最終回?

 階段に出れば、綺麗な夕焼けが見えて。そろそろ夜が訪れる。

 上がりきるくらいの所に、部長と百花ももか先輩が居た。どうしたんだろう、と思い神社を上がれば、追いかけられている琉斗りゅうとと近くにいる美琴みこと…恐らく交代して神社で逃げてるんだろう。


美琴みこと、これ」 「! え、でか! ドッチボールくらいあるんだけど…」

「! あ、おまえら~!」 「! じゃ、私引き付けるから!」


 私は占い師とかの水晶で普通のイメージだったけどやっぱ大きいな、思いつつ渡せば、アレがこちらに気づいて琉斗りゅうとを追うのをやめこちらに来た。

 どうせ私の方追ってくるんでしょ!知ってる!!と脳内で考えながら走れば、やっぱりこちらに来て。理由はわからないけど、とりあえず逃げる。


「っ…」バッ 「!っあ”」 「えっ…」 「今だ!!美琴みこと!!」


 流石に休みなしでそんなに走れないので、最悪取っ組み合いになってでも。と思って振り向くと、後ろからあの人がアレの動きを止めた。

 恐らく皆と対面するような位置だった私しか見えてないだろうけど。


 …彼が、アレの横腹に包丁のようなものを刺していた。


「…れ、」 「っ…」 「あ…」 「え…?…な、んで…?」


 アレが、こちらに片手を伸ばして何か言おうとした瞬間。水晶がアレに当たって、2人が消えた。やっぱり、と思えば視界の先には驚いた顔の美琴みことがいて。

 …あぁ、そうか。美琴みことは何も知らないで、自分の兄を……。…だから、私に…。


「な、なんで?どうなってるの? なんで、お兄ちゃんも…」 「…」

「うわあ!?」 「!」 「…あ、れ?…皆?」 「…翔也しょうや、先輩…!」


 困惑してる美琴みことを呆然と眺めていると、驚いた声に全員が視線を向けた。すると、そこには翔也しょうやがいて。…足元には、あの偶像があった。


「あれ?なんで皆いるの?って、え?! なんでもう夕方になってんの?!」

「…翔也しょうや、覚えてないの?」 「どこまで覚えてるの?」


「え?覚えて…?って、優奈ゆうなと部長はなんでそんな怪我して…」


 どうやら偶像の中にいた記憶はないらしく、包帯をつけてる私と部長に驚いていた。…色々な事が同時に起きて、正直混乱していた。…だけど、それは美琴みことも同じ。


「…ぶ、ちょう」 「あ、あぁ…大丈夫か?」

「…後で説明するので、今は…私と美琴みことは、独りにしてもらっても…いいですか」


「…ああ。翔也しょうやへの説明はしておこう。…2人とも、夕食までには戻ってこい」

「…はい」 「…わかり、ました…」


 今の翔也しょうや美琴みことには毒でしかない。そう判断して1人にしてほしいというと、彼等は私と美琴みこと、偶像を置いて行ってしまった。残ったのは、泣く声とヒグラシの音。

 …私は。短い付き合いだし、彼がいなくなった事は、なんとなくわかってたから…そこまで悲しくなかったし、すぐ区切りをつけることができた。


「…」 「…ねえ、優奈ゆうな」 「…なに?」

「…お兄ちゃんは…なんで…いなくなったの……」


 偶像を取りに行こうと動いた時、1人泣いていた美琴みことに聞かれた。美琴みことはオカルトでも妖怪とかの類が好きだったから、悪魔とかはわからないのもあるだろう。


「…わかんない。…私が知ってる情報以上の事を、お兄さんは知ってた」 「っ…」

「…翔也しょうやは、今アレに取り付いていない悪魔の代わりに偶像にいるのかもとか…。

 もしかしたら、お兄さんもお願い事してたのかもしれないし…」


 偶像を手に取れば、ゾワッと手から何かが侵食してくるような気持ち悪い感覚がして。隠して美琴みことに言えば、泣くのを我慢して必死に考えていた。

 偶像を元々置いてあったであろう場所において、言う。


「…電話を切った後、お兄さんが美琴みことをよろしくねって言ったの」

「えっ…」 「最初っからいくつもりだったんだ。偶像の中に」


 …あぁ、嫌だ。いつもそうだ。残された側は、悲しさと虚しさに蝕まれる。どうしたらいいのかわからないもどかしい時間。

 ただ、傍にいる事しかできない時間は、美琴みことの声で私も泣きそうになる。


「何で…お兄ちゃんは逃げなかったのかな。…私達を、助けてくれたんだろう」

「…きっとのためだよ」


 逃げなかったのは、仲間と誰か来た時助ける為。助けたのは、優しいのと美琴みことがいたから。翔也しょうやを助けたのは、私達の仲間だったから。

 身代わりになったのは、自己犠牲の精神と、誰も欠けさせたくないという配慮。

 …その配慮と自己犠牲で、残った美琴の事も考えてあげてほしかった。



 手を繋いで歩き、夕食時には着いた。美琴みことはまだ複雑で笑うことはできなかったが、バーベキューに花火大会に。…夜の星は綺麗だった。


 翌朝。支度をした皆は、美琴みこと以外…まるで何もなかったかのように帰った。

 車の中。山を眺める美琴みことに、声をかけた。



「…美琴みこと。…何かするときは言って。…手助けするから」


 彼女はこちらを振り向くことはなかった。が、掴んだ手が微かに握りしめられたことだけが、彼女がまだ兄を諦めてない照明なんだろうと思った。




 ―――――


 あれから、部長が1人ずつ家に帰らせてくれて、家に帰ると怪我を心配された。

 包帯は滝壺でぶつかった所で、外しても青くなってただけなので外したけど…家族の心配も、今は面倒だった。正直、心の整理がまだついてないのかもしれない。

 でも、私は生きてる。美琴みことのお兄さんが自身の、そして周囲の人生を巻き込んで、犠牲になったから…。


 翔也しょうやが戻った。部活の皆は生きて、ハッピーエンド?生きてた人が1人欠けた状態がハッピーなんて言えない。特に、美琴みことにとっては。

 …でも、私には行動する資格はない。



 私は、彼の言葉を無視してしまったのだから。

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夏合宿に起きた不思議な数日 スイートピー @SANdown

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