第2話


「…何でこんな所に? 独りで…」

「あののせいだよ。あの化け物に、皆やられた。君は?」


 信じていいのかわからなかったが、確かにアレは人とは思えなかった。いや、人なのかもしれないけど、少なからず普通ではなかった。


「…部活でここのキャンプ地に来たんです。で、山登った後自由行動してたら、叫び声が聞こえて…向かったら、神社で…」

「そっか…まだ死傷者はいないんだね?」 「?私が見た限りでは…」


「なら、今すぐにこの山を出るんだ。山を出れば、あいつは追いかけてこれない」

「?貴方は…、…何か知ってるんですよね」「…」「教えてください」


 少し警戒して、細かい事は言わないようにする。ガッと肩を掴んで言う為、貴方はどうするんですか、と聞こうとしたが問い詰める。

 数秒の静寂の間、蝉の音がうるさかった。


「…彼は、元々僕らの仲間だったんだ」 「え…」

「あの神社で願い事をした瞬間、苦しそうにして…僕らを襲いだしたんだ」


 願い事を? と思って、ふと気が付く。

 そういえば、あの神社に行ったとき、部長と琉斗りゅうとに、美琴みことが居た。…美琴みことと一緒に行動してたはずの翔也は…?呼びに行くなら美琴みことがいくはず。彼は1人で逃げる性分でもない。…何か、嫌な予感がした。


「僕達はバラバラで逃げて…1人で神社に戻って、中を探索したんだ。

 そしたら、この神社は邪悪なものを祭って力を弱めてたらしい。だから、祭られなくなった事で邪悪なまま願い事をしたから、彼に乗り移ってしまったんだと…」


「…あなたは。残ってどうするんですか?」

「どうにか彼を元に戻す手がかりを見つける。この山のどこかに、邪悪なのを封印する水晶があるらしいんだ。正直そういうのは信じてなかったけど…アレを見たらな。

だから、僕の事は気にしなくていいから。皆の元に戻ったら、早く逃げて」


「…話してから決めます。ありがとうございました」


 そう言って、神社のあるであろう方角に走る。アレの声は聞こえなくて、無事につくことができた。そこには3人がいて。強い風が、少し傷ついたスカートを揺らす。


「皆」 「!優奈ゆうな!」 「おわっ!?」 「逃げ切れたんですね…!」

「ん、部長は? 大丈夫?」 「あぁ…浅いから、大丈夫」


 飛びついてきた美琴みことに驚きつつ、後輩君の言葉に返事して部長を心配すれば、ニッと笑ってそう言った。…痛いんだろうな。血も服に結構ついてるし…いや、余計な心配してる場合じゃない。あの人の言ってたことをとりあえず伝えよう。


「…人に。助けてもらったんですけど、その人が言うにはこの神社は邪悪なものを祭ってたみたいです。けど、神社が廃れて祭られなくなった時にお願い事をした人達が居て、その人達の1人に取り付いて暴れ始めた、と…」

「それは…確かな情報なの?」「その人がこの神社を漁って知ったっぽいです」

「そうか…」「あの。翔也しょうやは?美琴と居たハズですけど」 「「…」」


 美琴みことが不安そうに聞いてきたため答えて、情報を集めようと聞けば、なぜか黙る。


「せ、先輩…信じれないと、思いますけど…翔也しょうや先輩、これに入っちゃって…」

「…え?」


 彼が先程追われてる時も抱えていた、地蔵みたいな大きい石の偶像。

何言ってんの?と見れば、泣きそうな顔になっていて。


「ほっ、本当なんすよ。神社に部長と居たら、翔也しょうや先輩と美琴みこと先輩が来て、少し探索してたら、祈って賽銭箱の向こうにあった偶像に触ったら、消えちゃって」

「それで、気が付いたらアレがいて、襲われたんだ」 「…」


 嘘を言ってるような感じはしない。ここに来る前の私なら到底信じなかった。

 だけど、アレを見た後だからか、あの人から話を聞いたからか。理解はできないもののそういうものだろうと片付けた。嘘をつくメリットがないから。


「その人から、ほかに何か言われたりはしなかったのか?」

「えっと…悪いやつをどうにかする水晶?みたいのがこの山にあるとか…後は山から下りろってくらい…?」


「え、でも…翔也しょうや先輩…」 「私は見捨てられないから残るつもり」 「!」


 部長の言葉に、走ったり時間がたったのもあるが、彼の記憶がうろ覚えになったが何とか言う。最初はそうしようと思ってた…が、後輩君のいう通り。

 翔也しょうやが偶像に入ったんだとしたらこのままにするわけにはいかない。


「…私も、残るわ」 「えっ」 「…はぁ、危険なのはわかってるよな?」

「勿論」 「ええ」 「…わかった、琉斗りゅうとはどうする?」


「のっ、残るに決まってるじゃないですか! 皆で翔也しょうや先輩を助けましょう!」


 美琴が賛同してくれて、少し驚いた。でも、この山を薦めた彼女なりに責任を負ってるのかもしれない。後輩君の言葉を聞いて、部長が立ち上がった。


「よし、それなら作戦を立てよう」 「私、百花ももか先輩に事情説明に行きます」

「全員で行った方がいいんじゃないか?」


「…私、この神社調べた後その水晶の場所探します」 「なら、俺も…」

「いや、琉斗りゅうとはそれ持ってるからダメ」 「そしたら一人になるけど…」

「大丈夫。1人より2人の方が見つかりやすいし。…通話だけしていい?」

「あぁ、会話はせずお互い現状を報告しよう」 「うん」


 百花ももか先輩は確か医療関係の大学進むとか言ってた気がするから、多少何かできるかもしれないしコテージで部長と一緒にいてほしい。後は…祭られてたって、絶対あの偶像だろうし…願い事してだったらあれにまだ邪悪なのが残ってる可能性がある。それをたどって場所ばれとかあったら怖いし…。…誰も死なせたくない。

 美琴みことに電話を繋いだ状態にしてもらって、ワイヤレスイヤホンを片耳だけつける。


「じゃあ…また後で」 「うん…」 「優奈先輩も…無事でいてくださいね」

「当たり前でしょ」 「相変わらず素直じゃねぇなw。じゃ、」 「うん、」


 彼等は階段の方ではなく、そのまま隣接する森の方に向かって。やっぱり2人のうちどっちかは別の方から来たみたいだ。…ここらへんの道とかも覚えてた方が有利かもしれない。まぁそんな時間ないだろうなぁ。

 風が頬を撫でる。蝉の音や葉の風に揺れる音に混じって、微かに水の音が聞こえてくる。そういえば、キャンプ地に川があった。地図では確か…滝もあった気がする。


「(…滝に落とす…は流石に死んじゃうかもしれないか)」


 スマホを登山用にと付けてたウエストポーチに入れて、少しだけ開けておく。

 イヤホンから彼等の声が聞こえるが、今の所大丈夫そうだし私も早く入ろう。


「うわ…」


 ギシ、と床が鳴り足元を見れば、薄く埃が被ってて。置いた指に埃が付いていた。

 …ここを調べるのか…いや、汚れくらい今更気にしないけども…。

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