閑話 誕生日プレゼント

「報酬よ、受け取りなさい」

そう言って、王女様は袋に入ったお金を俺の手に渡してきた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!金だぁぁぁぁぁっ!」

「お、お兄ちゃん、こ、これが、おか、お金なの!?」

「す、すごい!すごいよ姉ちゃん、金だよ、これが金だよォ!」


俺を含めた、ルカ、ヒュリの三人は王女様、レイヴン・アダリーシアの部屋に来ていた。


ルカとヒュリには、この王城で、給仕として働いたお金を、俺はクサナギを討伐したことによる報酬をもらっていた。


いやー、嬉しいね、初めてだよお金持ったの。


この国レイヴンがある大陸、ユーラリア大陸には共通の硬貨がある。単位の名前はルナ、硬貨は1ルナ、50ルナ、100ルナ、1000ルナ、10000ルナ、の五つの種類で別れており、ルナの数がでかくなればなるほど、硬貨は大きくなっていく。


俺が貰ったのは、十万ルナ。大金である。このくらいあれば、ちょっと高級なレストランに十回は行ける。


対して、ルカとヒュリが貰ったのは一万ルナであるが、二人とも大喜びである。まぁお兄ちゃんとしてはちょっと貰いすぎじゃないか?と思わんでもないが、これは二人が頑張って稼いだお金だ。ケチはつけまい。


二人は本当に頑張っていた。


姫様の身の回りのお世話に、王城の掃除、など様々なことをこなしてきていた。

二人とも普通の学力はないが、貧乏生活によって、生活力はあるので即戦力であったらしい。ちなみにビル様から聞いた。


そのお陰で、二人はメイドさん達から好かれており、会えば、いつもお菓子を貰っていた。

まぁ俺はゴミを見るような目で今でも見られるんだけど··········悲しい。


「そんなに興奮することかしら?そこまでのお金ではないと思うのだけれど」


大金が入った袋を三人で崇め奉っていると、姫様は心底不思議そうにそう尋ねてきた。


「違うよ!姫様。これはすごい大金なんだよ!なんでも買えちゃうんだよ」

すまんなルカよ、なんでもは買えないんだ。


「僕の経験からすると、この城位は軽く買えると推測できますね」

·····ごめんヒュリ、頭良さそうなこと言ってるけど全然違う。流石に城は買えないよ。それに君、お金持ったことないでしょ。


「貴方·····」

姫様が信じられないような目で俺の事を見る。それを確認し、目をそらす。


ごめんなさい!お金の価値教えるの忘れてました!


「はぁ全く、一日、貴方達に暇を与えるわ、城下町にでも行って、お金の使い方を学んできなさい」

「·····分かりました」

「「分かりました!」」

そう言って、俺達は姫様の部屋を出た。


にしても姫様の部屋すげー綺麗だったな。部屋の中のあらゆる所が、金色で彩られていて、なんかすげー高そうな絵とか飾ってあった。

これが貴族か!って、ちょっと引いたね。


「ねぇ、ねぇお兄ちゃん、私姫様にプレゼント買いたい!」

廊下を三人で歩いていた所、俺の袖を摘み、ルカが上目遣いで言った。


「プレゼント?」

「僕も姫様にプレゼント買いたい」

俺が聞き返すと代わりに答えたのはヒュリだった。


ん?二人ともそんなにあの姫様と仲良かったっけ?


「なんでプレゼントなんか」

「んー?それはねぇ、お姉ちゃん私達が寝れない時いつも部屋に来てくれて昔話読んでくれるんだ、そのお返し!」

「マジか、お前らそんな優遇されてたのか·····俺びっくりなんだけど·····」


若干姫様に申し訳なかったな·····と思うものの、にかっと笑うルカについ、その気持ちはうすれてしまった。


「でもそっか、お世話になったんだな、なら”お返し”しないとな」


ついでに俺も姫様になんか買おうかな、色々お世話になったし。




ということでやってきました城下町。


クサナギを倒した時から二日くらいしか経っていないが、もう懐かしいと感じてしまう。


王城の中とは打って変わった喧騒が包み込んでいる。

あちらこちらで騒がしい声が聞こえる。


「すごいね!お兄ちゃん!いっぱい人いる!」

「あぁ、そうだな」

キャッキャっと年相応の喜び方で、ルカは楽しんでいることを俺に伝えてくれる。


ルカ達には、今まで町に連れてきたこと無かったからな。

そういう意味でもいい経験になるかもな。


「僕はちょっと苦手かな·····人が多すぎるからちょっと気持ち悪い」

俺に密着して、いつも以上に小さな声で俺にそう訴えてきたのはヒュリである。


俺はそんなヒュリの頭を優しく撫で

「じゃあ俺と手をつなごうか」

「·····うん」

ヒュリはそっと俺に手を差し出す。俺はぎっしりその手を握る。


「あー!ヒュリだけずるい!私も手ぇつなぐぅ!」

駄々を捏ねたルカも一緒に手を握り、正に両手に花の状態となった。




「すいませーん、なんか果物売ってますか?」

「はい、売ってますぜい、こちらのモーモなんて今が旬ですぜい」


俺たちは野菜屋さんに来ていた。なぜ、プレゼント選びの前にこんな所に来ているかと言うと、二人に新鮮な果物を食わせてやりたかったからだ。

悲しいことに俺は新鮮なフルーツを二人に食わせてやったことがなかったからな。


「ん?あんちゃん、どっかで、あっしと会ったことありますかい?」

「っ!·····いえ、ソンナコトハナイトオモイマス」


ま、まじかよ、この俺の目の前にいるおっさん俺の前の仇敵じゃねーか。

俺が盗みを働いていた時によくこの店主からじゃがいもなどを盗んでいた。その度にこのおっさんと鬼ごっこを繰り返していた。だから俺はこのおっさんの恨みをめちゃくちゃ買っているのだ。


いやー、気まずい、けどどうやらまだバレてないようだな。


まぁそれもそうか、俺の今の格好は半袖のTシャツに、茶色の短パンと、The村人みたいな服装だからな。ちなみにビル様から貰った。

俺が前盗んでいたガキとは思うまい。


それにルカはフリルがついた、メイド服のようなものを着ていて、ヒュリは俺と同じく、半袖短パンを着ている。

もうあの時の俺達では無いのだ。


「あぁ、そうかもな、俺の勘違いだったようだ、すまんねぇな、あんちゃん」

「イエイエ」


そして若干緊張しながらも何とか、桃、通称モーモを三つとミカーんを三つ買うことが出来た。

いやー怖かった。怖かった。




そしてみかんと桃を食い終わった俺たちはようやく姫様へのプレゼント選びを再開した。


「私ね!私ね!姫様に服買いたい!」

「僕は絵本買ってあげたい」


「わー、あの洋服もいいなー!わ!これもちょー可愛い!」

「この絵本面白い、後、この絵本、後々、この絵本も面白い、全部姫様に買ってあげたい」


「よーし!この洋服に決めた!」

「僕も決めた、この絵本買うよ」

二人ともすげー悩んだ末、ルカはピンク色の可愛い洋服を、ヒュリは”時の女神と創造の女神”っていう、絵本とは思えないほど難しそうな絵本を買っていた。


「「お兄ちゃんは何買ったの?」」

同時に二人はそう聞いてくる。


実は俺·····何も買ってません。


いやね!姫様ってすげー高貴じゃん!?だからなんか安っぽい物を買っても嬉しくないかな?って思ってさ!もう俺、何買えばいいか分かんなくなっちゃったのよ。


「いやーその言いづらいんだが、まだ買ってないんだ」

「「えー」」

くっ!二人からの冷たい視線が痛い。


「はぁ、一体何買えばいいんだか·····」

と顔を地面に落とす。すると俺の後ろから凄まじい輝きを感じた。


いや、何を言っているのか分からないかもしれないが、確かに感じたのだ。


その輝きに惹かれ、俺は後ろを振り返る。

俺の後ろには”ジュエリー販売店”と書いてあった。







時は太陽が沈みかけている暁時。


そんな時間に一人、落ちていく夕日を部屋から眺めている少女がいた。彼女の紫色の瞳が夕日の赤い光を反射する。

「はぁ、今日も疲れたわね」

少女は深く、深くため息をつき、机につっ伏す。


彼女はこの国の第二王女、レイミル・アダリーシアである。

彼女は王女として、齢、十四歳が抱えるべきではない仕事を請け負っていた。


なぜなら、兄がバカだからである。姉の方は性格は悪いが、仕事だけはできる。だが、兄はもうどうしようもなくバカなのである。

もう本当、バカなのである。


「·····今日は私の誕生日なのだけれどね·····」

そう今日、八月二十九日は彼女の誕生日なのである。

だが、祝ってくれたのは、ビルと、彼女の姉だけである。


いや、姉はお祝いと言うよりも彼女の好感度を上げに来ているだけだった。

なぜなら、誕生日プレゼントが100万ルナという、味気も何も無い物だったからである。

案外彼女は誕生日というものを気にしている性格である。


しかし、毎年毎年、同じ人しか祝いに来ない。彼女の父など五歳の誕生日以降一度も来たことがない。

母に至っては一度も彼女を祝ったことがないのだ。


彼女は不遇の少女なのである。


「ふぅ、まぁいいわ、毎年のことなのだから·····」

そう言って、椅子から腰を離した瞬間、彼女の部屋の扉からコンコンとノックする音が聞こえた。


(誰かしら?)

と思いながらも彼女は部屋の扉を開ける。


すると開けた瞬間、

「姫様ー!これプレゼントです!姫様にあげますです!」

「あの、その、僕のもどうぞ」

勢い良く、一人の少女が洋服片手に彼女に飛びつき、それに続き、小さい男の子が遠い所から彼女へと袋に包まれたものを差し出している。


「え?」

当然彼女は困惑する。


「おい!こらお前ら!姫様に失礼だろ!」

そう少し焦りながら背は彼女より少し大きめの男が少女と少年を片手で持ちあげ、自分の両隣に置く。


「どういうことかしら?説明しなさいレイミル」

「は!」

彼女は三人の中の一番でかい男、レイミルに状況の説明を求め、レイミルはそれに応え、説明を始める。


そしてレイミルの説明を聞く限りどうやら彼女にプレゼントを買ってきたようであった。


「私はこれ!買って来たのです!」

少女は彼女に見せびらかすように、フリルがついたピンク色の可愛らしい洋服を出す。


「その、僕はこれです」

少年は袋に包まれたものを渡す。形状からして、中に入っているのは本かなにかだろう。


「·····貴方達·····」

彼女はゆっくりとした手の動きで、そぉっとその二つのプレゼントを受け取る。


「えへへ、嬉しい?ですか?」

少女は満面の笑みでそう聞いた。

「えぇと、その·····とても嬉しい、礼を言うわ」

彼女は照れているのか、目線をあちこちにやりながら、そう答えた。


彼女は嬉しさで今にも飛び跳ねそうだった。


彼女は普段、本性を隠して気丈に振る舞っているが、彼女はまだ14歳である。プレゼントを貰えば嬉しくもなるだろう。


「ほら!お兄ちゃんも!」

少女は強気に兄であるレイミルの背中を叩く。


「わ、分かったよ、、、その姫様、これどうぞ、あの文句は受け付けますんで」

レイミルはよそよそしく、小さい袋に包まれた何かを彼女に渡す。


「?、今開けてもいいかしら?」

彼女は気になったので、そう聞いた。


「まぁいいですけど·····」

レイミルはそう言っておきながらも凄く嫌な顔をしている。


対して彼女はそんなレイミルの顔を見ることなく、プレゼントを開けた。

それほど、彼からのプレゼントが気になったのだろう。


そして中に入っていたものとは·····


「カエルのブローチ、かしら?」

「はい·····」

入っていたのは至る所に宝石が散りばめられているカエルのブローチであった。

まぁ可愛くなくもない。


そして流れる沈黙。


「あの!そのですね!姫様は色んな高級なものを持っているじゃないですか?だから姫様が持っていない高級なものってなんだろうと考えた結果·····」

最初に沈黙を破ったのはレイミルであった。彼は彼女に理解してもらおうと必死で言い訳をする。


「レイミル、ありがとう」

だが、そんな必要はなかったようだった。

彼女はそのカエルのブローチを迷うことなく、自分が着ている洋服につける。


「どう?似合うかしら?」

彼女はヒラリとその場で一周する。

その行為はその場にいたものの視線を集中させた。


「姫様!可愛い!です」

「はい·····とても綺麗だと思うのです」

少年と少女はその彼女の姿を絶賛する。

そしてレイミルもまた·····

「はい、とてもお似合いだと思われます」


そう言われた彼女は笑った。今日一番の笑顔だった。






哀れなことに彼らは別にアダリーシアの誕生日を知っていたわけではないということを知らされるのはすぐ後のことである。



そしてその次の日、彼女はキャラに似合わないことをしてしまったと後悔するのであった。





















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