第14話 リンゴ風呂

 粉砕リンゴにまみれたわたしの両手だったが、軽く洗うと手はむしろツヤツヤに・・・そうだ、と思い立ち、今朝方の穂香ほのか(大)のようにエイヤーっと手をあげ宣言した。

「リンゴ風呂にしよう~っ」



 わたしはお風呂の給湯スイッチを押してから、洗濯ネットを手に台所に戻った。

 お皿の上に山積みとなったリンゴの皮や種やらを洗濯ネットに詰め込ていく。普段は下着が入るネットに多量のリンゴ断片が詰め込まれた見た目はちょっと微妙だが、お肌にはとても良いはず・・・(穂香ほのか(大)のお肌がツヤツヤになったらいいね)・・・と念をかけ、リンゴ詰め込み済ネットを浴槽にぽちゃりした。

 

 ☆



 穂香ほのか(大)は、リンゴ風呂の効能ページを調べたのか、30分くらいはお風呂に浸かろうよと提案してきた。

「私は、アールグレイ・リキッドのソーダ割りよ。香りつけにはブランデー♪」


(あらら・・・)

 穂香ほのか(大)が用意したステンレスの丸盆の上のコップの中身は、ブランデーティーソーダということらしい。わたしの三十路脳にも懐かしいシュワシュワ飲料である。懐かしさに心がうふふな気分になるが、

「イモウトは、ほうじ茶だわ~」

と、わたしは未成年な身体にも三十路な思考回路にも親和的なチョイスをして、ブランデーティーソーダの横にほうじ茶を置いた。


 丸盆を手にした穂香ほのか(大)と共に浴室に向かう。わたしの手には、穂香ほのか(大)のタブレット(防水お風呂仕様)。

 

 ふたりで浴槽に入り、ゆっくりと肌にリンゴ成分を吸収させていく・・・お肌の曲がり角一歩手前の穂香ほのか(大)と、幾分か乾燥肌な中2ボディのわたしの潤い成分補充タイムである。ふぃ~っ。

 


 ブランデーティーソーダをクピりとした穂香ほのか(大)が、

「それで、イモウトよ。何を調べるのだい」

とタブレットに視線を向けた。


 わたしは、わたしの中の謎ワードについて思っているところを話しはじめた。昨日・今日は穂香ほのか(大)と一緒であまり暇はなかったけれども、一昨日は部屋にこもって謎ワードのことを悶々と考えてはいたのだ。お風呂でリラックスタイムついでに、穂香ほのか(大)を巻き込み、謎ワード解明の取っ掛かりを掴めたらいいな。


「イラブタンって、おそらくは伊良部島にまつわる何かなわけでしょ?」

 わたし達のミカ校があった島、伊良部島。

「となると、サドガタンはやっぱり佐賀県か佐渡ヶ島あたりにまつわる何かなんだろうねと想像するとして・・・」


 わたしは、佐渡金銀山の世界遺産ページをタブレットに表示させた。

「人道的ゴールドラッシュプロジェクト。これはわたしの勘なんだけれど、宮古島諸島が転移した先に、佐渡ヶ島と関わる何があって・・・という話じゃないかなぁとやっぱり思えているのよ」


 そう続けたわたしに、穂香ほのか(大)は、「う~ん」と考え込む。


「私は佐賀の何かっていう気がするわね。例えば、金サガ、食べごろギュギュッとにちなんで・・・食糧を人道的に増産しちゃえなプロジェクトとか?」


 金サガなんて、佐賀県民はもちろん、ネットでちょっと調べれば、金曜日の佐賀の情報番組なことわかるからねぇ・・・金曜日とゴールドはちょっと結びつかないんじゃぁ・・・なんて指摘は、佐賀県民として小学校を卒業した穂香ほのか(大)に説明する必要はないわよね。


 わたしはそう判断して、佐渡ヶ島金山仮説を述べていく。

「もちろん、現代日本では佐渡ヶ島に黄金ゴールドは出ないわよ。・・・だけれども、ミカ校のみんなが室町時代とか鎌倉時代とかに転移していたら、佐渡で金を掘り放題なわけでしょ・・・だいたい、わたしはあっちでは巫女姫か何からしいけど、姫の身分が存在する社会は・・・まぁ、MAX江戸時代までなわけじゃない?」

 わたしはほうじ茶をくピリとして、穂香ほのか(大)を見た。


 穂香ほのか(大)は、週末に朝からのハイテンションでエネルギーが尽きつつあるのかポワンとした顔のまま。まぁ、わたしの記憶でも柏の葉はハイケミカルでの研究者見習いライフ、割とハードモードだったしね。

 今やわたしの代わりに働いてサラリーを稼いでくれているも同然の穂香ほのか(大)に、心の中でわたしは(お疲れ様)と言ってから、考えを前に進める。


 分かっていること。BMIと今の外見からして、体重9kg増は異常。もちろん、握力250kg超えも。二階堂先輩が言うように、これは未来の超テクノロジーのおかげなのかもしれない。けれども、太古の神の超絶した何かなど別の可能性もある。

 佐渡ヶ島金山のイロハ的なページを眺め終えたわたしはそう思えてきた。

 

 すでに、ブランデーティーソーダを飲みほしポワン継続中の穂香ほのか(大)を前に、

「何にせよ、霊長類の高みを目指していたかのようなわたしの身体は、ミカ校のみんなにたどり着くための何かなのよね」

と呟いた。


 穂香ほのか(大)がポワンとしたままだったので、「そろそろ時間だね」と声をかけて、お風呂タイムは終わりにした。

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