第3話

三時間弱、歩いた先にあった都市。

石造の家が立ち並び、街の真ん中に立つ雲の上まで突き抜ける塔。


しかし、


「賑わってるなぁ」


「昔の街、今と同じくらい人多い」


カタコトの日本語のような喋り方が素の妹が見渡しながら言った。

どこに行って何をするにもまずは金、か。


「おあつらえ向きのやつがあんじゃん」


———逃げたラムの捕獲———

20銅貨


りんご一個1銅貨って事は1銅貨100円ってとこか。


「おい、カナメ〜?これするぞ?」


「分かった」


「場所は、、、、西の、、丘?」




「29匹捕まえてくれ、そしたらそれをこの柵の中に入れてくれ。そうしたら報酬を払うから、お願いね」


「はい、分かりました」


29匹か、、、案外楽そうだな。お八つ時には戻れそうか。


「じゃあ、行くぞ」


「うん」


異世界にしては随分と楽そうだなぁ。



六時間後



「よし、29匹捕獲完了っと」


ふう、と一息をつき丘に座る、29匹、舐めてた、、、。

そもそもこの世界の羊は体長2メートル弱。

性格はおとなしいものの、大きい分大変だった。


「うん?」


夕日が沈む向かいの丘に無数の黒い影が現れた。


「羊?」


黒い体毛の羊、強靭な爪と牙が遠目にも分かる。


《ブラックシープ》


突如脳裏に浮かび上がったその名。

このクエストの注意事項にあった、ごくごく稀に出現する神獣クラスの魔物。


1つの影がゆっくりと近づく。

魔獣、そう呼ぶにふさわしい姿にビクビクと震えながら後ろに下がろうとした。


その時。


『ブルフッ』


大きな鼻息が背後から聞こえた。

まじかよ、、


ブラックシープが後ろにも前にも1体。

戦闘能力皆無の前に現れた圧倒的暴力の存在に絶望を覚えた。


目の前10メートル、9、8、7、6、、、、3、2、1!


大きな足が降り上がった。


グシュッ。


不快な音が鳴り、早くも新人生の幕は閉じた。



【カナメ(妹)視点】



目が開いた。

自分の肉体、すなわちカナメは今をもって死んだ。


なのに、、、


「選定新。久しぶりね」


フード付きの黒い服を纏い、顔が隠れた人が気付けば、前にいた。


「あなた、誰?」


「あなたが冗談を言うなんて珍しい、、。人間の肉体を得たから、人格が引きずられたと言うわけ?」


「誰?」


「ほんとに覚えてないのね、、、。紫色の髪の頃はもっと無口だったのに、、、。それとも、あの”呪い”の力が消えて喋れるようになったの?」


ヒュッと一瞬消え気づいたら後ろにいた。


「まぁいいわ。ここにきたと言う事は、依代が壊れたのね、、、、」


「依代?」


「そう、あなたの神としての器。そのものが死んだ、と言うこと」


「私が、、神?」


「そう、思い出した?」


「分からない、、戻して、、、向こうに戻してっっ!、、、、お兄ちゃんが待ってるの、、、」


「ふぅ、、。あなたの兄はとうに死んでいるよ、、、」


「死ん、、でる?」


さっきのブラックシープにお兄ちゃんもやられた?嘘だ、、、。


「まだ自覚が、神としての記憶が戻らないのね、、、。手伝ってあげるよ、、」


アイスピックのように先の尖った針を勢いよく降りかざし、刹那。

赤い鮮血が宙を舞った。


「ッアァァァァァァァァァァァァァァァ」


「全盛期の10000分の1くらいだけど力を取り戻させたから、力を行使することで少しずつ力を取り戻せるはず」


「かつてのよしみで少し手伝ってあげましょう」


「死ぬ1秒前に戻してあげる、そのあとはどうかしてね。じゃあ、」


急に現れたそいつは黒いゲートの中にゆっくりと入っていった。


そう言いかけた時すでに奴はいなかった。


ー次会う時、神界戦争で、楽しみにしてるねー


頭に奴の声が響き、暗闇の世界に居たはずの自分の意識はプツンっと一瞬途切れてしまった。




【直人(兄)視点】


大きな爪がついた手が目の前まで迫ってきた。


あぁ———死ぬんだ、、


せめて妹だけでも、カナメだけでも、守ってやりたかったなぁ。


《その時》


手が頭スレスレになった時急に奴の手が、動きが止まった。

と、同時に俺では無い誰かの血飛沫が上がった。


「カナメッッ?大丈夫かっ?どこにいるんだっ」


あたりを見渡したが、いない。


ドサっと目の前のブラックシープが倒れる。


え?どう言うことだ?視点を空に向けるとそこには信じられない光景が浮かんでいた。


「カナメッッ」


目に写ったのは空中に浮くカナメの姿、そしてその隣にある無数の魔法陣が、、。


ヒュンっと、魔法陣が消えると共にカナメがくらっと気絶し落ちてくる。


前に思いっきり飛び込みカナメを抱き抱える。


「大丈夫かッッ?」


「おいっっっ」


いくら言っても起きない妹の額に、一瞬何かが浮かび上がり、そして消えた。

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神話と言う異世界の中で ルブブ @rububu

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