第11話開戦

ピチャン、ピチャン、と水が落ちる音を耳に入れながら、カサカサと足の下を動き回る虫をなんとか避け、俺は下水道を歩いていた。


「ねぇ、マリンちゃんって何歳なの?」


俺の事を先導し、火のついたロウソクが入っているランタンを手に持っているマリンちゃんに聞く。


「七歳です」

「へー、俺の妹と同じだ」

「そうなのですか」

「うん、今度遊んでやってよ」

「·····はぁ、お言葉ですが」


突然マリンちゃんは振り返り、そのフードの下から鋭い眼光を俺に向けて、その場で止まる。

その威圧感に俺は肩をビクッと震わせ、俺も同じくその場で止まる。


「貴方様はクサナギを前に気を抜きすぎではありませんか?」

「いや、別にそんなことは·····」

「いえそうなのです、私は今までそうやってクサナギを舐めて死んで行った者を多く見てきました」

「···············」

「まぁつまり、私が言いたいのは気を引き締めてください、という事です」


あぁそうか、俺はいつの間にか気が緩んでいたんだな。

そうだ、この世界は簡単に命が無くなってしまう世界なのだ。それは俺が一番よく分かっていた筈だ。


だけど、忘れていたんだ。王女様やビル様に甘やかされ、まぁ甘やかされたって言えるほど甘やかされてはいなかったが、ボロ家暮しの時に比べれば全然楽だった。そして月日が経つ毎に、王城での暮らしに慣れていってしまい、弱者の日々を忘れていた。


思い出せ俺よ。ここはあの『曇天の空の下で』の世界だということを、そして俺は弱者だということを。


”パァァン!”と下水道にいい音が響く。


「どうして頬を?」

そうマリンちゃんは聞く。

「気付けの為さ、自分へのな」

「なるほど、それは面白い気付けの仕方ですね」

気のせいだろうか、今マリンちゃんが笑ったような気がした。

まぁ多分、気のせいだ。


そして心意気新たに俺達は歩き始めた。


しかし、すぐにマリンちゃんは歩を止めた。

「レイミル様、着きました」

マリンちゃんは俺の方を向きそう言った。

俺はマリンちゃんがいるさらに奥を目を凝らし、見る。


下水道にいたからか分からないが、気づけば夜になっていたようだ、下水道の穴から淡い月の光が漏れ出ている。

そしてその月の光を一身に受けている侍のようなものが一体いた。


「·····あれが」

「はい、あれが、クサナギです」

「分かったここまで案内ありがとう、君は帰って貰っても構わないよ」

「いえ、お婆さんから帰りも案内するように言われているので、ここで待ちます、それにクサナギは手を出さなければ、襲っては来ないので」

「へー、そんな特徴があったんだな、じゃあそこで見ててよ、俺頑張るから」

「はい、頑張って下さい、私はレイミル様の健闘をお祈りしています」

マリンちゃんはぺこっと可愛らしくお辞儀をした。

俺はそんな可愛らしいマリンちゃんを背に、クサナギの方へと歩き出す。




『汝、何しにここに来た』


クサナギまで後数歩という所でクサナギの方から話しかけられた。

近くで見るとすごいな、ちゃんと侍だ。


青銅色の兜には三日月の紋様があり、体には絶対に重いであろう、青銅の鎧を着ていた。なんか礼儀正しく正座なんかしてるし。



「お前を倒しに来た」

歩む足を止め、クサナギと相対する。


『そうか·····汝もか·····一つ聞いていいか?汝もこの剣が欲しいのか?』


そう言って、クサナギは傍らに置いてあった、立派な鈍色をした日本刀【神剣クサナギ】を見せる。


「あぁ、それが俺は欲しい」

『そうか、ならば殺そう、欲にまみれた少年よ』

「はっ、そう易々と殺されるかよ、いいからかかってこい、クサナギ」


クサナギはのっそりと起き上がり、神剣クサナギを片手で持ち、半身になって構える。


対して俺は片手剣を両手で持ち、切っ先をクサナギの心臓へと向ける。


『ふ、では参る』

「来い!」

そしてクサナギは抜刀の構えを取り、剣を抜いた。


(っ!?)

瞬間、俺との間にあった間合いはまるで無かったもののようにクサナギは目の前にいた。


(まずっ!)

俺の首の薄皮に触れるクサナギの剣。それを俺の反射でのけ反ることでなんとか躱す。


「にゃろ」


しかし、剣を大振りで振るったクサナギは大きい隙を見せる。

その隙を狙い、俺はクサナギの手首へと、片手剣を切り上げる。


”ギィィィィィィィィィィィィン”と金属と金属がぶつかる甲高い音がした。


「ま、じか」


俺の切り上げた剣は突然クサナギの手首の周辺に現れた剣により防がれたのだ。


くっそここで、能力ちから使ってきたのかよ!


この世界には、二本の伝説の剣がある。一本は聖剣エクスカリバー、そしてもう一本が神剣クサナギなのである。


伝説の剣にはある特殊な能力がある。


そして神剣クサナギには自分の複製を創るという能力があった。

しかもその複製された剣は持ち主の見えている範囲どこにでも創ることが出来、創ったその場所に任意で固定させることができるのだ。

さらに修練を積めば、その複製された剣を自由自在に操ることが出来る。

確かゲームでの王女様は一万本くらいの複製を一気に操ってたな。


複製された剣は本体ほど固くはないが、簡単には折れない程の強度を持っている。

だから今の俺じゃ絶対に壊せない。


つまり


「はは、どうやって勝とうかな」


策はある。けど、効くかどうか分からないんだよなぁ。


って!?


「あぶなぁ!?もうちょっと、待てよ!」

そんな悠長に色々考えていたら、いつの間にか、俺の目の前に数本剣が迫ってきていた。

それはバックステップで避けられたが、体勢を崩してしまい、よろけながら悪態をつき、前をむく。


「っ!」

しかし、そんな俺の声は届かず、クサナギは複製した剣を次々に俺に投げてくる。


だぁくそ!


右に左になんとか剣を避けられても肝心のクサナギに近づくことが出来ねぇ!剣多すぎるだろ!


「クッソ!」


こうなったら一旦逃げる!全力で逃げる!


『逃がすものか』

ドン!と大きな音が俺の後ろから聞こえた。


『我は挑みしもの全てを殺す』

「にぃ、引っかかった」

『なっ!?』

急停止し、振り返る。


既に目の前には空中へと飛んだクサナギが剣を振りかぶっていた。

ナイスタイミングだぜクサナギさんよぉ、これでも喰らってな!


俺はある物をクサナギに向かい投げる。瞬間俺は目をつむる。


『なんだ!?』


俺はクサナギの焦った声を聞きながら、ゆっくりと目を開ける。


「どうだい?王女様特製の閃光玉のお味は?」

『くっ!?何をした!』


クサナギは目を抑え、たじろぐ。


王女様特製、閃光玉。


これは俺がクサナギの元へと向かう前に、王女様から渡されたものだ。王女様いわく「貴方単体の力じゃ勝てないだろうから、これをあげるわ」ということらしい。


なので、王女様からさっき使ったのを合わせて三つ程、閃光玉を貰っていたのだ。


この閃光玉には王女様の魔力が入っており、何か強い衝撃を与えるとコンマ数秒後後爆発するという代物だ。


「さーて、クサナギさん♪大ピンチだね」

『くっ、貴様!せこいぞ!』

「はっはっ!せこくて結構、勝てればいいんだよ、勝てれば」


なんとか助かったな、クサナギが案外安直な奴で良かった。

神剣クサナギを持ちながら、さらに狡猾なソウルビーストだったら最悪だったな。絶対に勝ち目なかった。


「さぁて!これで終わりだ!」

大振りに片手剣を振りかぶり、、腰を一気に回す。

腰を回した反動により片手剣は横殴りに凄まじいスピードで放たれた。


それと同時に水しぶきがクサナギの手にかかる。


その剣はクサナギの首を捉え、そして首を跳ね飛す、予定だったのだが·····


「まぁそう簡単にはいかねぇよな」


勢い良く振ったその剣は宙を切った。

そうクサナギは背中をのけぞらせ、バク転することによって、華麗に俺の剣をよけたのだ。目が見えない状態でだ。


まぁこうなることはだいたい予想がついていた。クサナギは強い。多分、俺よりもずっと、ずっと強い。だからこのくらいの攻撃は避けられるんだろうなとは思っていた。


だって、クサナギは元・英雄だからな。


『ふん、そんな殺気がビンビンの状態で、我に当てられると思うなよ』

「はは、普通の人は殺気なんて感じれないんだけどね」

『舐めるなよ我は英雄として幾度のソウルビーストと戦ってきたのだ、そんな我を普通の者達と同じ括りで考えるでないわ』

「はっ、それはもう昔の話だ」

『くっ、貴様も我を過去の者というか!』

クサナギは突然、大きな声を出す。


「当たり前だろ、お前はもう一度死んでる、その時点で過去の人間なんだよ」


『·····舐めるなよ少年、いやクソガキよ』

何故言い直した。しかもなんか口悪くなってるし。


「!」

クサナギを中心に、剣が創られていく。五本、十本、二十本、とどんどんその数は増えていく。


さっきまで俺に投げられていた剣の数とは段違いに多かった。


『ここからが本番だ、クソガキよ』

完全に治ったクサナギの目には、赤い炎が宿っていた。


やべー絶対にキレてるよあれ。






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