軍事独裁国家アルトベルゼの極秘のスパイ養成組織、通称『学園』。数々の困難な任務を成功に導き、学園のみならず国内の工作員から信奉を集めていた天才少女フェイ・リーは突如、国を裏切り、暗殺された。その彼女を政府の命で殺害したスパイ候補生アラタ・L・シラミネは、彼女の後輩で恋人だった。
主人公のアラタはスパイ養成校の生徒会長。同世代の中で最優秀にして出世の道を約束されたエリートですが、彼の心を占めるのは愛国心と、そのために最愛の人を殺した喪失感の二律背反なのです。その恋人フェイ・リーは、死してなお影響力を持つカリスマ的スパイで、彼女に心酔した反政府組織『セラフィムの意思』との暗闘をアラタは余儀なくされる。
総統の後継者を巡る政府の権力争いに巻き込まれるなか、次第に謎に包まれていたフェイ・リーの裏切りと抹殺計画の真相が見えてくる。信じていた指導者、国家の裏切りを知り、これまで命じられるまま手を汚してきたアラタは、唯一の真実だったフェイの愛に気づくのです。思春期の男女の複雑な愛憎、陰謀と思惑が絡み、正義と悪が二転三転する秀逸なストーリーに唸りました。
一組の男女の愛と陰謀が国家を揺るがす壮大なストーリーのスパイ学園ものです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)