第4話強者対弱者
レイヴン・アダリーシア。
『曇天の空の下で』の作中最強キャラのうちの一人。
彼女が使う魔術は自強化魔術と氷魔術である。氷魔術も氷魔術でものすごく強いのだが、さらに凄いのは自強化魔術だ。
彼女が本気になれば、移動するスピードは音速を超え、一度何かを殴れば、その物体は原子レベルまで分解され、やろうと思えば、惑星にヒビを入れることができるくらい強い。
もうガチで強い。まぁここまで強くなるのはストーリーがかなり進んでからなのだが。
今でも十分強い。確か、十歳の時にはAランクのソウルビーストを倒したとゲームでは言っていた気がする。
しかし、ここまで強いので、ゲームではお助けキャラとしてでしか出てこなかった。
そう、ここまで聞けばとても頼りになる味方なのだが、何分性格に癖がありすぎるのだ。
彼女は王女という立場からか、暇を持て余していた。父親に構ってもらおうとしても父親は王であるため忙しく遊んでもらえなかった。
彼女は愛というものがだんだんわからなくなっていった。
だから彼女は自分の好きなことをして好きな人間だけを周りに置くようになった。
そしてその人間に執着するようになって行った。ゲームの主人公もそのうちの一人だった。
年中監視され続け、”暇だから”という理由でとんでもない戦場に駆り出されたりした。神話級のソウルビーストがいる所とかな。また気に入らなかった人間を城の檻に閉じ込め、拷問をしているとか、奴隷は全て姫の愛玩動物として城の内部で飼われているという考察もあった。まぁつまり、彼女はちょー危険人物なのである。
ということは·····
「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!王女様ぁぁぁぁ!」
まぁ逃げるよねって話。
使い魔を抱え、全力で逃げる。もちろん、ディレイの対象を使い魔からレイヴン・アダリーシアに変えて『クイックandディレイ』も使っている。
(どれだけ離せた?)
走りながら後ろをむく。
レイヴン・アダリーシアは動いていなかった。しかし、笑っていた、ただ笑っていた。
(っ!)
やばい、なぜかは分からないけれどそう感じた。
仕方ない。明日、筋肉痛で動けなくなるかもしれないけど、2ndを使うか。
『クイックandディレイ』にはレベルがある。
俺が人面蟻みたいなソウルビーストとかと戦う時に使っているのが1nd【ファースト】。
その1ndの限界を超えたスピードを出すのが、2nd【セカンド】
その2ndをも超えるスピードを出すのが、3rd【サード】
音速をも越えられるのが、4th【フォース】である。
このレベルが上がっていく事に『クイックandディレイ』を使った後の反動がきつくなっていくし、技術も必要になってくる。
2ndだと、しばらく筋肉痛で動けない。長引けば明日の朝まで続くかもしれない。3rdに至っては成功した試しがない。
だけど、あの姫様に捕まるより、ずっとマシだ。
「クイックandディレイ2nd」
俺はさらに加速する。一瞬にして、路地裏をぬけ、都市の裏側にある護衛がいない俺がいつも使っている抜け穴を駆け抜けて、都市郊外の荒野に出る。
けど安心はできない。もし、俺に少しでも興味を示し、俺を追いかけていたとしたら、もっと距離を離さないと·····
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
凄まじい音が後方から聞こえた。
「え?」
嫌な予感を感じ、後ろを振り返る。
大量の砂煙が立つ中その砂煙の中から現れた姫は明らかに人間では無いスピードで走っていた。
しかもとんでもなく嬉しそうに。
「ぐっ!まじ、かよ!ディレイも効いてるはずなのに」
前をむく。もう振り返る時間なんて俺に残されていない。
背中から感じる恐怖。捕まってしまえば、終わりという後の無さ。
走れ!走れ!走れ!俺には二人の兄弟がいるんだ。たとえ相手が強者だとしても、生き延びろ!
しかし、現実は残酷だ。後ろから聞こえるレイヴン・アダリーシアの足音がどんどん近くなってくる。
まじかよ、はやすぎるだろ。流石作中最強。
そう普通なら勝てるはずが無いんだ。魔力を持たない俺が作中最強キャラなんかに。
だけどどこか高揚している俺がいた。俺はそんな最強に目をつけられているのだと。そう思うと、何故かやる気が湧いてくるんだ。
ふっ、やってやるよ作中最強キャラよ、俺の本気、弱者の本気ってやつを見せてやる!
「クイックandディレイ3rd!」
瞬間、カチッと音がした。スイッチが入った、パズルのピースがハマったようなそんな音。
そして俺は目が見えなくなっていた。いや、見えないというより、開けられないと言った方が正しいか。
しかし、そこは根性で瞼に渾身の力を込め、微かに開ける。
「え?」
俺は走っていた。俺自身の意思に関係なく、走っていた。脊髄で走っていたのだ。
(成功、ってことでいいのか?)
「はは、やったぶぉぉぉぉぉぉぉ」
走るスピードと風の風圧によって上手く喋れなかったが、この喜びをわかって欲しい。
「やっ、いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
もう一度喋ろうとしたら、体に激痛が走った。
その瞬間、『クイックandディレイ』の効果は切れ、体から力はぬけ、その場に転ぶ。しかし、勢いは収まらず何度も何度もバウンドし、ようやく止まった。
「うっ、あっ、痛てぇ、体中が悲鳴を上げてやがる」
ジンジンと体のうちから来るその痛みに俺は顔をしかめるしかなかった。
「上手く巻くことができたのか?」
なんとか動く、首だけを動かし、後ろを見る。
だが、後ろには誰もいなく、あるのは枯れきった動物の死骸だけだった。
「あ、これ不味いやつだ」
俺は家に帰る時に迷わないように目印となる棒を等間隔で置いている。
だが、それを見失ってはもう帰る方法が無い。
ここは荒野だ。何も無い。こんな場所でずっと寝ていたら、干からびるか、ソウルビーストに襲われて終わりだ。
「あぁ、くそ、ここまでかよ」
「わにゃーん!」
「ん?」
諦めて静かに眠ろうとした所、下から何やらフサフサ、ふわふわの物体によって俺は押し上げられた。
もうさっきまでの砂の感触は無く、あるのは暖かい毛皮の感触だけだった。
「お前、巨大化できるのか」
「ワン!にゃん!」
毛皮の正体は婆さんから貰った使い魔だった。
「はは、ガチ助かった、ついでに言うと俺の家の場所わかるか?そこまで連れて行って欲しいんだが」
「にゃんごろーん!」
そしてドン!という大きな音と共に、使い魔は走り出した。俺を背中に背負いながら。
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