恋煩い

 美しい夕日が、どこまでも続く海原の向こうへ沈んでいく。


 こっちニューカレドニアに来てから、もう四、五年になるだろうか。

 最初は全く話せなかったフランス語も、なんとか日常会話レベルには話せるようになったし、こちらの暮らしにもずいぶんとなれた。

 それもこれも、全て望愛のお陰だ。



「ねぇ、ナオ」


「ん? どした?」


 縁側に腰掛け、俺は望愛を膝枕して、夕日を見ている。そろそろ夕飯の時間かな?


「海、綺麗だね」


「・・・・・・だな」


 夕日を浴びてきらめく海は、涙が出そうなほど、憎たらしいほど、美しかった。


「もー、ちょっと。そこは『君の方が』とか言うところなんじゃないの?」


 おっと、そうだったか?


「お前が可愛いのはわかりきってることだろ?」


「・・・・・・そう言うことじゃ無いんだよねぇ」


 わかってないなぁ、と望愛は拗ねる。

 悪かった。お詫びに明日なんか買ってやるから、許してくれ。


「ねぇ、ナオ」


「どした?」


「本当に、良かったの?」


「何が?」


「ボクと一緒に、こんな遠くまで来ちゃって」


 望愛は少し声を潜めてそう聞く。

 まったく。それこそ、わかりきってることじゃねぇか。


「良かったに決まってるだろ。日本じゃやっぱりこう、窮屈だしな。色々」


 俺は望愛の手をしっかりと握る。


 夕日は、もう半分以上沈んでしまった。


「なぁ望愛」


「なーに?」


「お前の方こそ、良かったのか?」


 こんな俺なんかで、と付け足した。

 望愛は笑って、答えた。


「良かったに決まってるでしょ? もっと自信もってよ。ボクのたった一人の、旦那さま」


 えへへーと、ふにゃふにゃの笑みを浮かべて望愛は仰向けになり、空いている方の手を俺の顔に伸ばした。


「ねぇ、ちゅーしよ?」


「なんだ、頭クラクラするのか? 水持ってきてやるよ」


「もぉー、違うー! ちゅーだよぉ! キースー!」


「冗談だって、ごめんごめん」


 ブーと怒る望愛をなんとかなだめて、俺達は顔を近づけ、唇を合わせる。


 柔らかく、優しく、温かく・・・・・・。


 今まで色々なことがあった。


 嬉しいこと、楽しいこと、幸せなこと、素晴らしいこと。


 悲しいこと、嫌なこと、辛いこと、不幸なこと。


 それら全てがあって、今俺と望愛はここにいる。

 今がある。


「ねぇ、ナオ」


 望愛が言う。


「どうした、望愛」


 俺が聞く。




「大好きだよ。ずっと、ずぅーーっと。何があっても」


 望愛は、そう言って笑った。


「俺も、大好きだ。ずっと、ずっと、永遠に、いつまでも。俺は、お前を──────」




 夕日が沈んでいく。



 俺は、望愛をぎゅっと抱き締めた。








                  Fin…?

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【完結済】ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ かんひこ @canhiko

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