第7話友達とゲームで遊ぶとこうなる①

 俺のクラスにおける位置づけとは、凪達を上位カーストとするなら微妙な立ち位置である。それは中立というか中間というか取り合えず下位と上位の間くらいだと言っておこう。

 特に誰に話しかけるわけでもないが必要に応じてはキチンと対応する。例えば消しゴムを落として気づかない人がいればそれを拾って話しかけるし、自分が教科書を忘れた時は周りに借りるために話しかける。

 全く以てごく普通、カーストの中間、中立。まさに俺だと思う。

 

 だがそれはそれとして、俺が人と話したりコミュニケーションをとるのが好きかと言われれば、それは違う。

 人だかりがあればそこを嫌い、わざわざ率先していくことはない。

 

 そう考えると凪は誰にでも優しく話しかけ、率先して人の輪に入る。いわば俺の上位互換みたいなもので、全ての普通の人の上位互換である。

 しかしそんな凪でも、いわゆる気疲れなどというバッドステータスが掛かることがある。なんならむしろ常にそれは付きまとっている。


 彼女は自然と上へ行きやすいが、行きやすいのと行きたいのとでは全く違う。望むか望まないか。

 まぁ彼女とて、まったく望んでいないということもないのだというが、だからこそ彼女はあの立場に居続けている。上に行きやすいけど別に行きたいとも思ってない、けれども上に行くのは嫌ではないのだ。


 自然と彼女はあの位置にいて、あの位置が似合う女の子だ。


 でもやはりバッドステータスは解呪しないといけない。

 どこか自然と羽を伸ばせるところ。何もしがらみがなく、より自然体でいられる場所。

 疲れを癒せる場所が必要なのだ。


 そしてそれが、いや特に自惚れではないのだが、そういう場所が俺の家であろうことはなんとなく察せられた。

 少なくとも俺の推理はそう言っているし、彼女からどことなく察せられる部分もある。

 ……というか、そうじゃないと俺の部屋にほとんど毎日もこないだろう。


 もちろん俺と彼女は友達だからってのもある。

 なんならセックスするくらいの仲だっていうのもある。


 しかし友達でセックスするくらいの仲というのはどれくらいの仲なのだろう。

 少なくとも今の彼女との関係を見る限り、かなり親しい仲であると思う。


 それを思うと、俺は嬉しい。


 だってあんな美少女と俺は放課後家に帰たら遊んで、飯食って、セックスする仲なんだぜ?

 

 贅沢も過ぎる。きっと前世では何百人もの人間の命を救った英雄かなにかだろう。徳を積んだことによってこんな素晴らしい生が得られたのだ……いやそれはいいすぎか、別に神様とか信じてないし。


 凪葵は俺の懐にズケズケと入りこみ、僅か一か月と少しで彼女を俺にとって気の置けない存在にさせられた。彼女にとっての俺も、おそらくそのくらいの友好度であろう。たぶん。メイビー。


 少なくとも俺は彼女のことを、彼女が困っていたら最初から最後まで助けるくらいには好きだ。

 それはもちろん、友達として。


 彼女とのこの関係は好きである。だから、彼女がいられる場所でありたいとそう思う。

 この関係のままで、いたいのだ。






 その日の学校もなんだかんだ恙なく終わり、いつもの如く早々に帰宅した俺はベッドの上でノートパソコンを開き動画を流しつつ、またいつもの如くWEB小説を読み耽っていた。ノートパソコンの画面には今はやりのFPSゲーム『APAX』をしながら、叫んでいる実況者が映っている。


 このゲームは合計六十人、一チーム三人で競い最後まで生き残るバトルロワイヤルゲームとなっている。

 ちょうど今、よほどの初心者なのか一瞬で敵にハチの巣にされて全滅している光景が画面には映っていた。

 そりゃ遮蔽もない場所で撃ち合ってたら死ぬよなぁ。


 人によってはそういうプレイはイライラするのだろうが、そのゲーム実況者が可愛い感じの人だったのでそういうのは感じなかった――あるいはプレイをみた後彼女をみて気持ちを静めているともいえる。

 まぁゲームなんて楽しくやればいいんや。


 ライブ配信なのでリアルタイム実況である。コメントを見ていくと、『ざこ』『下手すぎ』などの心無いコメントが見えた。

 わざわざ言うことでもないし、本人楽しそうだから別にいいのになぁと思いつつも、まぁ有名な人だししゃーないんかなぁと思う。

 

「うわ、可哀そう……そんな言わなくてもよくない?」


 そう言うのは、俺の隣に座る凪葵だ。

 彼女は漫画を読んでいたが、今は視線をパソコンの方に向けていた。


「まぁ、しゃーないでしょ。こんだけ人が見てたらそんなもんよそんなもん」


 独り言のようにボソッと小さく言ったそれを、俺は拾い上げた。

 彼女の瞳がパソコンから俺へと移る。


「じゃあ可哀そうっては思わないの?」

「いや?全然思うよ。けどアンチなんてほんの一部にしか過ぎないらしいよ。声のでかい少数が目立ってるだけ」

「へぇ~、そうなんだ」

「ってネットの誰かが言ってた」

「受け売りじゃん」


 凪はまた配信に目を戻した。読まないのか漫画。

 いいじゃん受け売りでも、人間の知識なんて全部受け売りよ。


「凪はこれやってみたいと思う?」


 そういって俺はパソコンを指さす。

 少しだけ首を捻って考えた凪だったが、


「見てるだけで面白いけど、うちは操作とかできる気がしないからパスで」

「見てて面白いなら是非やって欲しいとも思うけど、こういうゲームしないの?」

「しないかな……今は漫画が面白いし、誘われてもやらないよ?」

「そうなんか。残念」

「そうなんよ~」


 う~ん。凪と一緒にゲームとかしてみたいけどな。

 操作、操作ねぇ。


 少し考えて、俺はベッドの下にあったゲーム機を取り出した。

 ちょっと前まで結構品薄で公式サイトに張り付いて買う人が大多数だった大人気ゲーム機。好きな色にしたり、既存の色から選んだり色の種類は豊富ともいえるが、俺が選んだのは無難な灰色。


「ん、え、それってもしかして」

「そう。ニテンドースウィッチ」


 ででーんと音が付きそうな感じでそれを頭上に掲げる。


「わぁ!すごいの持ってるんだね梓川」

「なんとか販売時に公式サイトに張り付いて買ったんだよね。今となっては普通に売ってるけど」


 と、いうことで。


「これ使ってゲームしない?」

「……うちの話きいてた?」

「聞いてたけど、あぁいうゲームじゃなくてレースゲームとかどうよ。それならやれるんじゃない?」


 レースゲームかぁと呟く凪。

 何かを懐かしむようにも見える。


「って言うと、もしかしてマニオカート?」

「わかってんじゃん。やる?」

「やる!」


 よっしゃ。

 意外にも結構乗り気な雰囲気の凪。

 瞳をキラキラと輝かせて握り拳をぎゅっとしている。


 やっぱ皆好きだよなマニオカート。小学生の頃とか絶対やってたもんね。

 スウィッチをテレビに繋げて起動。


「久しぶりだなぁ、もうずっとやってないねうちは。梓川は結構やってるの?」

「いや?買った頃はやってたけど、最近はそもそもスウィッチにすら手を付けてないよ。忙しいもんでね」

「あ~ベッドの下から出したときちょっと埃被ってたもんね。でも忙しくないでしょ」

「忙しいんだよ。趣味とかね」


 学校帰ってからいろいろ娯楽に興じるのは、忙しんだよ?でもその分毎日に充実感を感じることを約束しよう。


「じゃあやるか。かかってきな」

「望むところだ!」


 俺が挑発すると、凪はニッと笑った。

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