第5話
「あ、ちょっと勝手に覗かないで!」
エレーナが慌てて座っていた椅子から立ち上がり、キャンバスの上に乗っかっている絵を隠そうとしたときに、バランスを崩してしまい転んでしまった。
キャンバスの上から覆いかぶさるようにして地面に体を叩きつけてしまったエレーナの咽喉からは、今にも泣きだしてしまいそうな小さな声が聞こえていた。
「う、うぅ……」
「お嬢様!」
そのエレーナの今にも泣きだしそうな声とほとんど同時にレイラは叫ぶような声を出した。
「大丈夫ですか? エレーナお嬢様!」
慌ててエレーナの側に駆け寄って体を起こすと、エレーナの綺麗な白いドレスにベッタリと絵の具がついていた。ドレスを洗うことも大変だけど、それ以上にエレーナが体を痛めていないか心配になってしまう。
これは大変なことになってしまった。とにかく屋敷内の医学に通じている人にきちんと治療してもらわなければいけないと思い、慌てて部屋の外に出ようとしたレイラのことをエレーナが制止する。
「待って、ダメ。大人の人はよんできちゃダメ!」
「ですが、エレーナお嬢様、何箇所か擦りむいております。早く消毒しないと……」
「バイキンをやっつけるお薬だけ持ってきてちょうだい。きっとメイドのだれかに聞いたら場所はわかると思うわ」
転んだ直後は泣き出しそうな顔をしていたのに、すぐに冷静な表情で指示を出すあたり、エレーナは幼い子どもであっても名門貴族の令嬢としての素養は十二分に備えていた。
どうして大人を呼んではいけないか、事情は分からないけれどとにかくエレーナの指示通りに消毒液だけ持ってきてレイラが塗ることにした。
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