第25話

「ねえレイラ、わたしはとてもわがままだと思うの。あなたがようやくわたしと一緒にいる時間を増やしてくれたのに、それ以上を望んでしまっているのだから……」


「それ以上、ですか?……」


“それ以上”の意味はレイラだってわかっていたし、レイラだってまったく同じ“それ以上”の気持ちを抱いている。


「レイラ、わたしはね、あなたのことをずっと愛していたのよ? あなたは気が付かなかったと思うけど、ずっと昔からわたしはあなたのことが大好きだった。こんなことを言ったらあなたが困るかと思って我慢していたのだけど、やっぱり伝えないわけにはいかないと思ったの……。ねえ、レイラ。わたしはあなたのことが好き。明確に恋をしているわ! 思い切り拒んでくれても構わないの。ただ、あなたはわたしのことをどう思っているのかだけ。それだけせめて聞かせて欲しいだけなの……」


エレーナがレイラの手を両手でギュッと握りしめながら、上目遣いでジッと見つめていた。レイラだって同じ気持ちを持っている。でも、伝える事を我慢しているのだ。抱いてはいけないその気持ちは、ずっといつの日か離れ離れになる時まで秘めておくつもりだったのに。


「お嬢様、そんなことを言われては困ってしまいます……」


レイラの顔はすでに赤くなっていた。


自身のメイドとして仕えているという立場を抜きにすれば、今直ぐにでもエレーナの思いに応えたかった。だけど、レイラには答えられない。


そんなレイラに追い打ちをかけるみたいにエレーナが話し出す。


「もういっそのこと、わたしのことを思い切り振ってくれればいいのよ? 女性同士の恋なんておかしいって言って、わたしのことが嫌いだと言って、思い切り振ってくれれば、もうわたしは思い残すことはないから……」


自分のことを振ってくれと懇願するような態度を取るエレーナの真意はよくわからなかったけど、エレーナの気持ちに答えるのが怖いのならば振ってしまえばいいという逃げ道は作ってくれた。


理由はいくらでもある。女性同士な事、主従関係にあること、その他にもきっといろいろあるだろう……。適当に理由をでっちあげてしまえばそれで全てが丸く収まる。


それなのにどうしても言えなかった。両想いであることを告げられて、どうして告白を断らなければならないというのだろうか。


「申し訳ございません、今は答えられません……」


結局、レイラは決断を先延ばしにするという選択をとった。こちらからは答えずに、時間をおいてエレーナにはこの告白のことをうやむやにして忘れてもらった方が良い。


レイラはこれまでエレーナに仕えてから、初めてエレーナの問いに答えることを拒んだ。


「そう……。じゃあ答えられるようになるまで待つから、必ず返事を頂戴ね?」


それだけ言うとエレーナはレイラの元から離れて、窓際へと向かい外の景色をぼんやりと眺めていた。


エレーナの潤んだ瞳が月にしっかりと照らされていた。

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