四杯目 東京都文京区本郷 創作ラーメン みーつけた

ずだーーーーーーーーーん!!!!


「これは一本でしょうねぇ」


髭を蓄えた若い男が、やや描写の難しい絵が並ぶ携帯画面から目を話さずにいう。一緒に来た教授が目の前で投げ飛ばされたというのに、事も無げである。


「あ、メンマ、みっけ」


ラーメンをつつく髭のつぶやきに店主は小躍りして下手くそなウインクを送るが、髭はわずかに箸を上げるだけで携帯画面から目を話す気配はない。ラーメン屋で客が投げ飛ばされたという異常事態にも関わらず、この店は平常運転のままである。


新しい共同研究のための顔合わせがこのラーメン屋で開かれていた。新しい研究テーマに広げるために東園の持っている技術が必要となったのだ。東園は横浜でしばらく野宿生活をしたあと、自分の持つ技術を活かすベンチャーを自分で起こしていた。事業も徐々に軌道に乗り始め、さらにもう一段安定した状態に持っていくための重要な打ち合わせの前哨戦のはずであった。ここで東園と教授の橋渡しをしたのはまるでたまたま居合わせた別な客のように振る舞っている髭の男である。


「いまのすごかったすごかったすごかった!ぱーんて体が飛んでぐわんってなったとおもったらもう天井を見ているんだもん!どうやったのこれどうやったの!今度教えてよねぇきみいいね会社辞めてうちの研究室こない!?」


そこまで一気にまくしたてると教授は、椅子に座り直して残りのラーメンを食べ始めた。ずっと投げ飛ばされた感想を一人で言っている。本当に嬉しそう。


自分のよって立つものに対する無邪気な「感想」に対する返礼として背負投げをしたものの、あとに続くはずの啖呵も捨て台詞も吐く暇がなかった東園が面を食らっていると


「じゃ、東園さん、教授はおいておいて次行こうか。ここの分はもう払っておいたから。」


髭の男は易く東園の肩を叩いて退店を促す。二人は本郷にある大学キャンパス内に向かって緩やかに歩いていった。ここで交わった二人の人生は将来解けない友情に昇華されていった。


本郷三丁目の駅を出てすぐの表通りからは見えない隠れ家のような場所に二年前にできた創作ラーメン「みーつけた」は、冷製スープにラーメンを浮かべた上品なラーメン一つで勝負するお店。メニューには1200円のラーメン以外はない。ラーメンの上には、あぶられたズッキーニ、トマト、サヤエンドウ、メンマ、蒸し鶏とピンク色のハム状のチャーシューが美しく並ぶ。店主は若い女性で一人で切り盛りしている。店主は本郷にある大学の理学部生物学科出身。店内には漫画ではなく理工学書が大量に並ぶ。店名は店主の好きなアニメのタイトルからきている。ラーメンを食べていて「メンマみーつけた」という客は好き。

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ラーメンショップショルダースロー @ritzberry

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