第8話友達とゲームで遊ぶとこうなる②
やるかとはいったものの、マニオカートのカセットが見つからなかった俺はクローゼットから数分かけて探し、ようやく見つけることができた。
ここに引っ越してきてから、持ってきたはいいものの使う機会に恵まれない物はクローゼットに未だに収納されている段ボールに入れてある。というか取り出してないだけだが。
ぐちゃぐちゃになって色々と入っていたもんだから、少しだけ時間がかかってしまった。
個人的には久しぶりに面白い物を見つけたが、流石に今は凪を待たせているので自重しておいた。
少し疲れたので冷蔵をからお茶を出して二人分のコップに注ぐと、それを丸テーブルの前に置いて座った。
「はいよ。またせたな」
「ありがと。ようやくこの時が来ちゃったね梓川。覚悟するんだよ」
凪はテーブルに置かれたお茶をゴクリと一口飲むと、不敵に笑ってそう言った。
俺もそれに不敵な笑みを浮かべる。
「ほ~ん。勝てると思っているのかこの俺に。スウィッチ初心者が」
「勝てるね。完膚なきまでに買ってみせる!これでもうちは小学生の頃万年一位のプロレーサーとよばれてたから!」
なにそのザ・最強みたいな称号。
「はッ、過去の栄光だぜそんなもん。俺等はもう大人だぜ?大人の世界は甘くないって教えたるわ」
俺は軽く鼻で笑い飛ばす。
「……高校二年生って大人って扱いなの?」
「え、いやしらんけど。……適当適当」
あれ、そういわれればそうだ。高校生料金とかいうのあるし、いやでも義務教育は中学までだし……。
わかんねぇなこれ。
「まぁいいんだよそんなことは。さっさとやろうぜ?てかはよキャラ選択してもろて」
「逃げたね。っとちょっとまって!キャラがいっぱいだなぁ、何つかおう」
「性能変わるわけでもなし、ビジュアルか適当に決めな」
「じゃあコイツで」
そう言って選んだのはビーチ姫で、主人公であるマニオのヒロインだ。
「そう来るなら俺はこれで」
俺が選択したのはマニオの敵役でこのシリーズのゲームの親玉でありヒロインを奪う枠でもあるキャラ、クパァである。消してエッチな擬音ではない。
しかし、考えてみればこの物語。
マニオシリーズってNTR系だよな。今まで気づかなかったけど。
それぞれパーツによって性能が変わる車を色々組み替えて、コースを選択したらようやくレースが始まる。
特にどこがやりたいとかはなかったので適当なコースにした。同じコースを二周して三周目でゴールとなるこのモードは、四レースして合計得点で競い総合順位が高かった方が勝ちである。
テレビ画面にでかでかと出てきたクソデカカウントが三、二、一と進んでいく。
二の時のボタンを押し、初手一気に加速をつけた。
「あっ!?それの存在忘れてた……」
そんな叫びを聞いて早速一位に躍り出た俺は、しかし途中で壁に衝突しコースを外れてしまい二位、三位と下がってしまう。
「やべぇな。久しぶりだから結構むずいぞ操作これ」
「あははっ。じゃあお先~」
俺を抜かしていった凪が横を通っていったところで、俺も何とかコースに戻ることができた。
気を取り直して順位を上げていく。彼女との差はそこまで広がっていない。
凪が四位で俺が六位。実際離れている距離もそこまでじゃないからまだ全然巻き返せる。
一位が今一周目を通過したところをみて、余裕が生まれた。
マニオカートはアイテムボックスなる四角の箱がコースに落ちていて、それに当たることで色々なアイテムを貰える。
そしてそのアイテムは順位が下になるほどに上に上がりやすくなるアイテムだった気がする。
そう考えると、むしろ順位が下がったのは悪くないことなのかもしれない。下でアイテムを拾い、それを例えば一位になった時に使えば二位とかなり差を開くことができるだろう。逆転の余地のない完全一位だ。上手くいけば。
「こりゃうちの一位も見えてきたね?梓川」
「いやいやまだまだ始まったばかりだぜ?焦るなよ凪」
「あはははっ」
「ははははっ」
互いに威圧しながらコントローラーをポチポチ。
実際、凪はこのコントローラーで初めてであり過去にやったのが小学生以来とは思えないほど上手くて、伊達にあんな強そうな称号がついていない。
いや、俺が普段やってないから雑魚同士の争いになっている可能性もあるが。
だが俺は負けない。彼女は今CPU達を抜き去り一位となっているが、俺は二位についている。特にアイテムは使っていないのでで、ここでようやく下から運よく持ってこれたアイテムを使うことにした。
正直今使えば確実に一位をとれる。
こみ上げてきた笑いを殺しつつ、
「くくっ。ご、ごめんな凪」
否、少し漏れていた。
「え、何?」
俺は彼女の車の後ろに自分の車を近づけた後、アイテム『キラーバズーカ』使った。
「なっ!?はっ?」
素っ頓狂な声を上げる凪に、俺はしたり顔を作った。
俺の車はアイテムを使ったことにより一気に加速し、彼女の車を弾き飛ばし奈落の底へ。
彼女はそこから這い上がるのに時間を使い、CPUに抜かれ五位。
俺は二位と圧倒的時間差をつけて一位でゴールした。
そんな俺は一言。
「すまんねぇ」
そう言って笑った。
煽りが効いたのだろうか、彼女は画面を睨み不満そうな顔をしてた。
「……ふ~ん、ふ~~ん。イライラするね。こんなイライラしたの、試しでいいから付き合えって言われてしつこく迫られたとき以上だよ梓川」
……え、そんなに効いたの?いささか効きすぎでは?しつこく告白迫られたって、それ相当なのでは?
「それ、わざわざさ、うちの後ろで発動する必要あったのかなって思うんだよね」
「ん、え、いやぁ?ま、まぁまぁ落ち着いて。そんな怖い顔するなって、い、いつもの可愛さが半減してるよ?滅茶苦茶怖い」
「へぇ、泣かしたいな。梓川のこと」
「どういう返答!?」
そんなやり取りをしている間に次のコースのカウントダウンが始まる。
凪はさっきよりも真剣な表情で画面を見ていた。
かく言う俺は、久しぶりの勝利という高揚感で少し手が汗ばみ若干震えている。そして若干ながら妙に気持ちが落ち着かない。
それは凪への恐怖なのか高揚感なのかは知らないが。
しかし、久しぶりにゲームをするのは楽しい。
しかも友達とこうやってじゃれ合いながらするゲームというのは格別である。久しぶりに味わう感情に、しばし戸惑いを覚えた。
いや、もともと凪といるとこういう感じがあった。
今回はマニオカートを通すことでより表に出てきたといったほうが正しいか。
この時間が楽しい。
この瞬間が楽しかった。
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