第10話


夜になり、お母さんが薬を薬を服用してから1時間がたった頃、お母さんの様子がおかしくなった。

目は虚になり、口はだらしなく開いている。

薬が効き始めた証拠だ。

決して薬物とか危ない薬ではない。

だだ、かなり強力な睡眠薬ではあるけど。

お母さんは10年前から不眠症に悩まされていて、毎日薬を服用していた。

その大量の薬の中には何故か、気分を高揚させる作用があり、それがお母さんをより一層おかしくさせているようだった。

私はお母さんの機嫌が悪くならない内にさっさと寝てしまおう。そう思って寝室に向かった。

横になって暫くすると、お母さんが音を立ててこちらに向かってくるのがわかった。

ドンッ、ドカッ。

薬を飲んで、意識が朦朧としているのか、移動するたびにどこかに身体をぶつけている音がした。

お母さんの原因不明の痣は多分この時にできているんじゃないかと思う。

私は、布団を頭まで被り、寝ているふりをする。

近づいてくる足音は私の前で止まった。

「私より早く寝るんじゃねぇよ!」

お母さんはそう怒鳴ると、布団を勢いよくめくり上げ、私の腹部を思いっきり蹴り上げた。

私はあまりの痛みに、腹部を手で押さえ、うずくまった。

そんなことお構いなしにお母さんは私の長い髪を乱暴に掴み、引っ張り上げる。

「お前に、布団で寝る権利なんかねぇんだよ!!こっちに来い!」

と、私の髪を持ったまま、引きずるような状態で連れて行かれる。

止まったのはお風呂場の前。

「今日はここで寝ろ!!」

お母さんはそう言い、私の身体を乱暴に投げた。

ガシャンッ。

扉が勢いよく閉まる。

私が思考停止して暫く放心状態になっていると、扉の外側から、ガムテープが何かで止める音が聞こえてきた。

うわっ、やりやがった。と、思った。

夜中にこっそり出ようと思っていたのに。

これじゃあ、出られたとしても、音を立ててしまう。この状態の時に気づかれたら一環の終わりだ。

今日は諦めてここで寝るしかないか。

そして、私は浴槽に身体を沈め、胎児のように身体を丸めた。

まだ、季節が冬じゃなくてよかった。と、安堵しながら目を閉じた。

浴槽に沈んでいる身体は動かすことが出来ず、自分の身体が固まってしまったような気がした。

夜中に目覚める度に、自分の身体が動かせないことに対しての恐怖が襲ってきて、じぶんが死んでしまったような錯覚に陥った。

頭がおかしくなりそうだった。

それでも、まだ続くこの長い夜を私は耐えなくてはならなかった。

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