(-_-メ)和) 家かよ!

 嘘から出たまこと


 その場の思い付きで家庭教師を名乗る謎の大学院生を演じたら、本当に家庭教師をやることになった。


 ナガサにだけは絶対に内緒だとしつこいほどメッセージで送られてきたので、どうやら俺と二俣ふたまたのマンツーマンらしい。


「……」


 不覚にも緊張している。


 韓国でのホームステイを除けば、他人の家にお邪魔することなど、これが初めてかもしれなかった。


 妙に長く感じた15分のバスと5分の徒歩で、俺は二俣家のあるマンションまでやってきた。


 自転車でも来られそうな距離だったが「交通費は持つ」との二俣の言葉に甘えさせてもらおうと思う。


「いらっしゃい。うわぁ、本当に男の子だぁ。って、ごめんね? ちょっとびっくりして」


 エントランスのインターフォンと玄関先に出たのは、二俣の姉だった。


 妹にそっくりだが、少しだけ小柄で大人っぽい姉は悪戯っぽく舌を出すと、すんなり中に通してくれた。


「私と吏依奈りいなしかいないから、気は遣わなくていいよ」

「あの」

「なに?」

「自分で言うのもなんですが、そこそこ怪しい人相では?」

「そうかなぁ? まぁ、吏依奈から話は聞いてたし」


 それに、と二俣姉は続けた。


「見た目なんて当てになんないよ。どんなに誠実そうな皮被ってもね」

「……ほぉですか」

「吏依奈の部屋はここ―――ってそういやアイツ、出迎えにも来なかったな。おーい吏依奈! 相楽くん来てくれたよ! 寝てるんじゃないよね!」


 ドンドンとドアを叩くと「起きてるよ~」と、寝起きのような声が返ってきた。


「はぁ……入っていいの!?」

「いいわよ」

「ふん。じゃあ、あんな妹だけど、よろしくお願いします」


 頭を下げ、姉が立ち去る。


 いよいよ俺は部屋に入るしかなくなった。


 ドアを2回ノックする。


相楽そうらくだ」

「分かってるわよ」

「入るぞ」

「どうぞ」


 一つ腹に力をいれてドアを開けた。


「こんにちは。無理言っちゃって悪いわね。今日からよろしく」

「ああ、べ……つに……」


 最初に目に入ったのは、赤と白のボーダー柄の長袖シャツ。


 そして、オレンジの綿ショートパンツ。


 楽過ぎるラフすぎる服装の二俣が、あぐらをかいて座っていた。


「何突っ立ってるの? 早く入ってきなさいよ」


 いつもはストレートに流しているセミロングの髪はオールバックの一つ結びになっていた。そうして額が丸出しになったノーメイクの顔には、ふちの黒く太い眼鏡がかけられていた。


「……い」

「い?」

「家かよ!」

「家よ!?」


 かりそめにも男子を部屋に呼んだ女子の、圧倒的油断と絶望的部屋着に頭が誤作動を起こしたか、意味不明なことを叫んでしまった。


「散らかっててごめんなさいね」

「そう言うなら人を招く時に少しは掃除しようね」


 ガチで散らかってる部屋に通された俺は、また動きを止めてしまう。


 どうやら寝ていたのではなく、さっきまでちゃんと勉強をしていたらしい。


 問題は、その勉強机だった。


 あまりにも、小さかった。


 身体が触れ合わないようにするのが至難の業な距離に座布団が置かれている。


「その一汁一菜を置くくらいしかスペースの無いちゃぶ台で勉強をしろと?」

「しょうがないじゃない。一緒に座ってやるにはこれしかないんだもの」

「……達人かよ」

「はぁ?」

「敢えて隙だらけの構えを取ることによってこちらを踏み込めなくさせるタイプの達人かよって思ったんだよ!」

「わけ分かんないわよ! なんで怒ってるの!?」


 おかしい。


 まだ一秒も勉強してないのに、すごく頭使う。


 できるだけ座布団を離して座ると、二俣が神妙な顔で言った。


「くるりには内緒にしてるでしょうね」

「勉強なら一緒にやればいいんじゃないのか」

「ダメ。バレたら、いよいよ私とくるりの関係性は変わってしまうのよ。危険水域なの」

「もう床上浸水超えて肩まで水が入り込んどりゃせんかね」


 またナガサの姉役を務める者としての威厳みたいな下らない話なんだろうが、言わないでおいてやった。


「じゃあ、さっそく始めるわよ。ビシバシ言ってくれていいから」

「いや、まずは休憩しよう」

「いきなり!?」

「さっきまで一人でやってたんだろ? 俺が来たのも気付かず集中して」

「……うん」

「……なんだよ」


 あまり神妙にするな。もじもじとこちらを上目遣いで見てくるんじゃあない。


 と、そこで丁度よく部屋のドアがノックされ、二俣姉がお盆を持って入ってきた。


「吏依奈、相楽くんに貰ったプリン持ってきたよ。勉強は食べてからにしたら?」

「そうさせていただくわ。ありがとうね相楽くん、そんな構わなくてもいいのに」

「大したものじゃない」

「でもすごく大きなプリンだよ? プリンに包丁入れたの初めてかも」


 二俣姉が喜んでいるので、俺は少しホッとした。


「このカスタードプリン、どこのお店の?」

「いいえ、手作りです」

「へぇ、手作り」

「そうなんだ」

「……」

「……」

「「手作り!?」」


 さすが姉妹というか、よく似た声のユニゾンがとてもきれいだった。


「誰でもできるさ。簡単じゃあないけど、難しくもない」


 もちろん、作った当初はどの料理もお菓子も失敗だらけだ。


 分量を間違えないだけでは足りないトライ&エラーの連続だった。


「そういうのが科学の実験みたいで楽しい」

「発明家っぽい発言……!」

「理系だ。よく知らんけど」

「ああ、そういう考え方なのかもしれん」


 二俣姉妹の素朴な感想に気付きを得る。


「吏依奈ちゃん、年下の同級生襲っちゃダメだよ」

「姉さん!!」

「うふふ~、じゃあ相楽くんありがとね~」


 二俣姉が来てくれたことで、弛緩した空気の中でプリンを食べ、お茶を飲む時間となった。


「良いお姉さんじゃないか」

「そうは思うけど……あの人の言うこと本気にしないでね。変なことはしないわよ」

「お前はナガサ一筋だしな」

「―――! うるさいっ!」

「痛い」


 背中を叩かれた。別に痛くは無かったが。


「姉に言いつけるぞ」

「ごめんなさいもうしませんいわないで」


 どうやら逆らえないらしい。


「じゃあ、勉強だが、何の教科から始める」

「申し訳ないけれど、全教科ダメなのよね」

「オーケー。むしろ細かいことを考えなくていい」


 ぜんぶやってしまった方が楽だ。


「要するに期末で赤点を取らなきゃいいんだろう。ぼちぼちやっていこう。二俣に合った勉強法を探しながらな」

「私に、合った」

「そうだ。さっきのお菓子作りの話で思ったことだが、俺は身体で覚えるタイプなの、かも……」


 身体。そんなことを言ってしまったからだろうか。


 俺は二俣の細い身体のラインと、ショートパンツから伸びる長くしなやかな肉付きの足を見てしまった。


「ん? どうかした?」


 生活感に満ちた肉感。


「いや―――もう、いいや」

「え? って、ちょっと!?」


 俺は気を遣うのをやめ、ぐいっと二俣の近くに寄った。


「机が狭いんだよ。俺のスペースが無いんだよ」

「だから座布団を寄せてあったんじゃない。なぁに? そういうのもやってみないと分からないの?」


 かちん。


「今からひたすら漢字と英単語を覚え続ける時間にするからな。こういうのはひたすら書き続けるしかないんだ。一時間ガッチリいくぞ」

「う、うん……なんかさっきと言ってることが違うけど」


 相楽秀和ひでかず塾は、スパルタ式でやっていく。


【続く】


キャラプチ紹介


☆三人とも帰宅部だけど、1.部活をやるとしたら何にする? 2.理由は?


(@*'▽') 1.漫画研究会 2.漫画好きだから。グリ高にはないけど。

(-_-メ)和) 1.剣道部かフェンシング部 2.顔が隠れるので。

(吏`・ω・´) 1.軽音部 2.なんかカッコ良さそう。

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