第8話原作との乖離
やはり、おかしい。
なんで、あの王女様があんなに親切なのだ?
俺は名前をつけてもらった後、王女様にこの城の案内をしてもらった。
行っていい場所、行ってはダメな場所。その全てを丁寧に教えてもらった。まぁ若干俺を小馬鹿にしたことも言われたが。
途中で王女様は王様直属の使いの人に呼び出されてどこかに行ったが、そのあとはビル様が案内の続きをしてくれた。
そして次の日になり、俺は誰もまだ起きていないような早朝に起きて、ベッドの上で考え事をしていた。
そして一番驚いたのが、俺の身体に奴隷紋が無いのだ。
奴隷紋というのは、奴隷の体につける刺青みたいなもので、それをつけられた奴隷はその奴隷の所有者に刃向かうことができず、奴隷の所有者の命令には絶対に従わないといけなくなる。
普通ならばこの奴隷紋をつけるのだが、何故か分からないが、俺にはそれが体のどこにも無かった。
なんなんだ、あの王女様の変わりようは、おかしいだろ、だってゲームの王女様は悪逆非道で、無茶ぶりしか言わなくて、奴隷を人と思っていない。そんな人間だったはずだ。
「おかしい、絶対におかしいよ、うーん」
そう思いながら、俺は立ち上がり、部屋の扉を開け、外に出る。
その理由は、昨日王女様に言われた事が原因だ。
そうそれは昨日の昼下がりのこと。
「貴方にはこれから強くなってもらうわ」
「何故、でしょうか?」
俺が王女様の後ろをついて城の廊下を歩いていた時、不意に王女様はそう言った。
「何故って、言わなくても分かるでしょ?貴方が弱いからよ、それにそんな弱さでは私の無茶ぶりをクリアする前に貴方が死んでしまうじゃない、そんな面白くないこと私が許容出来ないのよ」
「ははなるほど、そういう事ですか」
俺は乾いた笑みを零した。
「それで今日からビル様と修行かー、いやまぁいいんだけどなビル様大好きだし」
そう修行の方に関しては全然いいのだ。しかも王女様に修行している間は修行以外の何もしなくていいって言われてるし、毎日夜ご飯提供してくれるらしいし、それに俺は強くなりたい。だからこの状況は俺的にはちょー嬉しい。
「けど問題は王女様の方だ·····もしかして俺の存在によって王女様に何らかの異変が?、、、いやそれはない、俺は今まで王女様との関わりなんて無かったのだから、じゃあ王女様の性格が変わってしまう俺の知らないイベントがあるのか?そしてそれはまだ来ていない、、、ありえるな·····だとすると··········」
俺はブツブツ独り言を放ちながら城の赤いカーペットの上を歩いていた。
だからだろう。後ろから近づいてくる存在に気づけなかったのは。
「わんにゃん!」
「うぉ!?」
俺の頭に急にかかる重み。その重さに、前かがみの姿勢になってしまう。
「なんだお前か」
俺の頭の上に乗ったものを掴み、目の前に持ってくる。
その正体は俺が一昨日婆さんから貰った猫と犬をごちゃまぜにしたあの使い魔であった。
俺が連れ去られた時にいつの間にかついてきていたらしい。
流石の俺も驚いてしまった。
そしてさらに驚くことに、ルカとヒュリもこの城にいたのだ。
なんとあの王女様が二人をここに連れてきてくれていたのだ。
もう泣いて喜んだね。
理由を聞いたら、『気まぐれよ』と言われた。まぁ納得の理由だ。あの暇人王女様ならそんなこともするだろう。
今回はその気まぐれに助けられた。本当によかった。
「たくっ、部屋で待ってろって言ったろ」
「わんわんにゃーん」
ラシーは俺の手をすり抜け、顔をベロベロと舐めてくる。
ラシーというのはこの使い魔の名前だ。昨日決めた。そして特に理由はない。以上。
「だーかーらー、俺は今から修行しに行くんだよ!お前は来ちゃ行けないの!わかった!?」
「わわん!」
俺が顔についたラシーをなんとか引き離そうと全力で引き離そうとするが、残念なことに俺に腕力はない。
よって、ラシーを引き離すことができず·····。
「ねぇ、なに、あの人·····顔に動物つけてるんだけど·····」
「ちっ、姫様の気まぐれで救われただけの奴隷が調子に乗りやがって!」
「はぁ、やだやだ、こんな朝早くからあんな奴隷の顔を見るなんて、何故姫様はあんな薄汚い人間を拾ってきたのだろうか」
ラシーと戦いながら廊下を歩いていると、あらゆる所から聞こえてくる俺の悪口。
もう帰りたい。
小さい声で喋っているつもりなのだろうが、自分の悪い噂ってのは得てして聞こえやすいものだ。
分かっている、奴隷がこの王城に住むのは間違っていると、そんなのは分かっている。
しかし、悪口を聞いてしまうと理解はしていても嫌な気持ちになるものだな。
けど!動物は仕方なくない!?俺、別に好きでこいつ顔につけてる訳じゃないんだけど!
はぁもう、なんか最近自分の人生の転換期がありすぎて、病気になりそう。
「っていうことがありましてねー」
「ほっほっほっ、それはそれは災難でしたな」
「そうなんですよー」
俺は訓練場に来ていた。この訓練場は今は誰も使っていない昔のものらしく、どんなに壊してもいいらしい。
まぁ昔のものともあって、訓練するための地面には雑草が生えきっており、さらになんか腐った卵のような匂いがする。
この空間で美しいのは、ビル様と上できらめいている太陽くらいだろう。
そんな俺はビル様に今日あった事を愚痴っていた。こんなしょーもない愚痴に付き合ってくれるビル様、本当に最高です!
「しかし、彼らをそこまで責めないで下さい、彼らは皆、レイミル殿に嫉妬しているのですよ」
「嫉妬?」
「ええ」
俺が俺の頭の上に座る位置を変えたラシーの事を撫でながら愚痴っていたら、予想外の事を言われた。
俺に嫉妬?奴隷である俺に?なんか皮肉にしか聞こえないな。
「どうして俺に嫉妬なんか」
「ふっ、それを説明するには少し退屈な話になってしまいますがそれでもよろしいですか?」
「はい大丈夫です、聞かせてください」
そう促す。
「では、話しましょう、最初にレイミル殿、貴殿は姫様の兄上と姉上を知っておりますか?」
「はい」
「では話は早い、まず姫様の兄上、レイヴン・ヴィヘン様はとても横暴なお方なのです、あの方がやること成すこと全てが裏目に出てしまう、まず騎士団の効率化として、騎士団の役目である城下町に出没したソウルビーストの討伐を破棄し、代わりに自分の権威の証明のためだけに、周りに百名以上の騎士団員をいつも侍らせているのです、そして何より許せないのが、我が主である姫様を武力の道具としてしか見ていないことです!いつもいつも、姫様を私情で呼び出してはする話といえば、やれ”俺の陣営に入らないか?”とか”俺のものになれば、この都市いや、世界を支配できるぞ”などと!戯言を言いおってあの若造!」
やばい、なんかビル様の周りからものすごく怒りを感じられる赤色の炎が立ち上っている、気がする。
「あの、落ち着いて下さい、ビル様」
「おっとコホン、すみませんレイミル殿、取り乱してしまいました」
「あ、いえ、全然大丈夫です」
「では話を続けますね」
よかった、どうやら落ち着いたようだ、見えた気がした赤色の炎ももう見えなくなっている。
「次に、姫様の姉上、レイヴン・クロミウェル様のことについて彼女もまた兄上と同じで··········」
とビル様はまた怒りながらも話してくれた。
ビル様から聞いた話をまとめると王女様の姉上であるレイヴン・クロミウェルも兄上であるレイヴン・ヴィヘンと同じ屑だった。
もうそれは王女様がかわいく見えるくらいの屑だった。
「だから騎士団の者や召使いの者は皆姫様の元に就きたくなるのです、レイヴン・アダリーシア、あの方は我々の本分をちゃんと理解して、ちゃんとした我々の仕事をやらせてくれる、そしてその仕事を支えてくれる、それだけで我々は嬉しいのです、だから皆どこから来たかも分からないレイミル殿が姫様に好かれているのが耐えがたかったのでしょう、我々は皆姫様を慕っていますから」
ビル様は心底嬉しそうにそう話す。
「はは、俺のイメージと大分違いますね」
「ほっほっほっほっ、確かにレイミル殿には少しあたりが強い気がしますな」
「あ、いえそういうことでは·····」
「しかし、これだけはわかっていて欲しいのです」
俺の言葉を遮り、ビル様は続ける。
「あの方は、あんな兄や姉と一緒に育ったせいか、感情の伝え方、自分の本心の表し方を心得ていないのです、いつも感情を隠してばかりでした、だからレイミル殿への接し方が分からないでいるのです、本当はとても優しいお方なのです、それをどうかご理解頂きたい」
そう言ってビル様は笑った。
その笑顔は娘を思う父親の笑顔とどこか似ていた。
これで決まりだ、あの姫様には性格が悪い方向に変わってしまうほどのイベントがあったんだ。今はまだそのイベントを通過していないだけなんだ。そしてそれは多分魔術高専に入る前に起こるはずだ、それはなんとしてでも食い止めなくてはならない、ビル様の為にも、俺の命の為にも。
そして同時に気づいた、俺はレイヴン・アダリーシアのことが嫌いじゃないんだ。
なんだかんだいって、俺のことも優遇してくれるし、ルカとヒュリにも仕事を与え、衣食住も与えていた。
それだけで、俺はあの王女様のことを嫌いと思うことはできない。
「分かりました、と、言っても俺はもう既に王女様のことを嫌いではありませんよ、なんか上からになっちゃいましたけど·····」
「ほっほっほっ、ならば良かった、、おっと少し話しすぎましたね、早く修行を始めましょうか」
そしてビル様は片手剣を構える。
俺も同様にビル様から支給されて貰った片手剣を構える。
(もっと、もっと強くなってやる!王女様が変わってしまうイベントを乗り越える為に!そして、王女様を見返す為に!)
そう心を改めて、俺とビル様は剣を交えた。
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