エレーナお嬢様失踪事件
第7話
幼い頃のエレーナは、とにかくレイラへサプライズをして喜ばせる事が大好きだった。
だけど、その優しさのせいでレイラが困ったことは多々あった。その中でも特にレイラが印象に残っているのが、『エレーナお嬢様失踪事件』と『ネコ大暴れ事件』である。
とくに後者の『ネコ大暴れ事件』は、幼く無邪気だった頃のエレーナを失うことになった重大な事件だったとレイラは認識している。
エレーナの面倒を見るようになってから1年半程の月日が経ったある日のこと、屋敷の廊下を歩いているとレイラは先輩のメイドに話しかけられた。
「ねえ、レイラさん。エレーナお嬢様がどこにいるか知らないかしら?」
「お嬢様なら今日の午後は特にどこにも行く予定はないと思いますので、部屋の中にいらっしゃるかと……」
「そうよね。わたしもそう把握していたのだけれど、どこにもいないのよね」
それだけ言って先輩のメイドは去っていった。レイラは不安に思いながらエレーナの部屋へと急ぎ足で向かう。
「あれ、お嬢様は……?」
いないはずはないけれど、たしかに部屋の中には誰もいない。
「変ですね……」
レイラは首を傾げて部屋の中を見渡す。一見するととくに不審な点はなかったけど、よく見るとベッドの上の枕の位置がおかしいことに気が付いた。
といっても、ただ単に枕が本来人が寝るときに頭を置く位置に置いてあるだけだから、他のメイドは違和感には気が付かないだろう。たけど、普段からエレーナのベッドメイクをしているレイラにはその状態が異常なことはすぐにわかった。
だってエレーナは、いつもなぜか枕を頭の位置には置かず、胸元で抱いて眠るから、朝起きた時にはそのまま布団の中に枕が入ったままになっているのだから。
枕を抱いて眠りたいのなら抱く用と本来の用途で使う用とで2つ置いておきましょうかと何度か伝えたけれど、エレーナはその度に首を横に振った。
「枕を抱いて寝るなんてはしたないことをしていることがママにバレたら怒られちゃうわよ。だから枕は1つしか部屋の中には置けないの」
確かにマナーにうるさい奥様ならばエレーナが枕を抱いて寝ているなんてことを知れば相当こっぴどく注意をするだろう。レイラは納得した。
あと、その後エレーナが冗談で「レイラが抱き枕代わりに一緒に寝てくれれば良いのだけどね」と言ってきたので、レイラはそれについては丁重にお断りをしておいた。エレーナが随分と真面目な顔をして冗談を言っていたものだから、少しだけ断るときに罪悪感が生じてしまった。
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