第29話
学校からの帰り道、梓依華ちゃんがイヤホンが欲しいとバスを途中下車した。
「先帰りなよ〜時間かかるかもしれないし、」
電化製品店の入口で足を止めて梓依華ちゃんが言った。
「用事とか無いし付き合うわ〜」
そう返しつつも私は内心梓依華ちゃんの言葉に引っかかっていた。
なんて言うのか、梓依華ちゃんはこういう突き放したような言い方をすることがたまにある。
その度に私は本当は好かれてないんじゃないかって不安になる。
けど、素っ気なくされると追いたくなってしまう。
「そっか、、、」
梓依華ちゃんはそう言うと、それ以上は何も言わなかった。
その反応で梓依華ちゃんは嫌がってないことがわかると私は安堵した。
同時に、そんな不器用な梓依華ちゃんを愛おしいと思った。
無事にイヤホンを買い終え、バス停の椅子に座りバスが来るのを待っていた。
「ねぇ梓依華ちゃん写真撮らん?〜」
そういえば、2人で写真を撮ったことがないな。
なんて思って私がそんな提案をすると、
「いいよ」と快くOKしてくれた。
私はスマホを片手に構える。
「ごめん、、腕が短いから上手く撮れん、、」
こんな時に自撮り棒でもあれば!なんて、心の中で嘆いた。
「せめて、梓依華ちゃんだけでも撮らせて!」
そう言って私は立ち上がり、梓依華ちゃんにスマホを向けた。
「はい、笑って!」
カシャッ
うーん、いいけどいつもの梓依華ちゃんって感じ。
どうせ撮るなら、何倍にも可愛く撮ってあげたい。
いや、いつも可愛んだけどね?
「うちが指示するから、その通りに顔作って」
「えぇ??わかった」
「はい、目を少し大きめに開いて〜、顎下げて〜、そのまま笑って!」
カシャッ
「ブファッ」
吹き出した笑いになる。
なんだこれ笑
私のスマホの画面には顎を思いっきりしゃくれさせて笑う梓依華ちゃんのアップ。
いや、顎引けって言ったのになんで出てるの??笑
「見してよ」
と、梓依華ちゃんはちょっと慌てた様子で画面を覗き込む。
「うわっ何だこれ!やだ、消して消して」
「えーよく撮れとるよ!最高にいい顔しとる!」
「いやいやいや、これは完全に事故画だよ!消して〜」梓依華ちゃんはそう言って私の手から必死でスマホを奪おうとする。
「やだぁ誰にも見せたりしないから〜いいやろ?」
ちょっと思ってたのと違うけど、いい写真が撮れたのに消すなんてもったいない。
そして、梓依華ちゃんはとうとう諦めて、私のスマホに伸ばす手を下げてくれた。
誰にも見せないことが条件で。
けど、後日私のスマホの待ち受けが長い間この時撮った事故画だったことは内緒だ。
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