夏合宿に起きた不思議な数日

スイートピー

第1話


「夏休み、折角ですし皆で夏合宿とかしてみませんか?」


 後輩の琉斗りゅうとが放った一言で、夏休みが始まって2日目。なぜか部長の宮野みやの先輩の車に乗って、目的地に向かっており、私以外にも同じミステリー研究部の5人が居た。


「ちょ、先輩。大丈夫ですか?」

「うぅ…こんなにかかるなんて、思わないじゃない…」


優奈ゆうな、車酔い薬ある?」

「ん? あー…はい、先輩。今更ですけど…あげます」


「パーキングエリアに一回行った後、また1時間くらい車だし飲んどけ」


 空気が読めるムードメーカーの翔也しょうやに、副部長の百花ももか先輩。

 落ち着いた雰囲気の美琴みことに、唯一の後輩の琉斗りゅうと。部長と私の5人だった。



 発端は先程の後輩の一言。それから海や山等候補が上がっていた時。


「キャンプ地のある山で、行方不明になる人がでたらしいわ」


 美琴みことのその一言でその場所に決まった。

 顧問には事後報告にしており、危ないと思いつつ初の合宿にドキドキしていた。


「はぁ…やっとパーキングエリアなのね…」

「どうする? 歩けるか?」 「ええ…」


「私トイレ行く」

「ついでに昼食も買っていくか」 「そだね」

「えっ、先輩!お土産屋さんありますよ!」

「まずは食料な」


 百花ももか先輩と翔也しょうやが車横でわちゃわちゃしてるのを見つつ、トイレに行く美琴みこととそんな皆を見て部長が話し、同調する。着くのが11時半くらいになるだろうし。


「……」


 食料を買う頃には皆お土産屋の事は忘れてたらしく、途中で彼等と別れて向かう。

 見れば色んな種類があったが、”安全祈願”らしい小さい石のお守りを買って戻る。車に既に乗りこんでた彼等に袋から取り出して渡した。まぁ翔也しょうやには煽られたし先輩方は運転と酔いで若干そっけなかったけど、後輩君と美琴みことは凄い喜んでた。

 キャンプ地にはコテージ?があって、そこで過ごすらしい。


「しかし…1個しかないのに取れたって事は、ほんとに貸し切り状態なんだね」

「まぁいいじゃん、自由に行動できるんだ!」


「目的考えたらいいよね」


 百花ももか先輩の言葉に同調し、とりあえず荷物を各自片付けたら山を登ろう、ということに。元々登山もできるらしく山道もあるらしいし行くことにした。


百花ももか先輩。大丈夫?」

「…っなんで…2人は無事なのよ…」


「さあ…?」


 男子達は相変わらず暴走する翔也しょうや琉斗りゅうとを部長が抑えてる感じ。山と言っても小さく、危険な道や坂もない。本当にハイキング程度。美琴みことは体育も難なくこなすし…


「そうだ。2人組になって近く探索するか?」

「危険じゃない?」


「いっすねそれ! 俺翔也しょうや先輩t」

琉斗りゅうとは俺とな。翔也しょうや美琴みことと。いいか?」


「もちろん!」 「私百花ももか先輩見ときます」


「お、頼む。じゃあ…30分くらい探索するか」


 翔也しょうや美琴みことが一緒なのは少し違和感があったが、確かに今は男女3人ずつか、と気づいて納得する。2年組の方が仲いいし翔也しょうやなら話すの得意だし。



「…優奈ゆうなも、探索してきたら? 貴方なら万が一もケガしなそうだし」

「好奇心はありますけど…離れて先輩に何かあったら危険じゃないですか」


「…まぁ、行方不明者が事故とは限らないものね」


 正直、琉斗りゅうと以外は人為的な事件の可能性も考慮してる。なんで自分と百花ももか先輩を残したか知らないけど、まぁ多分私が個人行動しない様になんだろうな。


うわあああああ!!

「「!」」 「い、今の…」 「琉斗りゅうとの声…」


「…百花ももか先輩、ここにいて…。何かあったら、すぐコテージまで逃げてください」


優奈ゆうなは?」

「確かめてから…。先輩よりは体力あるんで」


「…わかった」


 突然の叫び声。正直自分は性別くらいで誰の声かわからなかったが、先輩はわかったらしく緊張した空気が漂った。

 声の方向はわかったため先輩にそういって向かう。


 獣道は私より身長の高い2人が通ったからか、所々小枝が折れてたり地面に靴の跡が残ってて。靴の形なんぞ知らんが恐らくあってるだろうと歩いて行った。


 すると、突如視界が開け、目の前に石でできた階段が。


「これ…あぁ…」


 使われなくなった神社。事前に調べた時に美琴が言ってた場所。本当にあったのか。蝉の音が聞こえなくなり、少し気になって階段を上っていく。


「誰かっ…! 誰か!! 何でこんなことっ…!!」 「! …えっ、」

「まてー!!お前らーー!!」 「っく…」 「部長…!」


 後輩君の声。足音をなるべく消して上がると、衝撃的な光景が見えた。

 赤黒い血が服についてる人が、剪定鋏を持って翔太しょうたを追いかけてる。そこから少し離れた所で、腕から血を流す部長と止血しようと布を巻く美琴みこと


「っ、優奈ゆうな!逃げろ!!」 「え…ひ、」 「…!!」 「!?」

「ちょっ…優奈ゆうな先輩、逃げてください!!!」 「…引き付けるから、後よろしく」


 部長の声にハッとしたときには遅く、その男がこちらを向く。目には闇が広がり、口はおぞましい程に歪んで笑ってるように見えた。顔や衣類につく血が、異様さを更に際立たせる。が、目があったと思えば俺の方に来て。

 怖い。と思ったが、後輩君の叫びで必死さが伝わり、笑って背を向けて走った。


 何もわからないけど、アレが行方不明の原因なら前からいるから相手の方が有利。

 百花ももか先輩の所に行かないように、反対側の森に入っていく。走るとガサガサと音が鳴って、少し遠くから「ま~て~~」と地響きのように低い声が聞こえる。


「っ…っは、はぁっ、はあ、っ!? っえ…」 「こっち、」


 やっぱり運動部でもないからかすぐに疲れてしまって。どうしよう、と思いながら走っていると誰かに手を掴まれる。もうそんな近づいてたのか、と振り払おうとしたが、そこにいたのは知らない男性。目もちゃんとあって、別の方向に引っ張られる。


「君っ、何でこんな所に…いや、今は逃げたほうがいいか、」

「ちょ…はや、ッは、」


 時々服が小枝に引っかかるが、気にせず走る彼に憑いていくので必死だった。

 彼が立ち止まった時には後ろからあの声は聞こえなくて、生きを整える。


「急に引っ張ってごめんね、怪我は…なさそうだね、よかった」「…あなた、は?」

「あぁ…僕は、仲間の連れ添いでここに遊びに来た1人だよ」


 息を整えながら聞けば、どこか悲しそうな顔で彼はそういった。

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