共に、一緒に、いつまでも

 ヒーロー機関本部、観戦室。

 大勢の黒服達が、観戦室におかれた大モニターにかぶりつく。


 大量に飛ばしていたドローンも、形勢が悪くなるにつれて次々と撤収していき、遂には今映像を映している一台のみとなった。

 そんな大モニターを、中心で見つめる男が居た。

 烏丸敏浩からすまるとしひろ。現下のヒーロー機関の長であり、そして俺と望愛の、実の父親だ。


「・・・・・・勝てそうだな」


 静かに烏丸は呟く。そして続ける。


「望愛はもう役に立たん。これからは、彼にその役を似なって貰おう。なぁ、則之」


 モニターから決して顔を背けず、この男は俺に聞く。


 ──今しか、無いな


 チラリと横を見る。

 洲本副支部長は、もはや脱け殻のような状態になって、椅子にもたれ掛かり、うつむいている。

 他の黒服達は・・・・・・全員知った仲だ。何かあっても、対処できる。それに彼らは今、画面に夢中だ。


 この日のために、今まで色々準備してきた。

 望愛とナオの二人が共に寄り添い、歩める世界を作りたくて、その一心で、色々策をこうじてきた。


 その、最後の仕上げだ。


 俺は内ポケットから拳銃を取り出す。

 そして、


 ──ばん


 引き金を引いた。

 弾けた後頭部から、血しぶきが舞う。


「俺の役割はこれで終わった。あとは、好きにしてくれ」


 俺は拳銃を、地面に投げ捨てた。







「ナオ、これを・・・・・・」


 そう言って、望愛に手渡されたライターを、俺は見る。


「あの粘液はよく燃えるから」


「こいつで隙を作れる・・・・・・だな?」


 望愛は「うん」とうなずいた。


 怪物は、相変わらず鎌首をもたげて俺達を見る。



 もう、終わりにしよう。



 俺はライターに火をつける。

 小さな炎は煌々と輝き、揺らめく。


 俺は、ライターを、思い切り投げた。


 火の着いたライターは、美しい弧を描き、怪物に吸い込まれていく。そして、


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 ライターの炎は怪物の粘液に移り、燃え盛る。


 俺達は見つめ合い、同時にうなずく。

 これで、終わりだ。



 俺は走った。

 景色が流れる。

 地面がえぐれる。


 拳を握りしめる。

 燃え盛る怪物が近づく。


 瓦礫の山をかけ上る。

 地面を思い切り踏みしめ、捉えた。


「これで終わりだ!!」


 俺は大きく振りかぶり・・・・・・


 ──ありがとう。レー卿


「・・・・・・!」


 拳を、突き出した。



 怪物は粉々に砕け、ほどけ、塵となって空に消えて行く。


 瓦礫の上には、一枚の写真が、残っていた。




 俺は瓦礫の山を降りる。なんだか、どっと疲れた気分だ。


「望愛、終わったぞ」


 俺は望愛に語りかける。


「望愛、戻ろうか。俺がおんぶしてやるから」


 望愛は、何も言ってくれない。

 ただ静かに、浅い呼吸を繰り返す。

 ただ静かに、柔らかな表情で、瞳を閉じていた。


「望愛。一緒に帰ろう。帰って、準備しよう」


 俺は望愛を背負う。

 鼓動が、小さい。


「向こうは常夏の楽園らしいぞ? 家にある水着、全部持っていかなくちゃな」


 かつかつ、と、俺の歩く音が町に響く。


「そうそう、ヤスにも水着何着か貰おう。着て貰いたいのが有るんだ」


 俺の声が、町に響く。


「望愛、甘いもの好きだろ? 向こうはフルーツも美味いらしいぞ?」


 追い風が吹く。


「あーでも、俺フランス語話せないからなぁ。望愛、教えてくれるか?」


 燃え残った街路樹が揺れる。


「・・・・・・死ぬな、望愛。死ぬな!」


 俺は、お前と一緒に、いつまでもずっと、一緒に居たいんだ・・・・・・!



 望愛を背負い、病院に戻ってくると、そこには返り血を浴びた、兄貴が待っていた。

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