第21話
「あら、レイラ。本当に来てくれたのね」
エレーナの姿を確認して、レイラは慌てて本を閉じて机の上に戻す。自分から呼んでおいたのにエレーナは少し驚いたような表情をしていた。
「お嬢様からの命令とあれば、わたしはどんなことでも従いますよ」
「命令されたから来てくれたの?」
「ええ、そうですけど……」
淡々としたレイラの返事を聞いて、エレーナが少しだけムッとした表情になったので、レイラは心配になる。
「え、あの、お嬢様一体どうなさったんですか?」
「なんでもないわよ!」
エレーナはほんのりと唇を噛みながらレイラに背を向けた後、俯いて目元を指先で擦っていた。そして小さく上品に咳払いをした後、ツンとした顔をして、再びレイラの方へと向き直した。
「ねえ、レイラ。今日はわたしの誕生日よ」
「ええ、お誕生日おめでとうございます!」
「あなたはわたしのこと一体どう思っているの?」
「どうって……。お嬢様はわたしの大切なご主人様の一人ですよ」
「じゃあこの家で働けさえすれば、わたしと二度と会えなくなっても良いということなの?」
キッとした表情でエレーナがレイラのことを睨みつけた。
「あの、お嬢様、どうしてそのようなことをお聞きになるのですか?」
レイラの質問に、エレーナは俯いて指先を触りながら答える。
「だって、レイラは最近わたしにとても冷たいのだもの……」
「冷たくなんてないですよ。ただ、お嬢様ももうずっとご立派になられましたし、もう世話を焼く必要がないからと――」
レイラの声を遮るようにエレーナが小さな声で呟きだした。俯いているから目元が前髪で隠れていて表情は良く見えなかったが、声は曇っていた。
「……ってない……立派になんてなってないわ……」
「え?」
エレーナの頬へと涙が伝っているのがわかった。エレーナは必死に涙を堪えようとしながら、絞り出すように小さな声を出していた。
「あなたと一緒に居るためには淑女にならないといけないと思って頑張ることにしたのに、結局レイラはいつの間にかわたしの元から離れてしまったわ……。こんなことなら良い子になんてなるんじゃなかった。手のかかる子でいればよかった……」
エレーナが顔を上げ、レイラのことをジッと見つめた。大きな瞳いっぱいに涙が溜まっている。
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