第4話 封印のプリシラ
我の名は虚無の巨龍………それ以上でもそれ以下でも無い。ただただ目的もなく迷宮に彷徨い続けていた愚龍。
今日は久しぶりに迷宮の外に出ようと体を動かして地上へと向かっていたんだ………だが異変は起きた。
唐突に一階層の守護者が殺されたのだ。未だかつて無い出来事だ。ここ300年は無かった奇跡と言えた。
なんせ一階層に配置していたミノタウロスは他とは格が違った………今まで侵入してきた人間たちを確実に屠ってきた英雄。それこそ今代の勇者と同格の強さを誇る我らが迷宮の壁だった。
何事かと思い我はミノタウロスの死体がある場所へと向かった。しかし我が見たのは奇妙過ぎる光景だった。
そう────ただの貧弱なミミックにミノタウロスが捕食されていたのだ。しかも人語を理解した理性ありし魔物。
寒気がしたさ。当然だ………奴の纏うオーラは只者じゃ無かった。成長速度が異常に早い。それ故に一瞬で我の迷宮など崩壊させられる予感がした。
しかし、我はそれを見たと同時に期待もした。我の封印を解ける可能性を秘めた異界の生物………どうにか仲間に介入して封印を解かせた後、その力もろとも喰らってやろうとさえ考えた。
どうせ喰らうことだと思って、加護も授けてやった。我の加護は神化を成すためのただの鍵………資格がなければ神力に飲まれるだけ。回路も繋いで此奴を殺すには充分過ぎる準備だった。
その筈だったのに───────
奴が我に助けを求めるのは当然だ。だがそこで問題が生じた。否、生じてしまった。
何故か奴は我の真名を知っていた。
我の名を知るのは今も昔も、それこそ未来さえもあの方ただ一人。
神龍"プリシラ"の名を知っていいのは、あの方だけ。その名を呼んでいいのはあの方だけ。
最初は憤りを感じて直ぐにでも殺そうと思った………だが考え直せば不可解な話だった。
我の名は絶対知られてはならない秘匿されし情報。知るのはあの方でしかあり得ないのだ。
何故あの箱が我の名を知っていたのか………考えられる可能性は二つしかない。
あのミミックがあの方である可能性。
あのミミックの裏にあの方が関わっている可能性。
どちらも到底信じがたい話だった。でもそれしか考えられなかった。
奴は苦しんでいる………我の名を叫んで助けを求めている。
まるで────まるで、まるで、まるで────あの方が我に名を授けてくれたあの時のように。
「はぁ……痛かった痛かった!!
次からは注意事項を先に教えてよねプリシラ!!」
(先程までの叫びが嘘のように素っ頓狂な声………何故此奴は我をここまで狂わせる!!)
「いつまでそんな顔してんのさ、私は気にしてないから元気出しなよ。」
「───!!
その言葉は………」
(あぁ。全て思い出した………)
此奴はあの方でも何でもない。それどころか見た目も全然違う。
それでも、それでも………我はこの無邪気さに。我に対して物怖じしないこの心に魅せられてたんだ。
∬
《神化の影響による神力操作を試みています。痛覚への耐性も獲得しました。》
(どうりでさっきから痛みを叫ばなくなった訳ですな。痛みで頭可笑しくなってた私が冷静にプリシラの事を考えられているのがその証拠だ。)
「な、何故お前は我の名を知っている………あの方は死んだ筈。あの方はもういない………だから我は迷宮に篭って………」
《神力操作を取得しました。神化の最適化を行います。》
「はぁ………痛かった痛かった!!
次からは注意事項を先に伝えてよねプリシラ。いつまでそんな顔してんのさ、私はもう怒ってないから元気出しなよ。」
(なんか私が虐めてるみたいじゃん………私を恐れさせたあの
「────!!
その言葉は………」
「え?
とにかくアンタは私に対して言うべき事があるんじゃないの。」
「我、がお主に言うべき事?」
「私は女の子ですよ!?
あの箱がここまで美人だったんだよ!?
言うべき事は決まってるでしょうが!!」
「は────はっはっはっ!!
そうだなお主には贈るべき言葉がある………」
(確かあの時もこんな風に………)
「全然可愛く無いわ!!」
「な!
なんて事言うのさプリシラ!!」
(なんだ………笑えるじゃんか。
別に怖いだけのドラゴンでも無いね。)
「先程、我がこれからどうするつもりなのかと聞いていたな。
我の予定は今決まった。」
「ん。で、どうすんの?」
「お主に着いて行こうぞ!!
新たなる
「ふっ、最初からそう言ってればいいんだよ。私はアンタが何で言おうとそうするつもりだったけどね。」
「五月蝿いこの箱めが!!」
「あぁー!!
一番私に言ってはいけない事を口にした!!」
「このぺったんこが!!
今時神化の姿が白のワンピースって映えないんだよ!!」
「わ、私は成長期なんだよ!!
そ、それに白のワンピースは別に関係無いでしょ!!!!」
「関係無いわけないだろう………我の従者として身だしなみくらいは整えろと言う話なしだ。」
「誰がアンタの従者だって!?
私はアンタがいつまでも、メソメソしてたから少しくらいは外の世界も見せてやろうと思ってさ? アンタみたいなボッチ引きこもりの従者だなんてゴメンだね!!」
「我は引きこもりでもボッチでも無いわ!!
引きこもりっていたのでは無くあの方を待っていただけだ………それに我の元まで辿り着ける者が少なすぎただけだ。ボッチでも無い!!」
「そう言うのをボッチって言うんだよ!!」
「な!?」
この後も私とプリシラは永らく愚痴を言い合って、次なる目的地についてだらだらと話し合うのであった。
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