第22話

「エレーナお嬢様、わたしだってずっといられるのならば一緒にいたいです。ですが、わたしたちは主従関係にある身ですので、いつかはお別れしなければならないのですよ……」


エレーナが自分の事をそれほど大切なメイドだと思ってくれていたなんてレイラは知らなかった。あまりにも感情のこもった涙を見て、思わずレイラももらい泣きをしてしまいそうになったけど、なんとか堪えた。


2人とも泣き出してしまうわけにはいかない。レイラが涙を堪えていることがわかったのか、エレーナもハンカチでゆっくりと目元を抑えた後、泣くことをやめた。鼻が少し赤くなったままだったが、声はしっかりとしていた。


「そうね、わたしたちはあくまでも家主とメイドだものね。その垣根を超えることはできないわ」


涙を流した後なのに、うって変わって毅然として言い放つ様には貴族令嬢としての気品があった。


エレーナが手招きをするので、レイラはその手招きに従って、静かに椅子に座っているエレーナの方に近づいて行く。そんなレイラの様子を確認すると、エレーナは大きく息を吸ってから、しっかりとした凛々しい声で話し出した。


「だからね、わたしは聞き方を変えるわ。……ねえ、レイラ。あなたはわたしに忠誠を誓えるのかしら?」


「それはもちろん当たり前です。わたしはお嬢様の命令にはどのようなことだって従ってみせます!」


「ならばそれを態度でみせてみなさい」


「態度で、とはどういうことでしょうか?」


レイラの疑問に口で答える代わりにエレーナはそっと手の甲を差し出した。その意味をレイラも察した。手の甲へのキスは忠誠を意味する。


だからレイラは片膝をついた後、そっと丁寧に、高級な陶器でも扱うみたいに慎重に、エレーナの右手を包み込むようにして持った。そしてそのままそっと優しくキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る