第9話クサナギ
「はっはっはっ!」
ここは城下町の下にある下水道、そんな汚い場所を全力で駆け抜ける一人の男がいた。
「なんで!なんで!あんなに強いんだ!?」
男は腕には自信があった。町での喧嘩では誰にも負けたことがなかった。
そこで男はある噂を聞くことになる。
その噂とは”下水道にいる鎧姿のソウルビーストを倒すと英雄の剣が受け取れる”というものだった。
男は迷わずこの下水道に来た。そのソウルビーストを倒せると思って。
しかし、それは男の勘違いであった。その剣を持ったソウルビーストは規格外の強さであった。
「くそっ、くそ、くそくそ!こんな所で、こんな所で死んでたまるか、俺は俺は町の英雄になる·····ん、え?」
男の視界は反転していた。そう、首を斬り飛ばされたのだ。
どしゃと男の首は下水道に落ちる。その刹那男が見ていたものとは。
『我が神剣に触れるもの、何人たりとも赦せず、我に戦いを挑みしもの、待つのは死のみである』
落ち武者の姿をした機械であった、血が滴る剣を持ち、般若の如き顔を隠すように三日月の紋様がついた兜を身につけている。
このソウルビーストの名は”クサナギ”、かつて都市レイヴンを救った英雄の名前である。
今日も俺はこの臭いがきつい訓練場にてビル様と修行をしていた。
「すっ、ふっ!」
剣をビル様に向け縦に斬る。しかし、それはビル様によって軽々しく弾かれる。
しかし、そこで諦める俺ではない。突き、切り上げ、横薙ぎに剣を振るう。
その全てをビル様は弾く。
「くっ、じゃあこれなら!」
俺は大きくジャンプする。この高さからの落ちる時のエネルギーを利用して、弾けなくさせてやる!
「ほっほっほっ、それは隙が大きすぎますよ」
「はえ?」
俺の渾身の一撃はビル様が横に避けることでかわされた。
そしてその最大の隙を見逃さず、ビル様は俺の首に剣の柄を当てる。
「がっ、ぎゃふん」
痛てぇ、地面に歯ぶつけちまったよ。
ビル様と修行を始めて早一ヶ月。俺は今の所ビル様に一度も剣を当てられたことがありません。
ビル様強すぎる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
地面に倒れた俺に差し伸べてきたビル様の手を俺は受け取り、起き上がる。
「ジャンプをするのは極力やめた方がいい、確かに当てられれば、会心の一撃になりますが、何しろ隙が大きすぎる」
「な、なるほど」
ジャンプはやめた方がいいな。
「では、もう一度、やりますか」
「はい!」
「それは少し待ちなさい」
男しかいないはずのこの空間に響いた落ち着いた女の声。
その声が聞こえた方を振り返る。
「少し話があるの、こっちに来なさい」
訓練場と王城との境目に立っていたのは、以前と同じ紫色のドレスに身を包んだ王女様、レイヴン・アダリーシアは微笑しながらそう言った。
「どうしたんですか?」
俺は小走りで、ビル様は俺の後をゆっくりと歩いて王女様の元へと向かう。
そして俺は跪く。
俺は王女様より身長が高いから跪づかないと、見下されている気分になっしまうらしい。
「貴方に少しお願いがあるのよ」
「お願い、ですか?」
「ええ」
跪いているので顔は見えないが、王女様の声はどこか高ぶっているように思えた。
「城下町の下水道に、一体のソウルビーストがいるらしいのよ、そのソウルビーストは戦いを挑んできた人間全てを必ず殺すらしいの、だからね私思ったの、そのソウルビーストと今の貴方、いい勝負をするんじゃないかって、どう?そいつに挑戦してみない?」
「え?」
「もう修行にも飽きてきた頃でしょう?いい、腕試しにもなるんじゃないかしら」
「不躾ですが、そのソウルビーストの名前を教えて貰えますでしょうか?」
「名前?あぁ確か、クサナギと言ったかしら」
「ありがとうございます」
マジかよ、とうとう俺にも運気が回ってきたようだぜ、Cランクのソウルビーストクサナギ、彼は大昔、この都市レイブンをAランク級のソウルビーストから守りきり、英雄として奉られた人間の魂の怨念から生まれたソウルビーストである。
そうそのクサナギが持つ武器こそ、『曇天の空の下で』で王女様が持っていたチート級の武器”神剣クサナギ”なのである。
ソウルビーストが持つ武器は普通、死ぬ時に一緒になくなってしまうのだが、ソウルビーストであるクサナギが使っている剣は元々クサナギが生きていた時に使っていた剣なので、クサナギを倒してもその剣は残るのだ。
これは千載一遇のチャンスだ。
これは王女様の無茶ぶりだろうが、俺にとっては万々歳だ。しかも無茶ぶりと言っても絶対に無理な難易度じゃない。
「それで、やるのかしら?まぁ私の頼みを断るなんてできないでしょうけど」
「はっ、姫様の奴隷レイミル、そのお願いい、必ず遂行してみせます」
「いい返事ね、出立は明日、それまでに準備を済ませておきなさい、私の方でも一応装備を準備してあげるわ」
「はっ」
「私を楽しませる為に精々頑張りなさいレイミル」
そして王女様は俺に背を向け、王城の方へ歩を進めた。
それが本音じゃん。という言葉は心の奥にしまっておいた。
そして次の日、俺は城下町に向け出発した。
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