第2話
「ところで、返事はいつ貰えるのかしら?」
「返事?」
レイラはとぼけてみたけど、エレーナが何のことを言っているのかはよく知っていた。今までエレーナの問いかけにはすべて即座に回答してきたレイラが、唯一回答を待ってほしいと言ったのはあの話しかない。
「そう、返事よ。早く答えてくれないと。わたしは明日からもうあなたと会えることは無くなってしまうのだから」
「お嬢様、意地悪ですよ……」
レイラはこのままうやむやにしてすべてを終わらせるつもりだったのに、そういうわけにはいかないようだった。
答えに悩むレイラのことを、エレーナが上品な笑みで見つめていた。エレーナはレイラの次の言葉をゆっくりと待っていたけど、レイラは何も言えなかった。
どちらも黙り込んでしまったため、元々静かな部屋がより一層静かになってしまう。
時間が経ってもなかなか答えないレイラから視線を外して、エレーナが静かに立ち上がった。
「ねえレイラ、少し庭園を散歩したいのだけど、一緒に来てもらってもいいかしら?」
「今日は警備も手薄ですから夜に出歩くのは危ないかと思いますよ?」
「あら、もう明日からこのお家の庭園を歩くことは無くなっちゃうのだから最後の夜くらい良いじゃないの」
レイラは少し悩んだ。今エレーナのことを守れる人間はレイラしかいない。万が一エレーナの身に危険が生じたらどうしようかと。
そんなことを一瞬考えたけど、結婚前夜のエレーナの頼みを無碍にするのは可哀想だ。そして、それ以上にレイラ自身がエレーナと一緒に綺麗な庭園で散歩でもして一緒に時間を過ごしたかった。
「……わかりました。でもくれぐれも気を付けてくださいね。わたし一人ではお嬢様のことを守り切れるかどうかわかりませんから」
「あら、そう言いながら不審者が来たらレイラの華麗な手足裁きを見せてくれるんでしょ?」
クスクスと笑うエレーナを見てレイラは大きなため息をついた。
「不審者に出くわしたらすぐに逃げますからね」
「わたしは運動が苦手だからおんぶでもしてもらおうかしら」
エレーナがどこか懐かしそうな表情をしながら楽しそうに笑っていた。
レイラはエレーナの手を引いてゆっくりと外へ向かう。
外に出ると、大きくて綺麗な庭園が広がっていて、日中だと色とりどりの花が太陽に照らされて踊るように咲き誇っている。
長年この屋敷に勤めている初老の庭師のリーダットさんが、しっかりと計算して常に一番綺麗に見える花のバランスを考えてくれている庭園は、今みたいに月が出ている時間帯には、昼間とは違う静かで妖艶な美しさを見せていた。
昼間に見た可憐で可愛らしく無邪気に見えた花々が、夜になると艶やかで麗しく上品な様子を見せる。その姿はなんだかエレーナと似ていて、そんな花々を見ているとレイラの脳内にフッとこれまでエレーナと過ごした日々の思い出が湧き出てしまう。
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