第15話 ひらがな版「なぎさの」体操着

 穂香ほのか(大)の身体を拭きふきして居間に戻してから、わたしはJA産直でなぜか大安売りされていた、椎茸リンゴちゃんなるワッペンの入ったジャージ姿となった。謎な補助金あたりで作られたのだろうけれど、穂香ほのか(大)のお財布にはやさしくていいね。


 お風呂上がりの絞りたてりんごジュースを二人分用意した。

 その間に、穂香ほのか(大)のアドレスに二階堂先輩からのメッセージが届いていた。

「君たちのゲノムのシーケンシングはほぼ終わった。凪沙野なぎさの君の体細胞ゲノムに特徴的な変異が見受けられる」

といった本文だけの短いメッセージだったが、わたしたちは仕事はやっ、ともりあがった。何しろ、1日で、わたし達ゲノムの塩基配列読取シーケンシングを先輩は終えてしまったのだ。 

 

 穂香ほのか(大)は、再び目が醒めたようで

「イモウトよ、すぐに、また制服を着る必要あるようね」

と、制服を着ることが大事であるかのようなキリリとした口調で言った。


 紅潮気味の真剣顔まじがおがかなり可笑しかったけれども、表情には出さずに、

「そうねぇ。リボンくらいは替えて行こうかしら」

といって、らしい制服の箱を開けてみた。夏服(らしいセーラー服)・冬服(らしいブレザー)共に替えリボンがついているようだった。もしかしたら、リボンは交換可能かな、とわたしは両方を手にとって見比べてみた。


(形が違うから無理っぽいかな)

 そう思っていたわたしの肩を、穂香ほのか(大)がポンと叩いた。


 見返すと、穂香ほのか(大)は、白い服の袋を手に

「ねぇ、こんなのも附属していたみたい」

とニンマリとしている。


 それは夏の部屋着にはよさそうな、上下の半袖体操着だった。上は白の体操着にゼッケン、下は赤の膨らんだ下着のような短パンだ。


「はい、ファッション・ショー♪」

 穂香ほのか(大)は手を上げ、本日2度目のエイヤーっをした。



 わたしは穂香ほのか(大)から体操着上下を受け取ると、今回はえいやーっにはすぐに応えずに、穂香ほのか(大)のタブレットに触れ、調べものをする。

 

「これね、ブルマという奴らしいよ。まぁ、最近は、東方新社とかその手のサイトの推しに反応する向きはすくなくて、ご年配のおばさま方が買い物行く時の赤パンツ代わりらしいね」


 ご年配とまではいえないが三十路脳の貫禄を持って赤のブルマをぴらぴらとした。


「ふーん」 

本人的には渾身だったかもしれないえいやーっをわたしにスルーされた穂香ほのか(大)は、テンション下がったのかわたしの手からアイヤーっとばかりに半袖な体操着上着を取り戻すと、ゼッケンにひらがなで「なぎさの」と書きそえた。あれ、こんなのあったっけという、キラキラ金色ペンだった。


(まぁ、この手のラメ系は白地のシャツには隠されるわね)

 らしい制服のスポンサーである穂香ほのか(大)をスルーしたのが少し悪い気もして、まぁ、赤パンツ代わりに体操着上下を着てもいいかなと、わたしは算段した。

 

 ☆

 

 翌日は、穂香ほのか(大)は、仕事疲れとか昨日のテンションとかアルコールとかでグロッキーモードだった。わたしは、宮古島が中世佐渡ヶ島そばに転移した仮説の傍証を得るべく、日本史の詳細参考書を読みながら過ごした。

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