第4話

 崖の上に行く途中、自分は座って休憩していた。

 そりゃあ運動部でもない学生が小さいとはいえ山を何度も上り下りできるわけがない。体力とかじゃなくて、純粋に足が限界を迎えていた。


「……」


 通話越しの皆も微かに息が荒く、休んだり追いかけられてたり…。そういえば、あの美琴みことのお兄ちゃんはどこにいるんだろうか。まぁ恐らく大丈夫だろうけど…。

 うざい程する蝉の音と共に、遠くからかすかに滝の音が聞こえてくる。


[ねえ、一回集まらない?] [どこに…?] [そろそろお昼だし、お腹空いたわ]

[あぁ…じゃあ、一回皆キャンプ地に戻ってきてくれ、用意しとく] [はーい]


百花ももか先輩…今どこですか?」 [頂上付近ね] 「崖の上近くで回収して下さい…」

[あ、じゃあ俺も近くいるんで行きますよ] 「はーい」 [崖の上ね]


 美琴みことの提案で部長が用意してくれるらしい。そういえば、お腹もすいた。

 こんな状況で、と思ったが長時間緊張時間が続けば疲れるし緊張も解けてくる。

百花ももか先輩に回収を頼むとなぜか後輩君も来ることになったけど、まぁいか…。


 …そうだな、せめて崖の所まで行こう。ここじゃ見つかりにくいし。


「あ、優奈ももか先輩ー!」 「琉斗りゅうと…なんかそれ持って来るの凄い違和感あるね…」

「え、今更ですか!?ってかまだ百花ももか先輩は来てないんすね」 「まぁね」


 待って?まだ1分くらいなんだが…早くね?と思いつつ地蔵のような偶像を持って来る後輩というシュールな光景に苦笑する。

 歩いていくと、川の音が近づいて視界が開ける。川が目の前にあり、少し先は草木の生えない土の地面が露出した崖になっていた。


「おぉ~…すごい定番みたいな崖っすね」 「うん、」

[キャッ、ごっ、ごめん二人ともすぐ逃げて!] 「「え」」 「追われてる!!」

「! いや近いって!!」 「ちょっ、先輩そこ崖!!」


 能天気に話してると、通話でそう聞こえて驚けば横から百花ももか先輩が走ってきて。

逃げる暇ないじゃん!と琉斗りゅうとが言ってるのを無視して、横を通って行った百花ももか先輩が崖の方に走ってるのを言えば、先輩は既に崖に気づいて立ち止まっていた。

 で、後ろを振り向けば追いかけられてる琉斗りゅうとと追いかける男…何でこっち!??


「ちょっばか違う方逃げて!!?」 「無理です~~!!」

「いや…今ならいける!」 「あっ、え?」 「…え?」


 思わず叫べば半泣きで言われて、百花ももか先輩が崖沿いを走って逃げ、琉斗りゅうとも横に逃げる…が、男は立ち止まらず。私と少しの距離を開けてじりじり近づいてくる。

 え?殺せそうなやつ殺す的な?でも私より琉斗りゅうとの方が…とか考えるが、答えが見つかるわけがなくて。じりじりと寄ってくる男に、少しづつ崖に追いやられる。


「先輩!こっちに…!」 「優奈ゆうな!!」

「…」ピタ  「…? …2人は先行ってて」


 後輩と百花ももか先輩が言ってるが、逃げれる気がしなくて後ろににじり寄っていれば、男が足を止めた。ただ不気味な顔でこちらを見ていて。…最悪死んでもいいと考えて、スマホを入れてるウエストポーチを閉める。防水かは忘れたけど。


ガラッ「―――ッえ、」 「っ…!!」 「優奈ゆうな!!」 「先輩っ!」


 小さな音と共に、浮遊感がしてぶわっと嫌な汗が噴き出る。後ろに傾く体は、驚きで硬直してしまい手を伸ばすことすらできなかった。






「ゲホッ、ケホッ、」 「っはぁ、はあっ、大丈夫か?!」


 結論だけ言うと、そこまで高さがなかったのか水面に当たった時は痛かったけど、何とか生きてた。滝壺たきつぼに落ちたらしく強い流れで正直死んだと思った。

 けど、何度か岩等に当たったりした後流れが変わった、と思った瞬間腕を引っ張られ、胴体を掴まれたと思ったら引っ張り出されていた。


 体中重かったが、肺に入った水を吐き出そうと力が入り咳き込んだ。落ち着くまで背中をトントンしてくれて、落ち着いて顔を上げれば、そこには美琴みことのお兄さんがいて。


「はぁ…」 「よかった…川に出てくれなかったら、助けれなかった」

「…あり、がとう…ございます…」


 声が聞こえなくて耳に手を当てるが、イヤホンはどうやら滝壺に飲まれたらしい。腕や足は石にぶつかり所々痛かったが、すぐにウエストポーチを開けた。

 スマホは画面にヒビが入っていてるが通話はまだ繋がっていて。濡れてもいなかった。これ防水やったんか…とか考えながら耳を当てる。


[優奈ゆうな!?大丈夫!?] 「大丈夫…美琴みことのお兄さんが助けてくれた」 [よかった…]

「あの男は?」 [琉斗りゅうとが終われてったけど…何とか撒いたみたい] 「そお…」


 衣類が水を吸っていて重い。辺りを見渡すが、あの男がいる感じも音もないしここにはまだ来ない筈。…あの滝…?


「大丈夫?」 「っあ、あぁ…大丈夫、です」 [一回こっちきたら?]

「…スミマセン、怪我の治療とかしたいんで、コテージまで手かしてもらっていいですか?」


 急に話しかけられて吃驚したけど、百花ももか先輩の声でそうしようと思って話しかけた。お兄さんは普通に手を貸してくれて、何とか立ち上がって歩いて向かっていく。


「!せんpぐえっ」 「飛びつくなお前は…」 「優奈ゆうな!すぐ着替えないと、」

「!お兄ちゃん…」 「…あー、ありがとう。すぐ着替えるわ」


 俺に飛びつこうとした琉斗りゅうとを部長が抑えてくれて、百花ももか先輩が近づいてきてくれたので支えになってもらってコテージに入る。離れた瞬間抱き着きに行った美琴みことに少し驚くが、体が痛かったのでそのまま入った。



 着替えをとってきてもらい10分でお風呂に入り、百花おもか先輩に治療してもらう。とはいっても絆創膏程度。岩に打ち付けた所は着替えた頃には青くなってた為、小枝とかで更に怪我しないように、と包帯を巻いてくれた。

 外に出れば、軽いものを食べる彼等が居た。


「えっ、大丈夫?」 「うん。そんな怪我人っぽい?」 「包帯とかはな…」

「疲れてはいるけど…まぁまだ大丈夫。皆は?」 「ご飯食べてた」


「ってか、そろそろ夕方か…。暗くなったらどうしてたんすか?」

「神社とかキャンプ地とかで寝て…アレが来たら逃げてたな」


 流石にバーベキューとかは音が出るしできないので、皆で探索の時に食べるつもりだったパンやサンドイッチなどを食べていて、私も百花ももか先輩と食べた。

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