『そうだこれは常識だな、だが、人を創った神達は何故だか分からぬが、我々人間を滅ぼそうとしている、そして二年後、神達はこの世界に侵攻し、世界は滅びる、それを我は予見した(まぁ実際に見たのはマーリンであるが、マーリンのことも含めて説明するとクソめんどくさいから仕方あるまい)』

「うん」


これもゲームで言っていた。というか、このゲーム、【曇天の空の下で】の根幹となる設定がこれなのだ。


人は神に造られた、だが、争いを続ける人間に愛想をつかせ、神々は人間を滅ぼすことに決めた。

そしてそれを食い止めるのが主人公達御一行という、王道ストーリーなのだ。(難易度は馬鹿みたいに高かったけど·····)


『?、随分と早く納得するのだな、もっと戸惑うものかと思っておったぞ』

「あ!いや、いや、全然びっくりしてるよ、やばいなー世界滅んじゃうのか、うん、やばい、ちょーやばい」


そう必死に取り繕う。


『まぁ良い、では、続けるぞ、そんな未来を見た我は英雄の選別を始めた』

「なるほど、その為にお前はあそこに居座っていたのか」

『あぁそうだ、だが、ただ強いだけじゃダメなんだ、それでは英雄では無い、大ピンチの状況から大逆転できる、そういうことができる者が英雄と呼ばれるのだ。そして貴様は我に大逆転の勝利を収めて見せた。だから我は貴様を主として認め、己の意識をこの剣に宿したのだ、まぁ簡単に言えば、我はお前の使い魔になったという事だな』


クサナギは『これで終わりだ』と付け加え、黙り込んだ。


なるほどな、だんだん理解してきた。ゲームで姫様が使っていた時は意識はなかった、多分、クサナギに認められなかったのだろう。しかし、姫様が強すぎた為に、クサナギは倒されてしまい、強制的に神剣クサナギが姫様の物になったという事だな。


そう考えると、俺ってすごくね?なんか自信湧いてきたんだけど。


『だが、自信、油断、それは命とりになるぞ、気をつけるんだな』

「·····うす」


心読まれたんじゃないか?ってくらい的確に言ってくるじゃん。

お陰で最悪な空気流れたんですけど!?


「あ!あのよークサナギ、お前に聞きたいことがあってな、どうやったらお前みたいに剣の複製が出来るようになるんだ?」

何とか、話の流れを変えようとクサナギにそう問う。


『貴様、魔力がないだろう、だからお前の意思で剣を創ることはできんぞ、我の今残っている魔力から絞り出せば、約1000本は作れそうだが、そんな数複製してしまえば魔力の枯渇により我の意識は消え失せてしまうだろうな、だからそんなに多用できる訳では無いぞ』

「おーまーいごっと」


その絶望から、体の力が抜け、後ろに倒れる。

が、俺の体は完全に倒れることはなく、「わんわん!」と言って部屋に入ってきた巨大化したラシーによって支えられた。


そりゃそうだよな、なんのリスクもなしに無限に剣を作れる訳ねーよな。


人間と同様、使い魔にも魔力がある。だが、その重みは人間とはまるで違う。

人間は魔術を使いすぎて魔力が無くなれば、頭が痛くなるが、一週間ほど、休めば回復する。


対して使い魔は使い魔の主から減った分の魔力をもらい続けなければ死んでしまうのだ。魔力の枯渇は使い魔にとって命に関わるということだ。

だから今こうして俺の頭を支えている巨大化ラシーの魔力も刻一刻と減っていっており、いつか消えてしまうのだ。


そんなのは嫌なので、ラシーに元に戻るように伝える。

すると、みるみるうちにラシーの体は縮み、いつものサイズに戻った。


『まぁ、諦めるんだな、本当の本当にピンチな時は我が手伝ってやる』

「ははっ、そうして貰えると助かるわ」




それからクサナギとこれからの話や、他愛のない話を三時間ほど続けた。

話してくうちに意外とこいつおしゃべりだってことに気づいた。

話してて凄く楽しかったわ。


そんな時だった。

「はっ!」


縄で縛った女の体がビクン!と跳ねた。多分起きたのだろう。


「こ、ここは!?私は何を!?」

そして勢いよく起き上がろうとしたのか、女は頭を上げるが、縄で首から下をぐるぐる巻いているので、まともに起きることは叶わず、じたばたしただけに終わった。


「おはよう、さーて、お前の名前と俺を殺そうとする理由を聞こうか?」


俺は地面に刺していた神剣を手に取り、その神剣の刃先を細く、白い女の首にひたっと当てる。


「··········言わないと、どうなるんですか?」

恐る恐る、といった表情で俺を見る。


「うーん?君の首が飛ぶだけかな?もちろん、仕事的な意味ではなくて、物理的な意味で」

そんな女に対し、俺は今までで最高の笑顔を見せてやった。


その笑顔を見た女は「ひいっ!」と俺に怪物でも見るかのような視線を向けてきた。


「言います!言いますから!命だけは許して!」

「はぁ、仕方ねーな、お前が言う理由が俺にとって納得できるものだったら許してやる、だが、馬鹿みたいな理由だったら、このことをビル様に言う、それでいいな?」

「はい!!!」


女はそう元気よく返事をした。


その言葉を聞いた俺は女の体全体を縛ったいた縄を解き、かわりに手と足を縛って、床に正座させた。


「さて、じゃあ、喋ってもらおうか?」

「はい、えーと、まず私の名前から言いますね、私の名前はルーシー、この城で働いている普通のメイドです」


ん?ルーシー?どっかで聞いたことがあるような?

··········気のせいか?


一抹の疑問が浮かんだが、まぁとりあえずはこいつの話を聞くか。


「そして、私が貴方の命を狙った理由ですが·····貴方の暗殺を依頼されたのです、ある方から·····」

「お前、もしかして、暗殺者なのか?」

「いえ、そうでは無いのですが、その·····まぁ、そのようなものですね·····」


そして女こと、ルーシーは俯いてしまった。


·····やべー、今思い出したぞこの女のことを·····。


こいつは『曇天の空の下で』で一番愛が重いと言われた女。そして、愛した人の為ならどんなこともするという姫様を超えた、超ド級のヤンデレサブキャラ女だったわ。


ついでに女性好きという属性までもある。













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