第12話二つの”かもしれない”

「スキル、ですか?」

「はい」

昼下がりの訓練場での事。

俺はいつも通り汗を流し、ビル様と修行をしていた。


そこで俺はスキルについて少し、説明することにした。


「スキルっていうのは、まぁ簡単にいえば、神の技術みたいなものです」

「?、それだと少し分かりませんな」

ビル様は首をひねり、困ったような顔をしていた。

まぁそれもそうだろう、実を言うと俺も未だによく分かっていないからな。


「そうですねー、魔術は普通詠唱を必要とするじゃないですか」

「はい」

「けれどスキルには詠唱が必要ないんです、言うなれば詠唱がない魔術みたいなものなんです、スキルっていうのは」

「なんと!それはすごい技術ですね、もしそれを発表すれば、世界にレイミル殿の名を残せますぞ」

「いえ発表はしません」

「·····理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


ビル様は一旦剣を置き、その場に座る。俺もそれに習い、剣をその場に置き、座る。


「強者に負けたくないから、ですかね?魔術を使う者達は当たり前のように俺のような弱者を陥れる、もうそういうの嫌なんですよ、俺は自由を手に入れたいから、もし、このスキルを発表してしまったら、俺と強者との差が開いてしまう、そうなったら自由はもう二度と手に入らない、そして俺は強者に勝てなくなっしまいます」

「ふっなるほど、負けずきらいなんですね、レイミル殿は」

「まぁ、そうですね」


少し、照れるな。その照れからか、自然とビル様から目を逸らし、頭を搔く。


「ほっほっほっ、照れる必要はありませんよ、その感情はとても大事なことですから、にしても詠唱が必要ない魔術ですか、もしかしてそのスキルというものは体への普段が大きいのでは無いですか?」

「!、よく分かりましたね、その通りです」

「やはりそうでしたか、魔術というものは、神へと近づく為に人間が考えた魔力を使った技術なのです、そして魔術を使う際、つまり神へと近づく際、身体への負担を防ぐために人間は詠唱という”ことば”を創った」


しかし、とビル様は続ける。


「スキルにはその詠唱がない、となれば身体への負担は凄まじいものでしょう」

「やっとスキルというものが分かってきました、先程レイミル殿が言っていた神の技術という表現にも納得がいきます」


「理解してもらえて嬉しいです、そうなんです、俺が使うクイックandディレイというスキルには、1nd、2nd、3rd、4th、というレベルがあるんです、そのレベルが上がるごとに負担が上がっていくんです、ちょっと見せますね」


ビル様に実際にスキルを見せる為に俺は立つ。


そして、1nd、2nd、3rd、と順にスキルを見せていく。ついでにこのスキルの説明もする。


「はぁはぁ、はぁはぁ、はぁはぁはぁっ!」

「こ、これがはぁ、俺の、はぁ、スキル、です」


やばい、流石に疲れた。特に3rdはやばい。使った時間は一秒だけだったから助かったが、一秒以上使っていたら、多分明日以降も動けなかっただろう。


「ほっほっほ、実際に見ると凄いですね、特に3rd?、でしたか?あれは凄まじい、おそらく本気の私より早いでしょう」

「はぁ!、はぁ!、それは、はぁ!うれ、はぁ!しいで、す!」

「ですが、負担も大きいようだ、まずはその1ndを常時使えるようにした方がいいでしょう」

「はぁ!、そう、かもしれません、ね」


なんとか動けるようになり、立ち上がる。


「はぁ、にしてもこの3rdはいつ使えばいいんでしょうね」

俺がそう言うと、ビル様は俺の事を真っ直ぐに見つめていた。


「ではそんなレイミル殿に一つ質問を、もしレイミル殿が生きるか死ぬか分からない戦いに身を投じ、後ろには退路、前にはその敵がいると仮定した時、3rdを使えば逃げられるかもしれない、しかし、3rdを使い敵を打ち破れば、栄光が手に入るかもしれない、そんな時、レイミル殿はどう3rdをどう使いますか?」

「それは·····ど、うなんでしょうか、分かりません、かもしれないっていう予測がありすぎて」


見るとビル様は笑っていた。


「人生とは”かもしれない”の連続です、こっちに行けば正解かもしれない、これをすれば失敗するかもしれない、そんな風に人間はある程度の未来の予測をして、今を生きている」


そして、とビル様は続ける。


「そんな二つの選択に迫られた時、普通の人間は生きる可能性が高いかもしれないを選ぶ、しかし、夢を叶えられる人間は皆全て迷わずその夢を叶えられるかもしれないへと足を踏み入れる、ふっ、そんな難しい顔をしなくて良いんですよレイミル殿」

ビル様は少し笑う。


「今は分からなくてもいいでんです、ただ、本当にそんな選択を迫られた時、迷わず夢が叶えられる方へとその3rdを使えるような人間で在ってほしいと私は願っています···············」







「あーたくっ、今あの時のこと思い出したら、立ち向かうしかねーじゃねぇか」

目の前には数十本の剣を備えたクサナギ、後ろには退路がある。


あの時、ビル様に言われた状況と全く同じだ。


(はぁやるしかない、よな?)


俺はビル様との修行により、常時1ndを使えるようになっており、3rdは二十秒間使えるようになった。


「俺はお前を倒せるかもしないに賭ける」


剣を構える。



『貴様が我をか!?無理な話だ!この量の剣だぞ!どうやって防ぐというのだ!』

「バカかお前、防げる訳ねーだろーが、だから怪我覚悟で突っ込むしかねーんだよ」


「いいからさっさと打ってこいこのノロマ、テメーの剣、かいくぐって、首を落としてやるからよぉ」

『いいだろう!この剣の猛攻凌いで見せよ!』


瞬間、クサナギから十数本の剣が放たれる。


「クイックandディレイ!3rd!」

対して俺はスピードをあげる。

俺に襲いかかってくる剣と剣の間をくぐり抜けていく。


『な!?早い!』

抜けた、と思われたが、クサナギはまだ複製剣を残しており、その残った剣を全て俺にぶつけてきた。


「くっ!」

さっきの剣の量とは比較にならない、大量の剣が俺の目の前を埋め尽くす。

隙間なんてどこにもない。


「なら!」

剣を振るう。ただがむしゃらに自分の道を切り拓く為に。


「ぐっ!」

グサッグサッと次々に俺の身体を剣が刺す。


痛い。


しかし、足は止めない。どんなに傷ついてもどれだけ痛くとも、足は止めてやらない。


そして、剣を振るい続け、足を止めなかった報酬かのように、俺はクサナギの目の前にたどり着いた。


『きさ!?』

「遅いぞ」

俺はクサナギが剣を振るうタイミングで後ろに回り込み、首を狙う。


『だからぁ!言っておるであろう!殺気がただ漏れだと!』


俺の殺気に勘づいたクサナギは勢い良く振り向き、持っていた剣を振るった。


『なっ、抜け·····』

しかし、クサナギが振るった剣はすっぽりと抜け、どこかへと飛ぶ。


「閃光玉投げた時、お前の手に俺製ヌメヌメ液、かけといたんだよね、まぁこれで終いだな、眠れクサナギ」

『まだだ!』

クサナギは俺の剣が首に触れる直前、身体を後ろに傾けた。

それにより、クサナギはなんとか剣を躱す。


「じゃあ、両腕貰うな」

クサナギの首をとるのを諦め、先程剣を振り切ったことにより隙だらけになった両腕を狙う。


ズバンと肉が断ち切れた生々しい音がした。


ぼとっとクサナギの両腕は地に落ちる。


「クイックandディレイ解除」

(ぐっ!使ったのは十五秒くらいか?痛ぇぇ、まじで泣き叫びたい)


「ど、どうだ、クサナギ、こ、これ、が、お、れの力、だ、ぜ」

やばい、痛すぎて、呂律ろれつ回んない。


だが、俺製ヌメヌメ液(ローション)作っといて良かったな。


閃光玉を投げた時、元より、首は取れないだろうなと思っていた俺は剣を振るったのと同時に、クサナギの手に、ヌメヌメ液(ローション)をかけてといたのだ。


「は、は、まぁいい、こ、れで、お、れの勝ち、だ、っ!?」

ガクンと、膝から崩れ落ちる。カランカランと片手剣が地面に落ちる。


やばい、身体中からの血が止まらない。

ドクドクと、とめどなく溢れてくる。しくじった、さっきの大量の剣を身体で受けすぎた。


『我はまだ英雄、我はまだ、物語の登場人物である、さぁ決着といこうか、クソガキよ』

「っ!?」

まじかよ。


両腕を無くしているというのに、クサナギはまだやる気なようだ。


「はっ!最後まで付き合ってやるよ!英雄!」

俺の精一杯の強がりであった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る