第13話 ザバスッ! 技名ではありません。
「「うぉぉぉ!!」」
観衆から第一試合にも負けない大きな歓声が上がった。
ステージ上の大型ディスプレイには、試合終了後のリザルト画面が表示されている。
そこには第二試合の勝利チーム──
ステージ中央のデスクでソロマッチをしていた由奈は、俺の方へ視線を向けると得意げな顔で鼻を鳴らした。
ドヤァ
その表現が一番よく似合う表情だ。
「ナイスゲーム、
「
俺たちは、互いに健闘をたたえると、並んでその場を後にした。
◇◇◇
第三試合は、第一試合の勝利チーム──
そのせいだろうか、
「クソォー……ッ!」
シングルスに出場していたバベルは俺たちに負けた時よりも悔しそうだった。
第四試合。俺たち
マッチョな見た目通りの脳筋な戦い方に俺はずっと苦戦を強いられたが、由奈はお得意の正確無比な操作で相手を翻弄する。
「プロテインが足りなかったんだー!」
それがマッチョマンが発した最後の言葉だった。
「……足りないのは、頭の方みたいね」
由奈がぼそっとつぶやいた辛辣なセリフは、試合終了を告げるBGMにかき消された。
第五試合は三位決定戦だ。
口にプロテインバーを加えた
奇抜さでは
しかし、試合の方は簡単に決着がつかず、最終試合、第三ラウンド。
大きく、分厚い剣を構えた
両者ともに半分以上の体力を削られた最終盤。
マテオは鋭いステップで地を蹴った。
すると、バイセフの重たい斬撃が空を切る。
マテオは反転、技後硬直で固まっているバイセフに近づくと足を払って体勢崩した。その隙に、コンボを繋いでステージ外へ吹き飛ばす。
バイセフの体力はあと一太刀で生存限界を迎えるだろう。
それを確認したマテオは追撃するべく、バイセフ目掛けて跳躍する。
だが、それが悪手だった。
マテオが跳躍した数瞬後、バイセフはほくそ笑む。
コンボを喰らって動けないはずだったバイセフは肉厚な剣を構え直すと強攻撃を放つために溜め始める。
「────ッ!」
マテオは不意の出来事に息を吞む。それから、慌てて跳躍をキャンセルしようとするも無駄だった。
「パワァァッーーー!」
バイセフは力を
一瞬にして体力ゲージが吹き飛び、マテオは霧散した。
「……ねえ悠人、プロテインを食べると賢くなるの?」
由奈は目を丸くして尋ねる。
「そんなはずない……よな?」
その質問をしたいのは俺も同じだった。
バイセフがあの時動けたのは、コンボの最後の攻撃でガードしていたからに違いない。それも、ステージからは飛ばされても、マテオが近づいてきた時には硬直から復帰して待ち構えられる絶妙なものだ。
その難易度は言うまでもなく、高い。
それにもし、あのタイミングでマテオが追撃してこなかったら、ただのダメージの受け損になる。
およそ脳筋にはできるはずのないの駆け引きだろう。
「ハッ、ハッ、ハッ! プロテインさえあれば楽勝だぜ」
高らかに笑うと
俺はそれを見てこう信じることにした。
「うん、偶然だな」
「そ、そうよね」
引きつった笑みを浮かべる俺たちをよそに、会場内は今日1番の激闘への拍手で包まれていた。
その日、会場に程近いコンビニのプロテインバーがよく売れたのはまた別の話である。
◇◇◇
派手な演出に合わせて、俺たち──
同時に、
俺たちの登場に、会場内の盛り上がりが増す。
──主に由奈と
その証拠に、大会参加者の大半を占める男が色めき立った。
みくうと香織先輩と初めて顔を合わせる。
香織先輩に驚いた様子はなく、俺たちの方をしたり顔で眺めていた。
みくうは、相も変らずパーカーを深くかぶった姿で、正面から見ている今でも彼女の表情を窺い知ることはできない。それなのに、腕を組んだみくうから不機嫌なオーラを感じるのは何なんだろうか。
全員がキャラ選択を終える。
由奈はやはり、スピード型の女フェンサーを選択。
俺もここまでの結果を信じてパワー型のフェンサーを選択した。
ここまでの試合からして、みくうはおそらく由奈と同じスピード型の女フェンサーだろう。全試合そのキャラ選択だった。
むしろ、わからないのは香織先輩の方だ。香織先輩は、トーナメント戦ではバランス型の女フェンサーだったが、本戦は試合毎でバラバラ。しかも、それらすべてが文句なしに上手いのだから予測のしようがない。
開始までの準備時間(30秒)が始まった。
俺は香織先輩のキャラを真っ先に確認する。選ばれていたのは、由奈やみくうと同じくスピード型の女フェンサーだった。
『高校生王者決定戦ブッロク予選in埼玉、決勝戦……』
『試合開始!』
――Ready,Fight!
……ついに、戦いが始まった。
俺の幼馴染な妹は、幼なじみよりも強かった。 クォーターホース @one-fourthhorse
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