第2話なんてことの結構ある出会い
はてさて、行為を終えた後、俺たちはベッドで一緒に寝ていた。
俺の右腕に凪の顔があり、顔をひねってのぞき込むと、すやすやと安らかな顔で眠っている。ご臨終だ。
さっきまであんなに
結構激しかったなぁ。
いや、俺も激しかったけれども。
あれだけ興奮していれば、俺もさっきみたいな、さっきの凪みたいな顔をしていたのかもしれない。
自分で自分のことなどはわからないが。
賢者タイムも終盤、普段ならあまり気にしないどうでもいいことを考えながら、凪の髪を手で梳いていく。
うおっ。すごいなこれは。サラサラだ。
パッと見枝毛もないし、指がとおるとおる。
綺麗な顔だなと素直に思う。
あまりにもきれいすぎて、ありきたりな美少女などという誉め言葉しか浮かばないくらいには。
いやそれは俺の語彙力がないからかもしれないが。
眠っていても触られていることがわかるんだろうか。
少し顔をしかめつつ、「んむぅ…」という声と共に、少しだけ寝息が不規則になった。
おっと、起こしてしまうのは悪いな。
凪の髪から左手をどけて、少し空中で彷徨わせた後、
「えいっ」
生まれたままの姿の凪のおっぱいにたっち。
フニャンという音が聞こえそうなほど柔らかいそれに指が沈む。
おおっ。
別にエッチな気分にはならないが、すげぇ面白い。後柔らかい。
自分の手に合わせてこうやって形を変えるのは、見ていて飽きない。
これが凪が寝た時のルーチンである。
さて、凪葵。
ちょうどいいから彼女について語ろうと思う。
彼女はいったい何なのか。どういう関係なのか。
考察厨は脳を活性化させ、それ以外ははよ言えよと思っていることだろう。
彼女――凪葵は、彼女ではない。
となると、じゃあセフレじゃんと思うだろうが、いや待ってほしい。
そんなセフレなんて言葉で、片付けないでほしい。
もちろんやっていることはセフレである。
しかしなんかこう、俺の中の何かがセフレって言い方は良くないんじゃない?と言っているので、世間一般からみたら、そりゃセフレなんだろうけど、しかし彼女は俺にとってセフレっていう一言で片づけていい存在ではない――片付けたくない。
彼女は、女友達である。
でも友達とはセックスをしない。
友達とセックスしたら、つまりセックスフレンド。セフレである。
もちろん知っているけれど、いわゆる俗物的なセフレと一緒にしないでほしいというのが正しいか。
凪とは、セックスだけの関係じゃない。
本当に友達で、その友達としてのやりとりの延長線上に気づいたらセックスがいて、気づいたらばっこり盛り合っていた。
ここで重要なのはもちろんばっこり盛るの部分ではなく、友達としてのやり取りがちゃんとあるということ。
一緒にゲームしたり、飯を食ったり、下品な会話をしながらセックス関係なく過ごす。
とりとめのない、心休まる関係。
…の中になんかしらないけどセックスが紛れ込んでしまっただけである。
ここまでつらつらと並べてきて、まぁ結局、簡単に言うと、もう本当に素直にいうと、セフレっていう単語が何となく気に食わない。これだ。
よくいわれるセフレと一緒にしないでほしい。
セックスだけの関係では、ないのだ。
と、熱く語ってみたところで、じゃあなぜ彼女とセックスするようになったのか、彼女との出会いを話していこう。
彼女――凪葵と出会ったのは、まったくの偶然である。
というか、出会ったというか、もともと知ってたけど、偶然で友達になった。
彼女は俺も通っている高校の同級生で、しかも同じクラスだ。
だから俺は彼女を知っていて、おそらく彼女も俺のことはなんとなくしっていただろう。
凪葵は、いわゆる女子グループの上位カーストの頂点の1人である。
ルックスも、人当たりも良くて、勉強だってできて、スポーツでさえできる。
正直できすぎて怖いくらいで、これが人間の頂点なんだなぁと俺はクラスで眺めながら思ったことがある。
高校に入学して1年のころから彼女は絶え間なく告白されていて、2年になった今でさえも告白されている。
彼女を校舎裏に呼び出して告白するという行為は、もう行事みたいなもんだ。
一種の風物詩、あるいは娯楽。
まぁ、俺はなんかそう思ってるけど、告白している当人たちはもちろん真面目に、真剣に告白しているのだろうが。
いやでも、そんくらい彼女は綺麗なんだ。
綺麗で可愛い。
そうやっていつもいつも告白されることに疑問を抱かないくらいはそうだ。
で、そんな彼女と交流したのは2年になってからで、今が5月だから、約1か月前か。
始業式の日、俺は初めて彼女の下校時間にバッタリ出くわした。
しかもなんと、彼女と下校の道が同じだったのだ。
俺よりも先に出た彼女を、別に追いかけたわけではないが、道が一緒なので自然とそうなって、彼女はどこまでいくのだろうか、などと考えていたら俺が暮らしているマンションの前に到着。
俺と一緒でそのマンションの前で足を止めて中に入っていった。
いや同じマンションかよ、とその時は何度突っ込んだことか。
彼女は学校に余裕を持っていくタイプで、俺はギリギリを攻めるタイプ。
約30分の出発のズレが、1年間一切顔を合わさないという結果になった。
下校時間に関しても、彼女は学校帰りはよく友達と駄弁ったり出かけたりしているので、放課後やることもない俺と時間がかぶるわけもないのだった。
俺は互いに同じマンションに住んでいたことに少し驚いたが、でもだからと言って、何が起こるわけでもないでしょということで。
ラノベとか、漫画だったらここからラブコメに発展したりとかするのだろうけれど、現実は現実である。
創作物と一緒じゃないのだよ。
エレベーターを昇って自分の部屋のある階へ。
扉を開かれればあら不思議、少し前方にいたのは凪葵本人である。
いや同じ階なんかすげぇな。などとおもいつつもそそくさと自分の部屋の前へと歩く。
そして気づいた。
気づいてしまったのだ。
彼女はとある部屋の前で止まり、学校のカバンの中に手を突っ込み、がさごそと鍵を探していた。
で、その部屋なのだが、実は俺の部屋の横だった。右横。エレベーターに近いほう。
三度驚くも、まぁそれでもだからといって何があるわけでもないし。
彼女の後ろを俺もカバンをガサゴソしながら通って、で。
「あれ、梓川くん?」
話しかけられた。
ごく普通に話しかけられたのだ。
あれ、こういうときってなんか気まずいなとか思いつつも見なかったふりをするか、一応でもあいさつでもするかぁみたいな感じで会釈くらいですませるんじゃないの?
一応いうけど、同じクラスなだけで、特に接点はないよ?
彼女は部屋に入る寸前で俺に気が付いたようで――俺はちなみにその時は鍵を鍵穴にずぼりとしていた――彼女は扉から少し顔をだして驚いたようにこちらを見ていた。
「…あぁ、どうも。えっと…凪さん」
正直話しかけれらると思っていなかった俺は、少ししどろもどろになりながらも平然を装ってそう返した。
彼女はまた驚いたように目を見開く。
え、そんな驚くことある?若干口空いてるけど。
ぽかんとした表情とはまさにこのことか。
「え、梓川君て、そこに住んでるの?そこの部屋?」
「…あぁ、そうだよ。ここが俺の部屋」
「へぇ~、すごいね。すごい偶然。隣だったんだ…」
たしかに、すごい偶然である。
同じ高校の同級生の同じクラスの女の子と住んでるマンションが同じで隣。
どんな確率だよって感じ。
…まぁ、だとしても。
そんな意味わからない確率だったとしても、なにが変わるわけじゃない。
何も変わらない。
同じクラスの女の子が隣の部屋に住んでたってだけ。
ただそれだけのこと。
俺は「じゃ」と一言だけ声をかけて、部屋の中へと足を踏み出した。
これが、出会い。
これが俺の知る些細なはじまりである。
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