第5話 夏 焦燥
彼と初めて体を重ねてからなんとも言えないモヤモヤが自分の中にずっと残ったまま、時間だけが過ぎていく。
でも、更なる不安が自分を襲うとは想定外だった。
その日もいつものように彼から連絡があって、迎えにきた彼の車に乗り込んで彼の腕に寄り添いながら窓から流れる景色を眺めてた。
しばらく走り続けた車が向かったのは見知らぬ高台にある住宅街の中。
「なんでこんな住宅街なんて来たの?」と疑問に思って彼に声をかけた。
「ここの上に展望台があるんだけど知らない?結構有名なんだよ。近くまで来たから、ちょっと見てこうと思って。」と答えが返ってきた。
「ふぅ〜ん、そうなんだ。」と言いながらちょと面白くなかった。
分かってるけど、分かりたくない。そんな気持ちがすごく胸に溢れてきて、苦しくなった。
着いた展望台の駐車場に車を止めて、外に出る。
見上げた空には綺麗な星空が広がっていた。
駐車場横にある階段を上がって行くと、小さめな広場に出た。
駐車場にも他の車はなかったからか、他に人はいなくて、綺麗な星空と夜に浮かぶ街中の明かりと走る車のライトが輝く景色が目の前に広がっていた。
しばらくその景色を堪能してから、車に戻る。
入れ違いに一組のカップルだろうと思う人とすれ違いながら車に戻った時に、車内に残していた彼のスマホが鳴った。
そのスマホ画面に映っていたのは明らかに女性の名前だった。
着信が鳴ったことで見てしまったスマホの画面…でも彼はその電話を取らなかった。
一度は切れた電話…しかし再び鳴ったスマホには先ほどと同じ女性からの着信だった。
「出ないの?さっきと同じ人っぽいけど?」と彼に問う。
彼は一つため息を吐いて、「ちょっと待ってて。」と車の外に出てから電話に応対した。
その姿を1人車内のルームミラーから見つめつつ、色々聞きたくても聞けないことに苛立つ自分。
[その
だってそれを聞いたら何かが壊れそうで怖い。
まだ聞いたことがない貴方の気持ち、告白の答えのキスはどういう意味だったの?
体を重ねたのはそういうこと?嫌な想像だけが頭を過ぎる。
電話を終えた彼が車に戻ってきて、「愚痴を延々と聞かされそうだったから、さすがに切ったよ。」と私の頭を撫でて、車を走らせた。
彼の言ったことにさらに胸を苦しめながらも聞きたいことを飲み込んで、彼の腕にいつもより強く絡み、肩に頭を預けながら目を閉じた。
何も考えたくない、一緒にいられるこの時間を無駄にしたくない。
目を閉じた私に「眠くなった?』と頭上に軽いキスをした彼の問いに答えることなく寄り添い続けた。
幻影のテールランプ 神無月 すず @hotaru-1
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