第13話名悪役クサナギ
我は英雄であった。
街に現れた怪物を死にものぐるいで倒し、我は英雄と称えられた。
嬉しかった。
英雄と呼ばれる毎日は我の自尊心を満たしてくれていた。
我は毎日のように化け物と戦い、勝ってきた。
我は正しく、”最強”であった。
しかし、我は老いた。
英雄だとしても老いには勝てなかったらしい。
けれど、我は化け物と戦うことをやめなかった。我は栄光が欲しかったから。我はずっと世界に立ち続けたかったから。
そんな日々を死ぬ気で生きてきた。
しかし、現実は無情で、我は徐々に化け物に勝てなくなっていき、ついにはそこら辺にいるゴロツキにも勝てなくなっていってしまった。
そして時が経つにつれ、我は”廃れた英雄”や”過去の者”と呼ばれるようになっていった。
悔しかった。
我はもうこの世界の物語には必要ない存在なのだと、排除されたような気分になったのだ。
我はもう死のうと思った。
死に場所として我は下水道を選んだ。
そして己の心臓に剣を突き刺し、我は死んだ·····
筈だった。
我は死んでも尚下水道にいた、それも化け物として。
”なぜだ?”最初に我はそう思った。
我は別に誰かへの怨念など持ち合わせていなかった。
だから我が何故化け物になったのか分からなかったのだ。
それから何年くらい経っただろうか?
その間我は一人ずっと下水道で生きてきた。
そんな我にある一人の人間が現れた。
人間は言った
『ぬしは何のためにここにいる?』
ローブを着て、フードを被った人間、と言うより、幼女だった。
『分からない、その答えを我も探している』
我は人間の質問にそう答えた。
『うむ、それは困ったものだ、ぬしはおそらく、クサナギじゃろ?』
驚いた、我の名前を知る者がまだいようとは、しかもこんな幼女が。
それが少し嬉しかった。
『のぅ、そんなぬしに一つ提案してもよいか?』
『なんだ?言ってみろ』
『ここに人間を連れてきてもよいか?お前を打ち倒したいと思っている人間を』
不思議なことを言う幼女だと思った。こんな幼女が他の人間を操れるとは思えない。しかし、その幼女の言葉には妙に説得力があった。
『いいだろう、我も丁度暇していた所だ、連れてくるが良い』
我はその幼女の提案に乗った。
『だが、何故貴様はそんなことをする?貴様にどんなメリットがある?』
我はそう聞いた。
『手短に言うと、”この世界の未来のためじゃな”』
幼女はそう言った。その時の我には幼女が言った意味を理解出来なかった。
そして次の日から欲にまみれた人間共が来るようになった。
しかし、
『うわぁぁー!こんなの勝てる訳ねー·····が!?』
『嫌だ!嫌だ!死にたくない!』
『た、助けてくれ!な、なんで、もする、だから·····ぎゃぁぁぁぁぁっ!』
来るのは情けない人間ばかり、我にとっては暇つぶしにもならなかった。
つまらない、我はそう思った。
来る人間達は皆同じく、我は自身ではなく、我の剣を欲しがった。我を倒すことによる、栄光を欲しがった。
そして今日もまた人間が来た。
『汝は何しにここに来た』
我はいつもこのように下水道に来た人間に聞く、間違って、関係ない人間を殺さないようにだ。
『お前を倒しに来た』
現れた人間はまだ幼かった。
しかし、威勢だけは良さそうであった。
『そうか·····汝もか·····一つ聞いて良いか?汝もこの剣が欲しいのか?』
我はそう聞いた。
『あぁ、俺はその剣が欲しい』
『そうか、ならば、殺そう、欲望にまみれた少年よ』
『はっ、そう易々と殺されるかよ、いいからかかってこい、クサナギ』
本当に威勢がいい少年だ。我はそう思った。まぁそう思っただけだが。
どうせこの少年もすぐに逃げるのだろう。我はそう思っていた。
だが、違かった。
「にぃ、ひっかかった」
「なっ!」
この少年は我との戦いに本気だった。不思議な武器を使い、必死になって、我を倒そうとした。
「くっ!せこいぞ!貴様!」
口ではこう言ったが、内心は少し嬉しかった。
しかし、少年は言った。我を過去の者だと、我を元英雄だと。
「·····舐めるなよ、少年、いやクソガキよ」
口ではこう言っているが、我の心は酷く高揚していた。
まるでこの時を待ちわびたかのように·····
そして我はクソガキを打ち倒す為に、我は約八十本の剣を用意した。
これでもう勝敗は喫したようなものだ。この量を避けられる筈がない。
そう、避けることは·····
「っ!」
クソガキはものすごいスピードで剣の雨の中を突っ込んできた。
無論、体中に剣が突き刺さる筈だ。その姿は我の目では追えぬが·····絶対にそうなるはずなのだ。
しかし、クソガキはたどり着いたのだ。我の元へ。我の目の前へ。血だらけになりながら。
「きさっ!?」
「遅い」
堪らず剣を振る。しかし、コンマ数秒後にはその場に、クソガキはいなかった。
「だからぁ!殺気がだだ漏れだと言っておろうが!」
振り向く、そして剣を振るう。しかし、剣は我の手をすり抜けどこかへと飛んでいってしまった。
「まだだ!」
我は背中をそらし、なんとか避けようとする。
「じゃあ両腕貰うな」
相手はそれを読んでいた。
そして我の両腕は両断された。
我は相手の顔を見る。
その顔にはしてやったり、という表情が滲み出ていた。
かっかっかっかっ、百年か、いやそれ以上かもしれん。
我がこの世界の物語から除外されて、現在にいたり、我はようやく気づいた。化け物になった理由を。
我はたとえ、悪役だとしてもこの世界に存在を証明したかったのだ。
その強い気持ちが怨念となり、我は化け物となったのだ。
ありがとう、小さき英雄よ。
我は今、ようやく実感することができた。
”我はこの物語の悪役”なのだと。我はまだ”物語の登場人物”なのだと。
我は悪役で少年が英雄。
あぁ、なんと素晴らしいことだろうか。
ここは確かに誰もいない、誰も来ない下水道だ。
だが、そんな下水道だからこそ意味がある。こんな薄汚い場所だからこそ、この小さき英雄の勝利を飾るにふさわしい。この神聖なる戦いを見るのは淡く世界を照らす月だけでよいのだから。
我はここで死ぬ。だが、それでよい、そうでなくてはならない。なぜならここからこの少年の英雄譚は始まるからだ。その最初の悪役が我であっただけのこと。
ならば、我は最後まで悪役らしく、死ぬ気で無様に生きて見せようか!
「我はまだ
「はっ、最後まで付き合ってやるよ
とは言ったものの·····困ったことになったぞ。
俺はクサナギの両腕落とせば剣握れねーし、勝手に負け認めねーかな?と思ってたが、全然違った。
まさか、両腕を落としても尚、戦う意志があるとは考えもしなかった。
不味い、非常に不味い。
3rdの反動で、常時発動していた、1ndの効果も切れちまったし。
というか怪我が結構深刻だ。
正直、今こうやって、剣を地面について膝立ちしているだけでもかなり辛い。
『来ないのか?ならば、我から行くぞ!』
「ぎっ!」
ドン!と勢いよく地面を蹴ったクサナギは一瞬で俺との距離を詰め、蹴り技を出してきた。
体を倒すことによって蹴りはかわせたが、これでは攻撃に転じれない。ジリ貧だ。
『さて、我も死力を尽くすとするか』
「まずっ」
なんと、クサナギが移動した場所には先刻俺製ローションによりどこかに飛んだ神剣クサナギが落ちていた。
神剣クサナギを口でくわえたクサナギはまたも剣を複製しだす。
だが、今回は量が少なかった、目算だが十本ほどだろう。おそらくクサナギもう魔力が尽き始めているのだ。
そして、俺の体が耐えられる3rd使用時間は残り約五秒。
正真正銘、最後のクイックandディレイだ。
·····次で、決着がつく。
「ふぅー」
深呼吸をする。
そして·····
「クイックandディレイ3rd」
俺は風となる。
『来い!』
瞬間、クサナギも剣を放つ。だが、避けるのは容易だ。前の剣の量とは比較にならないほど少ないのだから。
残り四秒。
右、左、上、下、そして右、に剣を避けまくる。
残り二秒。
そして俺は再びクサナギと相対する。
『ふん!』
クサナギは口でくわえた剣を俺に向かい、振り下ろす。
しかし、それが俺に届く訳もなく。
グサッ
それを軽々と避けた俺は、クサナギの心臓に剣を突き立てた。
残り零秒。
「がはっ!?」
『ぶふっ』
俺とクサナギは同時に倒れる。
ダメだー、もう指一本動かせん。
数秒経った後、先に口を開いたのは以外にも
クサナギの方だった。
『見事であった、英雄よ』
「!、なんだよ、はぁ、はぁ、急に、はぁ、呼び方、はぁ、変えやがって」
『はっ、良いでは無いか、呼び方を変えるくらい、なぁ、英雄よ、一つ聞いて良いか?』
「あぁ、いいぜ、はぁ、はぁ」
たくっなんなんだよ、急にしおらしくなりやがって、調子狂うぜ。
『我は、悪役であったか?我は過去の人間ではなかったか?』
「あー、なるほどねー、そういこと、はぁはぁはぁ、そうだな、英雄としてのお前は過去の人間だろうけど、悪役としてのお前は十分今の人間だと思うぜ」
『我は化け物だがな』
「ははっ、そうだったな、はぁはぁ」
やばい、だんだん意識なくなってきた。血も止まらねー。
『我は貴様との戦いに満足した、だから、ありがとう、これだけは言っておこう』
「そりゃ良かったよ」
ちょっ、まじでやばい、目の前の景色が歪み始めた。
『一つ言っておこう、これから先の戦いにおいて、我より強い敵は幾らでもいるだろう』
「···············」
『たが、どんなに強い敵であったとしても立ち向かえ、どんな困難が待ち受けていようと、それを打ち破れ、貴様にはそれができるのだから』
「善処するよ·····」
『はっ、全く小生意気な小僧よ、まぁいい、では、もう一度言おう、見事であった』
あ、これ、もう、だ、め、な、やつ········································。
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