1 - 1 僕と先輩とはじめまして
僕らの住むα街でも有名な、『御伽区総合技術高校』、通称『オト高』。そこに僕とセンジュが入学できたのは、まあ、努力のおかげだったんだろうと思う。センジュは科目ごとの好き嫌いが酷いけど、僕も成績は良くなかったからかなり苦労した。
それでも頑張れたのは、一重にそこが魅力的な学校だったから。いやまあ、その辺はどうでもいいか。
そんなオト高だが、センジュ経由で聞いた話では、その高校にはヤバい奴らが多いということ。将来軍に入ったり、何かしらの才覚を表したりするのが多いが故か、それともそういう人間が“特級”に認定されるのか、とにかく個性の塊と形容できる人が多いという話だった。特に、魔法科のめちゃくちゃ美人だし優秀だけど凄まじい変人こと“
当初は全く気にしていなくて、そんな人がいるなら面白い、と思ってそれきりだった。話していたセンジュ本人も話半分だったし、本当に気に止めることが無かった。
入学式当日は入学式が終わって、担任やクラスメート達と挨拶をして、日程は昼頃に全て終わった。
僕はそれだけではつまらないなと思って 、一足先に学校を探検してみることにした。何せ広い学校だ。α街では唯一、軍部に繋がる高校だからか、狭い門ではないにしても競争率が非常に高い。人を多く集めるオト高は、それに比例して敷地も大きくなっている。散歩していたら一日経つと言われる程に広いのだ。
だから僕は何か面白い物がないかを探して、早速クラスに馴染んで遊びに行ったセンジュを放っておいてうろうろしていた。
三十分程で迷った。現在地が掴みにくい構造をしているくせして案内板が無い。そりゃあ迷うとも。どうにか玄関を探そうとしていたら更に迷うし、割とどうしようも無かった。
兎にも角にもどうにか家に帰ろうと、あちこち行ったり来たりしていた。計画性も何も無く、何処をどう行けば何処に着くかなんて事も分からないまま動いていたから、更に迷うことになった。
まあ、うん、ぶっちゃけると、迷子である事を楽しんでいた。憧れの学校の探検は本当に楽しかった。
そうこうしている内に着いたのは倉庫。ボロボロになったから長い事使われていないのか、長い間使われていないからボロボロなのかはその時判断がつかなかった。
普通なら古い倉庫を見つけた程度で気に止める事は無い。けど、声がしたのなら話は別。
女性が呪文を詠唱しているらしい声が聞こえたので、気になって意外と建て付けの良かった扉を開けて中に侵入した。
見てみれば正しく儀式の途中と言った風体。30人は入りそうな倉庫の中では、半径4メートルはある魔法陣の中心に紅の髪の少女が立っていた。何故か色気のある声で詠唱を続けている少女。外で聞いた声は彼女のものだった。
詠唱に応じて、鼓動のように明滅する魔法陣は、見た感じ悪魔の召喚に使われる物。普通の魔法の適性が無く、魔法実習の授業は全て見学だったので確信はないが、きっとそうだろう。
やがて明滅は激しくなり、そして収まる。少女は腰まである長い髪を撫でながら呟いた。
「また失敗か……こう何度も失敗が続くと流石に落ち込むなぁ。確かに召喚魔法はあまり得意じゃ無いんだけどね」
「適正は別にあるんですか?」
「まあね。属性魔法とかなら得意なんだけど………………うん?」
「どうしました?」
「いや、君、誰?鍵かけてなかったっけ?」
普通にやり取りしていたのだけど、途中で我に返ったように聞いてくる。魔法陣の縁でボーッと見ていたのだが、今まで気が付かなかったらしい。召喚魔法はかなり神経を使うらしいので無理は無いか。
紅く長い髪と同じく、燃えるような紅い瞳。顔立ちは声とは裏腹に幼く、非常に綺麗な人。少女の第一印象はそんな感じだった。僕は少しドギマギしながら返答。
「あ、初めまして。今日入学しました、“
「……ああ、今日は入学式だったのか。ボクは篝毘 杏。気軽にアンズさんとでも呼んでくれたまえよ」
「はい、よろしくお願いします先輩」
「いや、アンズさん……まあ、いいや」
何の変哲もない挨拶、やり取り。
この瞬間から、僕と先輩が色々な事件に、それこそ、学校を越え、世界をも揺るがすような事件に巻き込まれる運命が決定したのだった。
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