第10話第二のヤンデレ女
服装を汚い布切れの代わりに王女様から支給されてもらった戦闘服は上下黒で、ズボンは膝下辺りできゅっとしまっており、見えてしまう足の肌を隠すように黒の靴下で隠す、上はあらゆるところに小さいポケットみたいなものがあって、色んなものをしまえる。
さらに、腰には片手剣を入れられる鞘がついており、そこに王女様からもらった銀製の剣を収納している。ちなみに安物らしい。まぁにしてはなんか禍々しい気配感じたけどな。
けど王女様には感謝している、こんな立派な格好をしていれば奴隷と罵られることは無いからな。
と、いうわけで身も心も新たに城下町にやってきた訳だが、、、下水道ってどこよ?
···············情報収集開始!
「あのー、すみません、下水道ってどうすれば行けますか?」
「あァ?下水道?テメェもクサナギに挑戦するってことかァ?たくっやめとけやめとけあんなやつ、絶対に勝てねぇんだ、命を大事にしろォ」
「そ、そこをなんとか」
「だァかァらァ俺は無責任に人を死なせに行かせたくねぇんだ、他ァ当たれ」
最初に、人柄が良さそうなリンゴ売りのおっちゃんに話しかけたのだが、このように追い返されてしまった。
まぁいい、次だ次。
「あのーすみません、下水道への行き方を教えて貰いたいんですけど·····」
「なんだい、あんた”挑戦者”かい、あの噂を聞きつけて来たんだろう?」
「はい」
「ならわかっているはずだよ、あいつには勝てないってね」
「いや、けど俺は挑戦したいんです」
「ダメだよ、私は他人を地獄へ導きたくないんでね、他をあたりな」
城下町の大通りで出店を出していた婆さんに聞いたが、やはりダメだった。
はぁ、どうすっかな。··········ん?婆さん?あ!そうじゃん、婆さんがいたじゃねーか!
「お久しぶりです、婆さん」
「!、あんた、□□□かい?」
「前の名前を言うのはやめて下さい、今の俺の名前はレイミルなんです、前の名前は忘れて下さい」
俺は道具屋『魔女のアトリエ』を訪れた。
洋装は以前来た時と変わっていなく、様々な物が陳列されていた。
そのカウンターの椅子に座っていた白髪を腰まで下ろし、碧眼の二十代くらいに見えるが実年齢は六十越えという美魔女婆さんは振り返り、俺を見て、驚きと嬉しさがいりまじったような顔をしていた。
まぁ俺も嬉しい。王女様の所にいる間は毎日修行だけで、休み貰えなかったからな。
「?、それは新しい名前かい?あんた私が知らない間に何があったんだよ」
「あーそれは話すと長くてですねー」
と若干めんどくさいなーと思いながらも今まで起こった事を掻い摘んで婆さんに話した。
もちろん、ここがゲームの世界ってのは隠してね。
「あんた、なかなか凄まじい経験をしたもんだねー」
「はは」
「けど、良かったよ、あんたが元気で、ほらそんな所に突っ立ってないで、こっちに来な」
そう言って婆さんは店の出入口の前に立つ俺へと手首を動かし、手招きをした。
俺はそれに乗り、婆さんの方へ歩く。
「ほらここに座りな」
と言って婆さんは隣にある椅子をぽんぽんと叩いたので、大人しくそこに座る。
「本当にでかくなったな」
「ちょっ、頭撫でるのは流石に恥ずかしいですって」
「うりうり、そんなこと言ってー、嬉しいんだろ?」
「もーからかわないで下さい」
「ふっ、すまなかったすまなかった、で?話は変わるが、お前は今日何しに来たんだ?」
婆さんに荒らされた髪を手櫛で整えている所に婆さんはそう質問してきた。
「あー、それはー、婆さん、下水道の行き方って知ってますか?」
「下水道?あぁ、知ってるが·····ははーんわかったぞお前もしかして、クサナギと戦うつもりかい?」
「えっとーまぁ、そういうことになりますね」
「ふっ、そうか、いいだろう案内をしてやる」
「え?いいんですか?」
「当たり前だ、私はお前のしたいことをさせてやりたいんだから」
婆さんは歯を見せて笑った。その笑顔はとても美しかった。
「はは、なんかお母さんみたいですね」
「そうかい?そう言われると少し照れるがね」
「けど、ありがとうございます、今まで門前払いされていたので、本当に助かりました」
深々と頭を下げる。
「まぁ、案内をするのは私じゃないんだけどね」
「出てきな」
婆さんは後ろにある、物置のような部屋を見やり、声をかけた。
俺もそっちの方を見ると、暗い影の中から一人の幼女が出てきた。
フードを被っており、顔はよく見えないが、背はとても小さかった。
ルカと同じくらいかな?
「あのー、この子は?」
「案内人さ、年齢はちょっと低めだけどね」
「案内人?」
「まぁ、簡単にいえば奴隷だよ」
俺に小さく耳打ちするように婆さんは言った。
俺はそれに少し顔をしかめてしまう。まさか婆さんが奴隷を買ってるなんて。
「ああ、そんな顔しないでおくれよ、私が買ったんじゃないよ、あの子はあんたん時みたいに必死な顔をしてここに来てね、仕方なく、ここで案内人として働かせてるんだよ」
「あ、なるほど」
俺みたいに奴隷になる前に、逃げ出したのかな?
だとしたらすごいな、スキルもないはずなのに。
「こんにちは、マリンと言います以後お見知り置きを」
そして礼儀正しくお辞儀をした。それはそれは美しく、とてもウィーカーとは思えなかった。
えー、本当にウィーカーかよ、俺でもこんな礼儀正しくないぞ。
「あ、あぁよろしく、お願い、します」
くそっ、しっかりしろ!俺よ!この子の礼儀正しさに圧倒されてはダメだ!
「では、早速行きましょう、私についてきてください」
マリンちゃんはとても上品な仕草で扉の方へ向け歩き始めた。
「あ、ちょっと待って、マリンちゃん」
マリンちゃんに追いつこうと椅子からおりる。
そして動き出そうとした瞬間、後ろから突然何かに抱きつかれた。
「え?」
「絶対に死ぬなよ」
「·····はい」
俺は抱きついてきた婆さんの手に触れて婆さんの温もりを分けて貰う。
「よしっ行ってこい!」
「はい!」
婆さんはハグの姿勢を解き、俺の背中を強く押す。
なんか元気貰えたかも。
その貰えた元気のほとんどが大きな胸からのものだとは言うまい。
「行ったか」
レイミルが『魔女のアトリエ』の扉を開けて外に出ていくのを白髪、碧眼の女性は見届けていた。
「ふっ、マリンとはまた安直な名前を考えついたものだ」
女性は指で口を隠し、上品に笑う。
そして身を翻し、暗い暗い部屋の中へと向かう。
「しかし師匠には困ったものだ、案内人と称して、あの
暗い部屋の入口に立った女性は近くにあった電気をつけるためのボタンを押す。
すると部屋は一気に明るくなり、その全貌を明らかにする。
この時代のにはまだボタン一つで灯りがつく電灯は存在しない、この女性がそれを為せることができるのはひとえに魔力という存在があるからだ。
魔力というのは物体に流し込むことができ、その流し込んだ魔力を具象化させることが出来る、例えば、薪に火をつけたり、なんの変哲もない箱から涼しい風を出すことが出来る。まぁつまり物体に自由に意味を持たせることができるのだ。それで彼女は電灯をつけることができたのだ。
しかし電灯をつけ、それを維持できる程の膨大な魔力を出すのはほとんどの人間には不可能だ。
「けどね師匠、もし、私の
その部屋には大量の絵が飾ってあった。壁、天井、そして扉まで、部屋を余すことなく、絵が飾ってあったのだ。
「ああ私の子レイミル、本当に可愛いねぇ、はぁ、本当なら一緒に暮らしたかったのだけれど、まぁいい、子には旅をさせろと言うからね」
彼女は一番近くにあった絵に触れ、頬をその絵に擦り付ける。
そうその絵には全てレイミルが書かれていたのだ。
しかも全て彼女自身が描いたものだ。何年も何年もかけて、ここまでの規模になった。
「愛しているよ、レイミル」
妖艶に、彼女はそう呟いた。
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