嘆きの亡霊
15話 やばめの女ァ
最近の俺にはある困ったこと色々が起こっている。
夜寝てる時に尿意を催すとか、鳥の糞が頭の上に落ちるだとかの軽いものなんかじゃない。
その困ったことは俺の命に関わることなのだ。
その困ったこととは·····”神剣クサナギを使っても剣の複製ができない”。
というものであった。
本当にやばい。なんで複製できないかも分からないから余計やばい。
けど、俺の命に関わるほどでは無い。では俺が本当に困っているのは何か?
それは·····
時は町の喧騒がなりを潜め、皆就寝につく時間帯。
そんな時、俺の部屋の扉が静かにカチャリと開く音がした。
ひたひたと、その音は俺が寝るベッドへと近づいてくる。
そしてヒュっという風を切る音とともに
何かが振り下ろされる。
「危なっ!」
咄嗟にベッドの上を転がり、その何かを避ける。
しかし、避けたことで、ベッドはV字にひん曲がっていた。
「ちっ!」
そのベッドをV字に曲げた張本人は舌打ちをする。
「おい!てめー何し·····っ!」
俺がその人物に文句を言おうとした瞬間、月明かりが反射して銀色に輝く何かを振るってきた。
「なっ!?」
その何かを背骨が折れるのでは無いかと思うほど曲げて、何とか避ける。
「また!貴方は!いい加減私に殺されなさい!」
「やだよ!お前こそいい加減諦めろ!」
その余りにも殺意が強い人物は月明かりに当たることにより少しずつその姿を露わにしていく。
綺麗な黒髪を腰あたりまで伸ばしており、白黒のメイド服をよく着こなしている。そして一番注目すべきはその目だ。何もかもを失ったように暗く、ドス黒い目は見てるだけで、洗脳されそうだ。そして手には殺意しかない大鎌を持っている。
多分、この王城で働いている人だと思う。こんな大鎌持ってるメイドがいたら、いやだけどね。
そう、この女こそ、最近の俺の最大の悩みなのだ。こいつは何故か分からないが、俺の命を狙ってくる。毎晩、毎晩、飽き足らずにな。
「と、いうか!お前なんで俺のこと狙ってくるんだよ!いい加減教えろや!」
「··········それは言えません」
と、こんな風に、事情を教えてくれないのだ。
ちなみに俺の口調が荒いのは、この女のせいで最近まともに寝れず、流石にイラついてきたからだ。
「たくっ!またそれかよ!じゃあもういい!理由は聞かん!だからお前の名前を教えろ!ビル様に言いつけてやる!」
「···············せこい」
「うるせー!!!!」
その女は俺をゴミを見るような目で見てきた。
たくっ、悪いことしてるのを見たら、先生に言いつけるのが普通だろうが!小学校で習わなかったのかよ。
「いいからさっさと教えろ!このカス!」
「カっ!?·····ふふ、どうやら貴方は地獄が好きなようですね」
「いいでしょう、見せてあげます、地獄というものを·····我が信念は至高の御方に、我が使命は神ルミナスの名の元に、開け万物の扉、リ・アイル」
その女は肩を上下に揺らし、小刻みに笑う。
それと同時に詠唱を済ませた後ドン!という音と共に、その女は俺に急接近してきた。
「あぁもう!またこのパターンかよ!」
「仕方ねぇ!こっちついてこい!」
俺は急接近してきた女に焦らず、いつもベッドの傍らに置いてある神剣を手に取り、窓を開け、外に飛び出す。
俺の部屋は城と廊下で繋がっているはなれなので、窓のすぐ下は地面なのだ。
「わんにゃーん!」
「おお!ラシー、久しぶりの登場だな」
地面に降り立った瞬間、犬と猫の混合した俺の使い魔、ラシーが頭の上に乗る。
ラシーは飼い方が分からなかったので、放し飼いにしている。だからだろうか、いつも城ではないどこかに行っている。今日は久しぶりにここにいたようだ。
「けど!ごめん!今は歓迎してる場合じゃないんだわ!」
ヒュっとその場から避ける。
「また!そうやって逃げてっ!」
ドゴォォン!という音とともに俺が元いた場所はえぐれていた。女は悔しそうに俺を睨む。
あぁ、もうまた、はじまったよォ、これで三日目だァ。今まではァ反撃はしなかったけどよォ、もういいよなァ?もう我慢しなくていいよなァ?
「ヒャッハーボコボコにしてやるよォ!女ァ!」
ふっふっふっ、最近寝てないから、頭おかしくなってきちゃったぜ、これが深夜テンションってやつかぁ!?
「ひぃ!」
俺のクズ発言に、女ァはびっびったようだ。
さっきまでの勢いを失い、一旦距離をとる。
「逃がすかよォ!」
(クイックandディレイ2nd!)
と同時に、俺はスキルを使う。
「なっ!動きが遅い!?」
「隙だらけだぜェ女ァ!」
動きが遅くなり、大鎌もまともに振れなくなった、女ァの隙を狙い一気に距離を詰める。
一瞬にして女ァの前まで近づき、神剣クサナギを女ァの首目掛けて振るう。
「くっ!まだです!」
「神ルミナスよ!我に恩恵を与えたまえ!」
そう詠唱を終えた後、女ァを中心に周りに爆発が起こった。
(ダメージはない?)
間近でその爆発を受けた俺であるが、体には傷一つついていなかった。
「さぁ!天に召されなさい悪よ!」
「ヒャッハー!悪はそっちだろう?」
「·····わんにゃーん(どっちかと言うとお前の方が悪ニャン)」←特別翻訳。
なんかいつもより黒色に光っている女ァだが、今の俺にはそんなことは関係ねェ、狙った獲物は逃さなェ、それが俺のポリシーよ。
「神、ルミナスに誓う、彼の者に縄をつけよ!」
「うぉ!?」
急に俺の体が重くなった。強制的に2ndも解かれちまった。
んだこれぇ!?
体が鉛みたいになって、マジで一歩も動けねぇ。
「ふふ、かかりましたね、私の罠に、この魔術リ・アイルは自らの体を強化して一定時間相手と殴りあった後、さっきの詠唱を唱えるとその相手を拘束できるというものなのです、デメリットとしてその間私はこの場から一歩も動けませんが·····」
「ダメじゃん!」
しまった、つい、ツッコミをしてしまった。
いや、なんか決まったぜ、みたいな顔で得意気に説明してくるからどんなおぞましい魔術なんだ!と思ったけど、案外そうでもなかったわ。あの女がポンコツで良かったわ、本当。
けど、どうしようか、この状況。俺は縛られ動けず、相手も俺を縛っていることにより動けず。両者共何も出来ないというこの状況。
そのせいか、頭に昇ってた血も収まってきたわ。
はぁ、こういう時に、神剣クサナギの複製と操作が使えれば良かったんだけどなぁ。
「あぁ!もうこのなまくら!神剣なんだからもっと使いやすくしろよ!」
つい、神剣に八つ当たりをしてしまった。
『うるさい!貴様!我の剣をバカにするでないわ!』
と、どこからか、懐かしい声が聞こえてきた。
え?もしかして今、剣、喋った?
「「え?」」
「にゃーん?」
そして二人の人間と一匹の使い魔の間に少し長めの沈黙が生まれた·····。
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