切羽詰まった愛

第24話

あの忠誠を誓ったキスの日以降、レイラの中に生まれたエレーナへの感情が日に日に大きくなっていた。メイドと主人という立場で特別な感情なんて決して抱いてはいけない。


本当はもうエレーナも立派な淑女になったのだから、一メイドが必要以上に共に時間を過ごすことだって許されない。


けれども、エレーナはあれから「忠誠を誓ったのならもっとわたしに構う時間を増やすべきではないかしら?」と言って部屋に来させる時間を増やすように指示をした。


おかげでレイラはエレーナと2人になる時間が増え、必然的にエレーナのことを意識してしまう時間が増えてしまうこととなった。


その日のエレーナは明らかに今までと雰囲気が違っていたことは、部屋に入った瞬間にレイラにはわかった。涼しげに微笑む上品な表情のどこかに、切羽詰まった、焦っているような雰囲気が隠れていることが、レイラには感じ取れた。


「お嬢様、何か御有りでしたか?」


「え?」


開口一番、レイラから脈絡なく問われてエレーナは目を丸くした。


「突然どうしたの?」


クスクスと小さく笑っているのに、寂しそうな表情をしている。そんなエレーナを見て、レイラはやっぱりどこかおかしいということを確信した。


「エレーナお嬢様、今日はどこか元気がありませんけど、何か嫌な事でも……?」


「凄いわね、レイラのこと鈍い人だと思っていたけど、案外鋭いところもあるのね」


そう言ってエレーナは寂しそうに笑った後、しばらく黙って俯いていた。膝の上に置いていた手を適当に組んだり離したりを何十回も繰り返した後、思いついたように顔を上げて、レイラに微笑みを向けた。


「ねえ、レイラ。あなたはわたしの事が好き?」


これまでに何度も聞かれた質問であった。何回も同じ言葉を答えてきたし、今回もまた同じ言葉を答える。だけど、その意味はもう今までとは違う。


「もちろん大好きですよ」


できるだけ、感情を込めずに。その真意をエレーナには気付かれないように、事務的に答えた。


そうすればエレーナはきっと、レイラがエレーナのことを主従関係を前提とした意味での好きだと解釈してくれて、すぐに話を終わらせてくれるはず。


そう思ったのに……。


「ねえ、その好きってどういう意味の好きなの?」


「え?」


椅子に座っていたエレーナはおもむろに立ち上がり、レイラの方へと一歩ずつ近づいて行く。


壁際に立っていたレイラはエレーナの圧に押されて背中を壁に押し付けるみたいに、限界まで後ろに下がった。レイラの真正面にエレーナが立っているから、逃げることもできずただじっとエレーナのことを見つめ続けているしかなかった。


その時間は3分程だっただろうか、それなりに長かったようにレイラは思う。


そしてフッと一瞬だけエレーナが目を逸らしたかと思うと、次の瞬間、レイラに口づけをした。柔らかい感触がレイラの口元に当たり、レイラが思わず目を見開いてしまう。


「お嬢様!?」


忠誠を誓った日以来の突然のできごとに、レイラが素っ頓狂な声を出してしまった。


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