第3話 夏 好きです

 〜♪〜〜〜〜♪音楽が響く車内、PV映像は風景がただ流れているように見える…不確かなのはつい先程まで笑っていた彼と仰ぎ手のままで彼を見ている私が無言で互いを見てるから。

 『え?』第一声が重なる、今さっき何が起こったのか止まった思考をフル回転させて思い出す…【 多分、初恋なんです。】 と思っただけ。

 

 そう、だけだから大丈夫。

「いや、声に出してたよ?」とこちらをじっと見つめていた彼が助手席側に体を寄せてきて、「恋してるの?…初恋?そうなの?」と少しずらしたサングラスの奥、視線が私を捉えて、その瞳はなぜかこれまで見たことのある瞳より優しくも、少し意地悪な鋭さを持ってビクつく私の顔を映していた。

 「え、どうして…」と狼狽える私に 「顔に、表情に全部出てるよ?行動というか所々態度に出てる。」と 「それで、さ…


 それから私が微動だにしないところに「…聞いてる?俺の話」と彼から伸ばされた手が私の頬に触れて、初めて触れた彼の手は冷たくて火照った頬に気持ちよく感じてしまい目を細めて擦り寄ってしまった私に 彼は「それで…質問の答えは?言わないの?」と既に確信しているような眼差しに私は添えられている彼の手をそのままに、「分からないんです。自分でも戸惑っていて…」とこれまで彼に会って感じたこと、以前に付き合った人がいるがその時にはなかったこと。

 

話しているうちに落ち着いたはずの羞恥心が再び…つい俯いてしまいそうになる私の頭を彼の手がそっと撫でる。

 

 「最初は嫌われてると思ってた、多分あえて離れてる位置にいつもいたよね?なのに視線を感じる所には君がいた。なのに目は合わないんだ、変だよね?」と撫でる手をそのままに彼は「だから余計に気なって、視線を感じては君を見てたんだ。」とそう話してくれた彼の瞳には先ほどの意地悪な感じはなく、ただ優しさだけが見てとれた。と思った私に彼は…

 

 「それで君の気持ちは?」と微笑む悪魔に変わった。


 その笑顔を見た瞬間、離れられるだけ限られたスペース中で彼と距離を取ったものの目の前にはいい笑顔悪魔の微笑みの彼が私の答えを待ち構えている。

 ふとフロントガラスに顔を向けて、視界の端にあるサイドミラーに映る私は暗い中でも、耳まで赤く色づいているだろう自分の顔を見つめた。

 

そして浅い一呼吸をしてそのまま 「…好きです。」と答えたつもりなのに


 「ミラーに映ってる自分が?」と聞く彼に違うと言うはずだった言葉が、彼の方に顔を向けた瞬間、顎を彼の手に取られて彼の纏うシトラスの香りと唇に柔らかい何かが触れた。


 一瞬だった、瞬きすら出来なかった 離れた彼が鼻先がつくほどの距離で私に問う「…誰が好きなの。」といつの間にか外されていたサングラス。

 初めて見る素顔の瞳を捉えたまま答える 「貴方が好きです。」


 ふっ視線を和らげて微笑んだ貴方が再び重なる気配に今度は目を閉じた。










 

 


 


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