僕と先輩と向こう側
凡人EX
0 - 1 僕と妻と友人達と酒の肴
皆で集まって酒を飲む機会はそうそう無い。
社会人となった今、お互いに都合がつかないとか、もはや連絡すら取れないとか、そういった事が非常に多くなるからだと思う。
いや、事実僕らはそんな感じだ。職場も同じな妻ならともかく、遠い国で経済を回していたり、更に遠く離れた地で調査だったかに赴いている友人達の場合、予定を合わせることが非常に難しい。
だから今回、僕達夫婦の家に友人達が皆集まっているというのは、殆ど奇跡みたいなところがある。集まったところで、やる事は酒を飲んで近況を話し合うぐらいだけれど、懐かしい顔ぶれを見るだけで嬉しい気持ちが込み上げるのも事実だし、色々と思い出すのもまた、流れとしては順当だと思う。
「しかしまあ思い返せば、この顔ぶれって大半が高校からの付き合いだよな?」
なんて、僕の目の前でウイスキーをロックでイッキしたバカ……センジュが言う。まあ、否定しようのない事実だが。
「言われてみればそうだね。僕とセンジュは幼い頃からだけれど、他はそうでも無いんだっけ?」
そう言って皆の顔を見やると、横で物の見事に酔っ払った妻が、出会った頃と変わらない不思議な笑い方で答える。
「んへへへへ~、あたしぁねぇ、ケンジやセンジュのおかげれこうゆうかんけいがふえたんらぁよぉ~~」
「アンズ先輩でろんでろんじゃねぇか」
「弱いくせして凄いペースで飲んでたしね……皆に会えて嬉しかったんだと思うよ」
溶けそうなほどにふにゃふにゃになった妻、アンズをとりあえず僕の胡座に乗せておく。
センジュの右隣に座る小動物みたいな女の子、マリカが感心した様な声を絞り出す。
「アンズ先輩……こんななるんだ……あれ?人がこんなに酔うのを見るのって……私、もしかして初めて?」
「テメェの旦那はバカみてぇに強いし、ケン坊は弱いが自制してる。二人ともそう潰れないからな」
「誰がバカですか誰が」
センジュがバカと言われて過剰に反応する。それを見てからからと笑うのは、徳利に日本酒を注いだモトチカ先輩だ。
「いやしかし、そうだな。俺ら全員、ケン坊を起点に集まってるところあるよな」
「……あ〜、まあ、そうですね。変に縁が繋がっているのは否定できません」
占い師にも言われた事だ。僕はどうも人と人との縁を繋ぐ星の元に産まれたらしい。なんて考えていると、モトチカ先輩の隣に控えていた気品溢れる女性、シズクちゃんが笑う。
「ふふふ、ケンジ先輩のおかげでいい人に出逢えました。ありがとうございます」
「…………いや、僕も流石にシズクちゃんとモトチカ先輩が結婚までいくと思って無かったけどね?」
「そこはアレだ、運命とかそう言うアレだろ」
「ねぇ、モトチカ先輩結構酔ってる?」
「ああ、酔ってる上に相当上機嫌だな」
まずい、年上2人の酔い方が割とめんどくさい。モトチカ先輩は笑い声が煩いし、アンズは胡座から抜け出し、僕に絡みついてきた。吸われている首が痛い。
「酒宴ってこんなに収集つかないんだね」
「随分と他人事じゃねぇかケンジよ。首大丈夫か?」
「多分赤黒くなってる」
「ちゅ〜〜〜〜……ぽっ、んひへへへ、マーキング」
「アンズ先輩の暴走……懐かしい……」
「ハハハハハ!!だなぁ……ああそうだ。ケン坊、お前が持ってなかったか?アルバム」
「アルバム、ですか?」
「ふむ……主人は我々の写真が納められたアルバムの事を言っているかと」
「ああ、アレならそこの棚にありますよ」
「見ようぜ見ようぜ。なんか懐かしくなってきたわ」
「あ、私も見たい」
……うん、なるほど。最近開いてなかったし、頃合としては丁度いいかもしれない。
「センジュ、取ってくれないかい?」
「あいよ。ってかお前、首締まってねぇ?」
「アンズの腕力じゃ僕の首を締めるのは無理……あ、ちょっと待って魔法で強化するのはまずいって!」
「ひよわじゃないですぅ〜きたえてないだけですぅ〜」
「いやまあ効かないけど」
「も〜、かわいくないぞこーはいくん」
後輩クン……うん、懐かしい響きだ。僕の卒業まではずっとこの呼び方だった。卒業と同時の婚約を機に呼び方が変わったんだったっけか。
……なんだろうか、あらゆる事が懐かしく感じてしまう。あんなに濃い高校生活を送っていたというのに、昨日の事のように思い出せるのに、それなのに遠い昔の事のように感じてしまう。
「なぁケンジ、これだよな?『
「それそれ。今でも続いてるのかな何でも屋」
「……うん、続いてるみたい。後輩情報」
「私達の歩み、青春がまだ残っていると考えると感慨深い物があるね……」
「アンズ、お前さては酔ってなかっただろ」
「いいや、酔っていたさ。面白そうな話題だったから無理やり覚醒したよ」
「ほーう?」
「まあまあ、そんなに睨まないでくれたまえよモトチカクン。今は思い出に浸ろうじゃないか」
「……とは言っても、発端は僕とアンズが出会った事なんだけどね」
「そして、私が部長として取り仕切る頃にはより大きくなっておりましたね」
「……私、聞いた事ないかも。2人の馴れ初め」
話した事無かったっけ?なんて言おうとして顔を上げたら、アンズ以外の4人が僕とアンズの顔を見ていた。アンズもまた、その視線に対してクスクスと笑っている。
「皆知りたいみたいだね?どうする?後輩クン」
なんて、ニヤニヤ聞いてくるものだから。
「まあ、そうだね。酒の肴に丁度いいだろうし、僕と先輩が出会った話と、何でも屋を設立するのに至った経緯をお話しようじゃないか」
何しろ、鮮明に覚えているからね。そんな風にちょっと肩を竦めて言ってみたのだった。
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